雇われオメガとご主人様

筍とるぞう

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第五十三話 君の前では・1

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□■□

「シグレさん、もう少しでベッドです……っ」


「ん……セイラ、ごめん……ね」


「何言ってるんですかっ……使用人として、こんなの……当然ですっ……!」


どうにかこうにか、僕はシグレさんを抱えてベッドまで辿り着いた。

といっても、さすがに持ち上げる事は出来なかったので、半分床を引きずるようにして運んだのだけれど。

幸い、シグレさんも朦朧とではあるけれど意識があったので、ふらつきながらも自力で歩いてくれたから助かった。

やはり、自分よりも背が高く、筋肉もしっかりついている男性を運ぶには、それなりの労力が要ると分かった。

というか、シグレさんぐらいスマートな人なら軽く運べるぐらいに、僕もなりたいものだ。


「着きましたよ。座れますか?」


「ん、大丈……っ」


「あっ……!」


瞬間、倒れそうになったシグレさんを助けようと腕を掴んだ僕は、そのまま一緒にベッドへダイブしてしまった。


「……っすみませ……」


「セイラ……ありがと」


「ひゃ……っ」


シグレさんに覆いかぶさるように倒れた僕の身体はそのまま抱き締められ、長い指先で耳元を擽られる。


「んっ、や……シグレさん、ダメ……です……んっあ……!」


手から逃れようと身を捩れば、今度は熱い吐息が首筋を掠め、僕は堪らず声をあげる。

シグレさんは長い睫毛を伏せ、甘えるように僕の項に鼻先をつけてため息を漏らす。

今日は家から出ないので、寝る時用の柔らかいタイプのチョーカーを装着していた為、吐息がダイレクトに肌に伝わり、僕はビクンと肩を竦めた。


「はぁ……このタイミングで風邪ひくなんて、プロとしてだめだよなー……セイラ、癒してくれる?」


「え、ええ……っ!?」


「ふふ、冗談。セイラにうつったらいけないから、もう離れないとな……」


「……っは、はい!今、どきます……っ」


もう心臓はバクバクしているし、ちょっとだけエッチな展開を期待してしまったので、僕は顔を真っ赤に染め上げつつもベッドから降りた。


(はぁ、ドキドキしちゃった……)


乱れた服を整えていると、ベッドから手が伸びてきて、そっとシャツの裾を掴まれクイクイと引っ張られる。


「……?どうしました?」


「ごめん、少し喉が渇いたんだ。何か飲み物を持ってきて貰える?」


「あ……!はい、すぐに用意しますね!待ってて下さい」


「ありがとう、セイラ」


シグレさんは僅かに微笑み、僕のシャツの裾にそっとキスを落とした。


「……っ」


「ふふ、これなら風邪、うつらないね」


ちょっと冗談ぽく言うシグレさん。

確かにシャツの裾なら風邪はうつらないかもしれないけれど、これ以上ドキドキさせないでほしい。

僕は理性を呼び戻す為にも、なるべく平静を装って言った。


「も、もう……少しだけ待ってて下さい。白湯とスポーツドリンク、持ってきますから」


「ああ、いいね。待ってるよ」


そしてようやく、シャツの裾から手が離され、僕はキッチンへと急いだ。

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