41 / 98
第四十一話
しおりを挟む
□■□
(ん……)
ぼんやり目を覚まし、時計に目をやると、もう朝の五時を回っていた。
(もう朝……)
まだボーッとする意識の中、僕は隣に温もりを感じ、その胸に顔を埋める。
(シグレさん……今日は隣に居てくれたんだ)
今、シグレさんは忙しい身なので、僕が寝ている間にデスクへ行ってしまう可能性は十分にある。
けれど、シグレさんはまだ無防備な格好のまま、僕に腕枕をしてくれていた。
(……幸せ……)
逞しい胸板にすり寄り、僕はうっとりとα特有のフェロモンを堪能する。
発情期なのも忘れて深く息を吸い込むと、甘い誘惑の匂いが鼻の奥に届き、ズクンと身体が疼く。
(……っ、いけない、抑えないとまた辛くなる……っ抑制剤は……)
一気に息が上がり、僕は慌てて起き上がった。
そしてサッと辺りを見渡すと、サイドテーブルの上に二錠、抑制剤が置いてあるのが目に留まる。
そのすぐ横には、昨日シグレさんが用意してくれたオレンジジュースが、まだコップに半分以上残っていた。
(オレンジジュースで飲めば、いいよね)
本当は水の方が良いのだが、今は急を要するので、オレンジジュースで飲むことにする。
「は、は…………っ」
シグレさんを起こさないよう、徐々に荒くなる息を抑えつつ、抑制剤に手を伸ばす。
と、その時、掛布団がもそりと動き、腰元に腕が回された。
「……っ、シグレさん!?すみません、起こしちゃいましたか?」
「んー……おはよう、セイラ……」
(ひゃっ、擽ったい……っ)
サラサラの前髪が肌を撫で、僕は思わず肩を竦めた。
その拍子に、持っていた抑制剤が床におちてしまい、僕は慌てて拾おうと床に手を伸ばす。
もう少しで指先が届く……と思ったその時、ぐいっと身体がベットに引き上げられた。
「あっ……」
「セイラ、どうしたの?ベッドから落ちちゃうよ?」
「あ、あの、違うんです。抑制剤を飲もうとしたら、落としちゃって……」
落としたのは半分ぐらいシグレさんのせいだけれど、それは黙っておく。
しかし、シグレさんはちゃんと分かっていたようで、少し悪戯っぽく笑った。
「ふふ、ごめんね。俺のせいかな……よっ、と」
「あ……」
言いながら、シグレさんは長い腕を下へ伸ばし、床に落ちていた抑制剤を拾いあげてくれた。
「はい、どうぞ」
「あ……すみません」
申し訳なく思いつつ抑制剤を受け取ろうとすると、なぜか、シグレさんはひょいと抑制剤を取り上げるようにして僕の手から遠ざけ、ニヤリと笑みを浮かべた。
「そうだ、忘れてたよ。今度は俺がセイラに飲ませてあげるんだった」
「え……」
ニッコリと笑みを浮かべるシグレさん。
僕はドキリとして目を見開いた。
(ん……)
ぼんやり目を覚まし、時計に目をやると、もう朝の五時を回っていた。
(もう朝……)
まだボーッとする意識の中、僕は隣に温もりを感じ、その胸に顔を埋める。
(シグレさん……今日は隣に居てくれたんだ)
今、シグレさんは忙しい身なので、僕が寝ている間にデスクへ行ってしまう可能性は十分にある。
けれど、シグレさんはまだ無防備な格好のまま、僕に腕枕をしてくれていた。
(……幸せ……)
逞しい胸板にすり寄り、僕はうっとりとα特有のフェロモンを堪能する。
発情期なのも忘れて深く息を吸い込むと、甘い誘惑の匂いが鼻の奥に届き、ズクンと身体が疼く。
(……っ、いけない、抑えないとまた辛くなる……っ抑制剤は……)
一気に息が上がり、僕は慌てて起き上がった。
そしてサッと辺りを見渡すと、サイドテーブルの上に二錠、抑制剤が置いてあるのが目に留まる。
そのすぐ横には、昨日シグレさんが用意してくれたオレンジジュースが、まだコップに半分以上残っていた。
(オレンジジュースで飲めば、いいよね)
本当は水の方が良いのだが、今は急を要するので、オレンジジュースで飲むことにする。
「は、は…………っ」
シグレさんを起こさないよう、徐々に荒くなる息を抑えつつ、抑制剤に手を伸ばす。
と、その時、掛布団がもそりと動き、腰元に腕が回された。
「……っ、シグレさん!?すみません、起こしちゃいましたか?」
「んー……おはよう、セイラ……」
(ひゃっ、擽ったい……っ)
サラサラの前髪が肌を撫で、僕は思わず肩を竦めた。
その拍子に、持っていた抑制剤が床におちてしまい、僕は慌てて拾おうと床に手を伸ばす。
