雇われオメガとご主人様

筍とるぞう

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第二十三話

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◆◇◆


そして――。


なんだかんだ、お昼過ぎから部屋の掃除に集中していたら、あっという間に時間が過ぎ、もうすぐ時計の針は15時を指そうとしていた。


(いけない……!お茶の準備しないと)


つい時間を忘れて片付けに没頭してしまっていたので、このままではお茶の時間に間に合わなくなってしまう。

僕は慌ててシンクで手を荒い、空の電気ポットに水を入れて、コンセントを繋ぎボタンを押す。


(えっと、後はお菓子の用意……確か冷蔵庫にいいものがあるってシグレさんが……)


僕はメモ帳を確認しながら、お菓子の準備に取りかかる。

メモ帳には"おやつは冷蔵庫の中にあるピンクの箱"と、自分の字で書かれていた。


(ふふ、シグレさんが言った通りにメモしたんだけど……なんか宝物探しみたいで楽しい。あ、これかな)


冷蔵庫を開けると目の前に薄いピンク色の箱があり、直ぐにそれだとわかった。

僕は早速箱を取り出すと、中身を確認する――これは、ゼリーだ。


(すっごい美味しそう……!)


箱の中には、ガラスの器に入ったゼリーが二つ、丁寧に入れられており、一つは生クリームとイチゴが乗っているもの、もう一つは、同じく生クリームと、みずみずしいメロンが乗っていて、どちらもとても豪華で上品なデザート……いや、僕から言わせれば、これはもはや作品と言っていいだろう。


(食べるの、勿体無いなぁ)


僕はゼリーを取り落とさないよう、慎重に箱から取り出してお盆に乗せ、スプーンを2つ用意する。

後は紅茶の準備が整えば完了だ。

と、その時、シグレさんの部屋から話し声が聞こえてきた。

おそらく、誰かと通話中なのだろう。

僕はあまり聞かないように気を付けながらお茶の準備を進め、ティーカップを食器棚から取り出すと、ティーバッグを開けて入れ、丁度沸いたポットのお湯を注いでいく。

するとその時、シグレさんが誰かとスマホで話しながら、部屋から出てきた。


「ええ、そうです……はい、今週中には……はい、じゃあまた……ええ、こちらからも連絡します。はい、はい」


頷きながら、最後にピッと通話終了ボタンを押すと、シグレさんはスマホをソファーの上へポンと投げ、僕の方へフラフラと近付いてきた。


「セイラ~……疲れたよー」


シグレさんは甘えた声で言いながら、後ろから僕をぎゅっと抱き締めた。


「わっ……!ふふ、シグレさん、お疲れ様です。もうお茶の準備が出来ますから、座っていて下さい。すみません、少し遅くなっちゃって……」


「んん~、いいよ。俺もやっと今落ち着いた感じだから。お、紅茶だ。アールグレイにしたの?いい香り……」


シグレさんは僕に抱き付いたまま、クンクンと紅茶の匂いを嗅いで嬉しそうに笑う。

そしてゆっくり僕を解放すると、手伝いを申し出てくれた。


「おやつの準備、手伝うよ。その方が早いでしょ」


「えっ!?い、いえ、そんな……!少しでも休んで下さい……っ」


「大丈夫。むしろ、セイラと一緒に居る方が癒されるし、俺がそうしたいの」


「そ……あの、すみません、では……」


すっかり押し切られてしまい、おずおずと了承すると、シグレさんはシンクに置いてあるトレーに手を伸ばす。


「いいよ、早くセイラとお茶したいしね。これ、もうあっちに運んでもいい?」


「あ……はいっ……!」


シグレさんは丁寧な手つきでティーバッグをカップから取り出すと、小皿の上に置いた。


(やっぱり、指長くて綺麗……)


つい、僕はシグレさんの美しい所作に見とれてしまう。

あの長くて少し骨張った指で、髪に触れられたり、身体に触れられたり、それから……


(……っ)


妄想の中で、綺麗な手が胸元や下半身に伸びていき、思わず息が漏れそうになる。

僕は慌てて首を横に振った。



「……セイラ?」


「あっ!?い、いえ!なんでも……っあの、僕はキッチンを片付けたらすぐに行きますので……!」


「?ん、かわった。じゃあ、先に行ってるからね」


「はい……!」


コクコクと頷き、シグレさんの後ろ姿を見送ると、僕はヘナヘナと床に崩れ落ちた。


(はぁ……もうやだ。シグレさんがαだから仕方ないけど……気をつけなきゃな)


熱くなった身体を冷ますように息を一つ吐き、僕は気を取り直して立ち上がると、軽くキッチン周りを片付けてからリビングへと急いだ。





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