雇われオメガとご主人様

筍とるぞう

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第二十六話 隣に座る彼

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◆◇◆

テーブルには、僕の分のオレンジジュースとバウムクーヘンも用意され、一緒にカフェタイムとなった。

と、それは良いのだが……


(これは……)


シグレさんはなぜか、僕にソファーを勧め、自分も隣に腰を下ろした。

要するに、二人でソファーに座っているのだけれど……。


(ち、近い……!)


ソファーは男性が横になって眠れるぐらいの幅があるのに、なぜか肩がピタリとくっつくほど密着している。

この状況、決して嫌な訳ではないけれど、どうにも緊張してしまう。

僕はドキドキを隠しつつ、シグレさんをチラリと見上げた。


「あの……」


「ん?なに?」


「……っいえ!なんでも……っ」


目が合うと心臓が持たなくなりそうで、僕はパッと視線を逸らした。

と、その時、なにかデジャヴのように脳裏にある光景が浮かんでくる。


(え……?)


しかし、その光景はぼんやりとしていて、ハッキリどことは分からない。

でも、知っている。

この感じ……。

どこだろうか。


(えっと……)


気になって、僕は暫く無言でその光景について思い出そうと記憶を探る。

けれど、それ以上はどうしても思い出せない。


「セイラ?」


「……っ」


シグレさんに呼びかけられ、ハッとする。

その瞬間、先ほどの光景は更に遠のいてしまい、またどこかへいってしまった。


「どうかした?」


「あ、あの、いえ……なんでもないです」


「本当に?具合が悪かったらちゃんと言うんだよ?……というかセイラ、発情期はまだ大丈夫?前に、来月の後半と言ってたよね?」


「あ……」


そういえば、そろそろ来てもおかしくない時期だ。

今のところ落ち着いてはいるけれど、いつ来ても良いように準備しておいた方が良いかもしれない。

僕は改まってシグレさんの方を向き、言った。


「あの……っ僕、発情期はその、匂いとか、色々ご迷惑をおかけすると思いますので、今のうちに消臭剤とか、自分で買いに行ってきます……!」


「セイラ……」


消臭剤というのが恥ずかしくて、きゅっと目を瞑って肩を竦めていると、シグレさんはクスっと笑って僕の頭を撫でた。


「発情期前の危険な時期に、一人で外へ行かせるなんて、するわけないだろう?大丈夫、いつものスーパーに沢山売ってるから、用意しておくよ。他にも要る物は?メモしておくから言って」


「……っでも、それは」


「あ、セイラ?」


「んっ……」


唇に人差し指をぴとっと当てられ、封じられる。

上目遣いに見上げると、シグレさんはふふっと微笑んだ。


「もし気を遣うと言うなら、一緒に行こうか。他に買いたいものもあるし、セイラには荷物を持つのを手伝って貰おうかな」


「……!」


貴重な任務を言い渡され、僕は目を輝かせる。

それでこそ、使用人として役に立っているというもの。

唇から指先が離れると、僕はコクコクと頷いて見せた。


「ふふ、可愛いな。じゃあ、明日は一緒にショッピングで決まり。俺も少し歩かないと、身体が固まっちゃうからね」


そう言って、シグレさんはバウムクーヘンを一口食べた。




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