雇われオメガとご主人様

筍とるぞう

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第五十二話 嫉妬・2

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(シグレさん……なんか、すごく楽しそうに打ち合わせしてる)


あんな風にシグレさんが笑う声は、初めて聞くかもしれない。

僕は気になって、そっとリビングを覗いた。


(わ……)


そこには、どこか余所行きの顔をしたシグレさんがいて、僕は思わず目を見張る。


(お仕事で話す時は、ああいう感じなんだ……)


今見える表情も、普段は見られないものだ。


(かっこいい……)


今のシグレさんは、原稿を書いている時ともまた違った魅力を放っている。

しかしながら、あの綺麗な担当さんはその顔を沢山知っているのかと思うと、ちょっと妬けてしまう。


(いいな。仕事中のシグレさんの事、僕も知りたい)


そう思いながら眺めていると、なんだかどんどん気になってしまい、見るのをやめられなくなってしまった。

つい食い入るように見ていると、シグレさんがチラリとこちらを見た。


(……!)


しまったと我に返り、僕は咄嗟に身を引いて隠れる。


(どうしよう、見てたのバレちゃった)


けれど、シグレさんが話終える様子はなく、まだまだやり取りは続いているようだった。


(まだ始まったばかりだもんね。うぅ、気になるけど、今は我慢……!邪魔しないよう、僕も仕事に集中しなきゃ)


そう、気にしていても仕方がないし、シグレさんの邪魔になってしまってはいけない。

知りたくなる気持ちをどうにか抑え込み、僕は米研ぎの続きに取り掛かったのだった。


・・・


リモートでの打ち合わせは1時間ほどで終了したらしく、リビングからパソコンを片付ける音が聞こえてきた。


(あ、終わったのかな?)


まだキッチンに居た僕は、ひょいとリビングを覗いた。

すると、シグレさんはコーヒーを片手に、ちょうど一息ついたところだった。


「あ、セイラ。終わったよ」


「あっ……あの、お疲れ様です……!」


打ち合わせの様子を覗き見してしまった事もあり、おどおどしながら言うと、シグレさんは微笑みつつこちらへやって来た。

そして、僕の頭にポンと手を乗せて悪戯っぽく言う。


「ふふ、セイラもお疲れ様……探偵さん?」


「……!」


探偵さんとは、おそらく覗き見していた僕の事だろう。

一気に恥ずかしくなり、僕は顔を真っ赤にしてペコペコと頭を下げた。


「すっ、すみません!覗くつもりは無かったんですが、その……どうしても、気になってしまって……」


「え?ああ、そういうことか」


咄嗟の言い訳も思い付かず正直に言うと、シグレさんは納得した表情を浮かべた。


「もしかして、担当さんの事が気になった?」


「……はい」


「ふふっ」


「え?」


小さく笑わたので顔を上げると、ぐいっと腰元が引き寄せられ、あっという間に腕の中に抱き締められてしまった。


「そんな風に嫉妬してくれるなんて、嬉しいな」


「しっ……嫉妬、なんて……っ」


「んん?嫉妬だよね。可愛い、セイラ」


「あっ、や……っ」


カプリと耳の縁を食まれ、肩がビクッと跳ねあがる。

本当に、耳ってなんでこんなにゾクゾクするんだろう。

強い刺激に、もう腰が砕けそうだ。

涙目で見上げると、パチリと目が合った。


「あ……」


「セイラ……あー、ダメだ。これからまだ仕事しなきゃならないのに……けほっ、こほ」


「……!シグレさん、大丈夫ですか?」


そうだ、今日シグレさんは体調がすぐれないのだから、一刻も早く休ませなければならないのに、こんな事をしている場合ではない。

離れなければと、僕は胸元を押し返した。

すると次の瞬間――

シグレさんの身体が僕の方へぐらりと倒れてきた。


「――シグレさん!?」


「う……」


「す、すごい熱……!」


額に手を当てた僕は、その熱さに息を呑んだのだった。

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