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第十九話 ⭐︎イラストあり
しおりを挟む「……っ」
耳元で囁くように言われると、背筋がゾクゾクして息が上がってしまう。
まだベッドに入る前だというのに腰元は疼き始めてしまうし、僕は慌ててシグレさんの腕から逃れようとジタバタもがいた。
「あ……っシグレさん、離して……くださ……っ」
「ん? ダメだよ。これから、セイラは俺と一緒のベッドで寝るんだから」
「や、あんっ……!」
(や、やば……っ)
続けて耳元で囁かれると、甘い吐息に体が反応してしまい、つい変な声を出してしまった。
「ふふ、可愛い声。ほら、ベッドに入ろう。もう眠い」
「あ、あの……っわ!?」
戸惑いつつ振り返ろうとすると、それよりも早く、体がふわりと宙に浮く。
僕は驚きに目を見開いた。
「あ……っ」
気が付けば、僕の体は横抱きにされていた。
二日続けてお姫様抱っこをされてしまった。
(うぅ、また……っ恥ずかしい)
確かに、体重はそれほど重く無いかもしれないけれど、これ程まで簡単に持ち上げられると、男としてはちょっと複雑かもしれない。
と、そう思った矢先……。
「やっぱり、セイラは軽いな」
「……!」
ちょうど気にしていた事を言われ、カッと顔が熱くなる。
けれど、そんな僕にシグレさんはふわりと微笑み、ベッドまで連れて行く。
そして、フカフカマットの上に丁寧に降ろしてくれた。
「さぁ、着いたよ」
「あの……す、すみません……」
お姫様抱っこで運ばれた恥ずかしさはあるものの、やはり”ご主人様に運ばせてしまった”という意識が僕の中では根強い。
けれど、シグレさんは優しく微笑んで首を横に振った。
「ふふ、気にしないで。ああ、でも……そうだな」
「……?」
暫しの間があり、シグレさんが僅かに口の端を持ち上げる。
そして、ひょいと僕の顎に手をかけ、親指で唇をそっと撫でながら言う。
「今のタクシー代ってことで、何か報酬が欲しいなぁ」
「えっ……」
報酬と聞いて、思わずドキッとする。
それは、使用人として働くのか、それとも……。
(この雰囲気……も、もしかして……っ)
都合のいい妄想が広がりそうになり、僕は頬を赤らめた。
そんな僕を、シグレさんはまじまじと興味深そうに見つめている。
僕は顔を見られるのが恥ずかしくて、俯きがちに口を開いた。
「な……なんでしょう……報酬、って……」
「うーん、どうしようかなぁ……あ、あれがいいかも」
シグレさんは少し考えるようにしてから、何か思いついたらしく、パッと明るい表情を浮かべた。
それからベッドに手をつき、僕の身体の上にのしかかるような体勢になると、真剣な眼差しを向けてくる。
「……っ」
ギシリとベッドの軋む音がして、心臓が跳ね上がる。
こんな状況、どうしたっていやらしい妄想が広がってしまう。
だめだ、ここは冷静にならなければ。
そうだ……もしかすると、明日の僕の仕事量を増やすとか、そういう事かもしれない。
もしそうなら……不謹慎だけれど、少し残念に思ってしまう。
(って!僕は何を考えて……ああ、もう!)
僕は一人グルグルと葛藤しながらも、なるべく平静を装い、シグレさんと目を合わせないようにしながら尋ねた。
「な、なんでしょう。僕に出来る事なら、何でもします」
「なんでも、か。ふふ、それを言って良いのかな?」
「え?……あ」
気付いた時には、もう遅かったらしい。
シグレさんは悪戯っぽく笑うと、僕の耳元に唇を寄せる。
「じゃあ、耳貸して?」
そして、僕の耳にそっと、報酬の内容を囁いた。
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