雇われオメガとご主人様

筍とるぞう

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第三十話 一緒に

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”一緒に過ごしたい”

その言葉にドキリとする。


シグレさんは僕の身体を抱いたまま、足早にベッドへ向かう。

そして、いつもより荒々しくベッドに押し倒されると、強引に唇を奪われた。


「……っ、ん、は……っ」


息も出来ないほど深く、熱いキスに、僕は必死に応えていく。


「ん、ぁ……シグレさ……っ待っ……」


「待てないよ……抑制剤も切れた。セイラのせいだよ?」


「そ、んな……っあ、っ」


ふいに、シャツの裾から手が差し込まれて、僕の身体はビクンッと反応してしまう。

シグレさんはもう片方の手で、僕の首に巻かれているチョーカーに触れた。


「これ……外しちゃダメかな?」


「そ、れは……」


ドキリとした。

僕はシグレさんが好きだ。

もうその気持ちに嘘はないだろう。

けれど、このまま項を噛まれて、番になっても良いのだろうか。

Ωにとって、番になるかどうかは生死を掛けた選択になると言っても大袈裟ではない。

だから、いくら彼の事を好きでも、軽々しく項を差し出せないという事実は無視できない。


もどかしい気持ちを抱えつつ、僕はシグレさんを見つめた。


「僕……シグレさんが好きです。この気持ちは本物です……けど、番になるのは、もう少しだけ待って、くれませんか……?」


本当は僕だって、今すぐにでも項を噛んで貰いたいという欲求はある。

けれど、今は発情期だし、ただでさえ理性が効かない状態での判断は、いかがなものだろう。

仮に、もし今チョーカーが外されて、このままシグレさんとセックスに至るのならば、もうお互いに理性なんて効かないだろう。

気持ちよくなって、項を噛まれて、あっという間に番が成立してしまう。


(気持ちは本物、だけど……)


僕はなるべく心を落ち着けて、もう一度自分の心と向かい合う。


――そうだ……もうN高校で出会った彼の事は、思い出として割り切る事が出来た筈――


(……っ)


思った瞬間、なぜかズキリと胸が痛む。

記憶の中の彼は、もう顔もろくに覚えていないというのに、何がこんなにも引き留めるのだろうか。


(なんで……)


少し混乱してしまい、僕は手をぎゅうっと握りしめた。

シグレさんが大好きだけれど、やはり、今回の発情期が終わるまでは堪えた方が良いのか……。


僕はなんだか切ない気持ちになり、シグレさんの答えを待った。

部屋は未だ、沈黙に包まれている。


(シグレさん……お願い)


祈るように俯いていると、頭にポンと大きな手が乗せられた。

顔を上げると、優しい眼差しが僕を見つめていた。

そして顔が近付き、チュッと軽いキスをされる。


それからシグレさんは短く息を吐き、苦笑を浮かべて言った。


「そんな顔をされたら、強引には出来ないな」


「シグレさん……すみません」


せっかく想いが通じたのに、残念な気持ちで僕は再び俯いた。

すると、長い指が僕の髪を優しく割くように撫でていく。

くすぐったくて肩を竦めると、シグレさんはクスッと笑みを零した。


「分かってる、Ωにとっては凄く大切な選択だからね。今は我慢するよ。でも……」


「……?」


首を傾げると、シグレさんは艶めいた瞳で僕を見つめ、耳元に唇を寄せて囁く。


「今夜はセイラを独り占め、させてくれる?」


「……っ」

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