雇われオメガとご主人様

筍とるぞう

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第二十八話 お買い物でラブラブ

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スーパーに着くと、シグレさんは買い物籠を手に取り、僕を促した。

まずは僕の発情期に必要なものから見ていくことに。


「ええと、まずは消臭剤だよね。それから……あ、ティッシュも多めに買っておいた方がいいかな」


「あ、あの、はい……っ」


なんだか、こうして確認されると恥ずかしい。

けれど、必要なことは間違いないし、僕は安くて沢山枚数が入っている箱テッシュに手を伸ばした。

すると、やんわりと手を掴まれ止められる。


「待って、そんな安物じゃ、セイラの身体に悪いよ。こっちの、もっと柔らかくて肌触りの良い方にしよう。ほら、これなら質もいいし、安心して使えるよ」


「え、え……!?あの、でも、結構沢山消費すると思いますし、こっちので大丈夫……」


言いながら、顔が熱くなる。

発情期だから仕方ないのだけれど、性処理でティッシュを沢山消費する、だなんて……ふつうは自己申告しないだろう。

けれど、シグレさんは僕をからかったりせずに続ける。


「ダメだ。これは主人からの命令だよ、セイラ?」


「う……わ、分かりました……」


高級ティッシュの方を強く勧められ、渋々頷くと、シグレさんは満足気に頷いて、高そうな箱テッシュを買い物カゴへ入れた。


(わ、高い……!)


密かに値段を確認すると、通常の物よりはるかに高い値段で驚いた。

しかも、シグレさんはそれを何個もポイポイとカゴに入れていく。


(こんな高級なの、僕の発情期に使っていいなんて……)


堪らなくなり、僕は前を歩くシグレさんのシャツの裾をきゅっと掴んだ。


「あの……っシグレさん」


「ん?あ、他にも欲しい物あった?」


「そうじゃなくてっ……あの、ありがとうございます……」


「え……」


まっ赤になりながらもお礼を伝えると、シグレさんの動きがピタリと止まった。

どうしたのだろうと見上げると、シグレさんの顔も僕と同じく真っ赤に染まっていた。


「参ったな……」


シグレさんは気まずそうに口元を片手で覆い隠しながら、僕に背を向ける。


「あの、シグレさん……?」


「ごめん、ちょっと……はぁ、こんな場所で、あんまり可愛い事されると……困る」


「……っす、すみませ……っ」


僕は慌ててシャツの裾から手を離し、更に赤く染まった顔を俯けた。


すると――。


そのタイミングで、突如身体が強く疼き、僕はビクッと肩を揺らした。


「……っ」


これは……まさか、発情期が来た……?


「は、ぁ……っはぁ……」


間違いない、発情期の症状だ。

このままではマズい。

早く非難しないと、αやβにあっという間に気付かれてしまうだろう。


(シグレさんは……)


辺りを見渡すと、シグレさんは少し先の方で、置くタイプの消臭剤を二つ手に取り、見比べている。


「あの、シグレさ……」


手を伸ばした、その時。

いきなり背後から肩を掴まれ、棚の後ろへと引っ張っていかれる。

驚いて振り返ると、そこには、息を荒くした不格好な男が二人、いやらしい目つきで僕の全身を舐めまわすように見ていた。

男たちは声を潜めて言う。


「おい、お前、いい匂いするなぁー……え?もしかして、発情しちゃったのかぁ?」


「やっ……離して、くださ……っんん!」


僕は必死に抵抗し、振りほどこうともがくけれど、あっという間に口を塞がれてしまった。

そして、もう一人の男が僕の両腕を拘束し、にやりと笑みを浮かべた。


「へへっ、こんな時に一人とは、ついてなかったと思って諦めな」


その言葉に、僕は僅かに目を見開いた。


(この人たち、シグレさんと一緒に居た事には気付いてないんだ……)


だとすると、男達も油断しているだろう。

僕はどうにかシグレさんを呼ぼうともがく。

けれど、男はにやりと笑みを浮かべ、僕の首筋に鼻先をゆっくりと這わせてきた。


「っ……んっ、ん!」


気持ち悪い……なのに、敏感な身体は言う事をきかずに反応を示してしまう。

男は、すっかり立ち上がった僕の中心に目をやり、更に笑みを深めた。


「へっ、こりゃいいな……おい、このまま店の裏に行くぞ」


男はトーンを落としたまま言うと、もう一人の男と共に僕を囲うようにしてスーパーの外へ向かう。


(い、いや……っシグレさん……!)


大声を出そうと思うのに、がっちり口を塞がれていて声が出ない。

周りの人たちはというと、僕を助けるどころか、男たちと同じようにいやらしい目で僕を見ている。

この地域はビジネス街も多く、そこには有名な企業が揃っていたりもするので、人口としてはαが多い可能性はある。

とはいえ、比率はβの方が多いと思うのだけれど、おそらく、周りの雰囲気に飲まれてしまっているのだろう。

βはαほどΩの匂いに反応しないけれど、βにだって性欲はあるのだ。


(そんな……みんな、この匂いのせいで理性が効かなくなってるんだ……)


あまりにも絶望的な状況に、目の前が真っ暗になる。


(もう、ダメだ――)


脳裏にシグレさんの笑顔が浮かぶ。


(シグレさん……シグレさん、お願い、助けて……僕、シグレさん以外の人となんて……っ)




――絶対に嫌だ。




――ああ、そうか。


やっぱり僕は、シグレさんじゃないと、ダメなんだ。




……こんな状況になって気付くなんて。


僕は店の出口に連れていかれながら、ようやく自分の本心を認めた。

そして、自分でもあまり自覚が無かったのだけれど、急に何か吹っ切れたように力が入り、男の手を振り払って大きな声で叫んだ。


「シグレさん!助けてー……っ!!」


すると……


「セイラ!!そこか……!ちょっと通して、どいて!……セイラ!」


「シグレさん!」


群がっていた人混みを掻き分け、シグレさんがこちらへ走ってくる。


(来て、くれた……)


ただそれだけで、嬉しくて涙が溢れてくる。

駆け付けたシグレさんは、男の胸ぐらを引っ掴むと、鋭い目つきで睨みつける。


「おい、セイラを離せ」


「……っなんだ、お前……!?」


男は動揺しつつも僕を離さない。

それを見て、シグレさんは更に眉をひそめると、男に殴りかかった。


「離せと言ってるだろ……!!」


「ぐぁっ……!」


強烈な一撃を食らい、僕を押さえていたうちの一人が床に叩きつけられる。

それを見たもう一人の男が、シグレさんに反撃する。


「っのやろ!なにすんだ……」


しかし……


「がはっ!」


ガッシャーーーーン!


シグレさんの更に強烈なパンチをまともに食らった男は、ショッピング・カート置き場に雪崩れ込み、そのまま気を失ったのだった。

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