雇われオメガとご主人様

筍とるぞう

文字の大きさ
上 下
45 / 98

第四十五話 気になる人・2

しおりを挟む
(ふぅ……ラブラブって、こういう事をいうのかな)


玄関で一人、熱くなった頬をパタパタ仰いで冷ます。

それから「よしっ」と気を取り直して、僕は部屋の戸締りを確認しにリビングへ向かった。


「ベランダは、閉まってる。あとはキッチンとベッドルームと……」


一部屋ずつ漏れのないよう確認し、全ての戸締りを万全にすると急に疲労感が襲ってきて、僕はベッドへと急いだ。

マットに腰を下ろすと安堵感に包まれ、そのまま横になり目を閉じる。


(はぁ……やっぱり、発情期は体力落ちるな。後でまた抑制剤、飲まなきゃ)


珍しく一人になった僕は、もっと寂しさを感じたり、一人で発情してしまうかもと懸念したりしていたのだけれど、それよりも疲労が勝り、パタリと深い眠りについたのだった。


・・・


「んー……」


目を覚ますと、時刻は先程より一時間ほど進んでいた。


(一時間ぐらい寝てたんだ……そうだ、抑制剤飲まないと)


本当なら、抑制剤を飲んでから寝た方が良かったのだけれど、その前に寝落ちしてしまったせいで、先ほどより症状が悪化している。

僕はゆっくりと身を起こすと、立ち上がってキッチンへ急いだ。


(抑制剤は……)


いつもの引き出しを開けると、そこには僕の分の抑制剤が、透明な袋に沢山用意されていた。


(あ、シグレさん、病院で貰ってきてくれたんだ)


発情期前に見た時は、もう少し量が少なかったと思うので、おそらく、僕の発情期に合わせて貰ってきてくれたのだろう。

いつも影でしっかりと気を遣ってくれるシグレさんに、じわじわと感謝の気持ちが沸いてくる。


(シグレさん……大好きです)


抑制剤を二錠、包装シートから取り出し、コップに水を注ぎながらシグレさんの事を想う。

そして、抑制剤を口に含もうとしたその時、シンクの端に何かあるのを視界の端に捉えた。

なんだろうと何気なく見てみると、それは一枚のメモだった。


(これは……)


メモには知らない誰かの名前と、スマートフォンの番号が書かれていた。

更にその下には、『キス止まり? エドナ・アロシュ』と走り書きされている。


(これ……シグレさんの字、だよね?エドナって、女の人の名前……?)


そう思った瞬間、全身から血の気が引いていくような感覚になり、僕はメモから目を逸らした。

考えたくないけれど、女性の名前と連絡先、それに……キス止まり?とは、どういうことだろう。

字の感じからして、おそらくシグレさんの字だとは思うけれど、シグレさんは普段から綺麗な字を書く人だ。

もし、このメモを書いたのが女性で、その人の字が綺麗だとするなら、シグレさんの字と見分けるのは割と難しい気もする。

(って、ちょっと待って……!それじゃあ、このエドナって人がメモを書いた可能性もあるって事に……)


そう考えると、不安はより一層大きくなってしまった。

よからぬ妄想が広がってしまいそうになり、僕は今一度冷静になろうと、頭を横に振って気を取り直す。


(き、きっとお仕事の事だよね。シグレさん小説家だし……そうだ、キスシーンとかで、担当さんと相談するってことかも!)


我ながら、正しい答えに辿り着いた気がして、ホッと胸を撫でおろす。

けれど、それなら『キス止まり?』なんて、意味深な表現で書くだろうか。

もし話し合いをするというのなら、『キスシーンの事で相談』とか『キスシーンの件で』とか、もう少し仕事っぽい言い回しになる気もする。


(キス止まり……)


せっかく一安心したと思ったのに、また振り出しに戻ってしまい、僕は深いため息をついたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スノードロップに触れられない

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照
BL
*表紙* 題字&イラスト:niia 様 ※ 表紙の持ち出しはご遠慮ください (拡大版は1ページ目に挿入させていただいております!) アルファだから評価され、アルファだから期待される世界。 先天性のアルファとして生まれた松葉瀬陸真(まつばせ りくま)は、根っからのアルファ嫌いだった。 そんな陸真の怒りを鎮めるのは、いつだって自分よりも可哀想な存在……オメガという人種だ。 しかし、その考えはある日突然……一変した。 『四月から入社しました、矢車菊臣(やぐるま きくおみ)です。一応……先に言っておきますけど、ボクはオメガ性でぇす。……あっ。だからって、襲ったりしないでくださいねぇ?』 自分よりも楽観的に生き、オメガであることをまるで長所のように語る後輩……菊臣との出会い。 『職場のセンパイとして、人生のセンパイとして。後輩オメガに、松葉瀬センパイが知ってる悪いこと……全部、教えてください』 挑発的に笑う菊臣との出会いが、陸真の人生を変えていく。 周りからの身勝手な評価にうんざりし、ひねくれてしまった青年アルファが、自分より弱い存在である筈の後輩オメガによって変わっていくお話です。 可哀想なのはオメガだけじゃないのかもしれない。そんな、他のオメガバース作品とは少し違うかもしれないお話です。 自分勝手で俺様なアルファ嫌いの先輩アルファ×飄々としているあざと可愛い毒舌後輩オメガ でございます!! ※ アダルト表現のあるページにはタイトルの後ろに * と表記しておりますので、読む時はお気を付けください!! ※ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

たしかなこと

大波小波
BL
 白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。  ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。  彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。  そんな彼が言うことには。 「すでに私たちは、恋人同士なのだから」  僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

お世話したいαしか勝たん!

沙耶
BL
神崎斗真はオメガである。総合病院でオメガ科の医師として働くうちに、ヒートが悪化。次のヒートは抑制剤無しで迎えなさいと言われてしまった。 悩んでいるときに相談に乗ってくれたα、立花優翔が、「俺と一緒にヒートを過ごさない?」と言ってくれた…? 優しい彼に乗せられて一緒に過ごすことになったけど、彼はΩをお世話したい系αだった?! ※完結設定にしていますが、番外編を突如として投稿することがございます。ご了承ください。

処理中です...