もう少しで指先が届く……と思ったその時、ぐいっと身体がベットに引き上げられた。
「あっ……」
「セイラ、どうしたの?ベッドから落ちちゃうよ?」
「あ、あの、違うんです。抑制剤を飲もうとしたら、落としちゃって……」
落としたのは半分ぐらいシグレさんのせいだけれど、それは黙っておく。
しかし、シグレさんはちゃんと分かっていたようで、少し悪戯っぽく笑った。
「ふふ、ごめんね。俺のせいかな……よっ、と」
「あ……」
言いながら、シグレさんは長い腕を下へ伸ばし、床に落ちていた抑制剤を拾いあげてくれた。
「はい、どうぞ」
「あ……すみません」
申し訳なく思いつつ抑制剤を受け取ろうとすると、なぜか、シグレさんはひょいと抑制剤を取り上げるようにして僕の手から遠ざけ、ニヤリと笑みを浮かべた。
「そうだ、忘れてたよ。今度は俺がセイラに飲ませてあげるんだった」
「え……」
ニッコリと笑みを浮かべるシグレさん。
僕はドキリとして目を見開いた。
1
お気に入りに追加
210
あなたにおすすめの小説
スノードロップに触れられない
ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照
BL
*表紙*
題字&イラスト:niia 様
※ 表紙の持ち出しはご遠慮ください
(拡大版は1ページ目に挿入させていただいております!)
アルファだから評価され、アルファだから期待される世界。
先天性のアルファとして生まれた松葉瀬陸真(まつばせ りくま)は、根っからのアルファ嫌いだった。
そんな陸真の怒りを鎮めるのは、いつだって自分よりも可哀想な存在……オメガという人種だ。
しかし、その考えはある日突然……一変した。
『四月から入社しました、矢車菊臣(やぐるま きくおみ)です。一応……先に言っておきますけど、ボクはオメガ性でぇす。……あっ。だからって、襲ったりしないでくださいねぇ?』
自分よりも楽観的に生き、オメガであることをまるで長所のように語る後輩……菊臣との出会い。
『職場のセンパイとして、人生のセンパイとして。後輩オメガに、松葉瀬センパイが知ってる悪いこと……全部、教えてください』
挑発的に笑う菊臣との出会いが、陸真の人生を変えていく。
周りからの身勝手な評価にうんざりし、ひねくれてしまった青年アルファが、自分より弱い存在である筈の後輩オメガによって変わっていくお話です。
可哀想なのはオメガだけじゃないのかもしれない。そんな、他のオメガバース作品とは少し違うかもしれないお話です。
自分勝手で俺様なアルファ嫌いの先輩アルファ×飄々としているあざと可愛い毒舌後輩オメガ でございます!!
※ アダルト表現のあるページにはタイトルの後ろに * と表記しておりますので、読む時はお気を付けください!!
※ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

たしかなこと
大波小波
BL
白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。
ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。
彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。
そんな彼が言うことには。
「すでに私たちは、恋人同士なのだから」
僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。

男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。
近況ボードをご覧下さい。

お世話したいαしか勝たん!
沙耶
BL
神崎斗真はオメガである。総合病院でオメガ科の医師として働くうちに、ヒートが悪化。次のヒートは抑制剤無しで迎えなさいと言われてしまった。
悩んでいるときに相談に乗ってくれたα、立花優翔が、「俺と一緒にヒートを過ごさない?」と言ってくれた…?
優しい彼に乗せられて一緒に過ごすことになったけど、彼はΩをお世話したい系αだった?!
※完結設定にしていますが、番外編を突如として投稿することがございます。ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる