雇われオメガとご主人様

筍とるぞう

文字の大きさ
上 下
18 / 98

第十八話

しおりを挟む
・・・

「えっと……」


シャワーで全身を流し、髪も洗ってサッパリした僕は、脱衣所で身体を拭き、以前シグレさんから教えてもらったルームウェアを探していた。


「……あ、これがいいかも」

言われた通り、棚の中には何セットかルームウェアがあった。

どれも綺麗にたたまれており、広げるのが申し訳なくなってしまう。

僕はそっと白黒のルームウェアのセットを取り出し、静かに棚の扉を閉めながら思い出した。




そう、それは夕飯の後、シグレさんと話していた時の事。

僕は持参した部屋着があるからと申し出たのだが、布は擦り切れているし、穴が空いていたりと、もう変え時な事は明らかだった。

なので、シグレさんはそれを見兼ね、自分のルームウェアを貸し出すと快く言ってくれたのだ。




と、そういう訳で、僕は有り難く思いながら、白い長袖Tシャツの袖に手を通していく。


(……わ、大きい)


サイズは当然、シグレさんに合わせたものなので、僕には少し大きかった。

丈が長く、膝の少し上ぐらいまで長さがある。

続いて、セットになっていた黒いパンツを広げ、足を通す。

これも僕には少し大き目で、履いてみると、足の甲が裾で少し隠れてしまった。


(ダボダボ……でも、柔らかくて着心地がいいな。それに……)


僕は白Tシャツの長い袖を、そっと鼻先に近付けて、くん……と匂いを嗅いでみる。


(シグレさんの匂いがする……)


微かにではあるけれど、僕には分かった。

柔軟剤の香りと共に感じる、微かな彼の甘い匂い。


「……」


……とても安心する。

これはシグレさんの匂いであると共に、α特有のあの匂いでもある。

だから、Ωである僕は、ほとんど本能的にこの匂いが好きなのだ。

しかも、ただ好きというよりは、執着に近いものを感じる。


(ちょっと……マズいかも)


危うさを感じ、僕は慌てて袖を離した。


そして、自分が変な気を起こさぬうちに脱衣所を出ると、シグレさんのいる部屋へと向かった。


……カチャリ。

なるべく静かにドアを開けたつもりだったけれど、シグレさんはすぐに気付いてこちらを振り向いた。


「セイラ、お風呂はどう……」


「あ、あの、ありがとうございました。すごくサッパリしまして、ルームウェアも……」


言いかけて、僕はシグレさんの視線が停止していることに気付く。

なんだろうと首を傾げると、シグレさんはハッとしたように口を開いた。


「……っああ、ごめんごめん。そうか、サッパリしたなら良かった。その……それ、似合うね」


シグレさんはチラリと僕の全身を眺めるように視線を動かすと、口元に手を添え、僅かに頬を染めた。

僕は”似合う”と言われたのが嬉しくて、思わず笑みを零した。


「えっ、ほ、ほんとですか?……ふふ、シグレさんのルームウェア、やっぱり僕には少し大きいです。でも凄く着心地が良くて……ありがとうございます」


ほんのり頬を赤く染めつつお礼を言うと、シグレさんは後ろ頭に手をやり、照れくさそうに僕に背を向ける。


「いや……うん」


それからコホンと咳払いをすると、僅かにこちらを振り向いて言った。


「そろそろ……原稿が一段落するから、少しだけベッドで休もうかな」


言いながら、シグレさんは椅子から立ち上がり、大きく伸びをする。


「あ……はい!あの、僕は外した方が良いですよね。リビングに居ますから……」


休むなら、僕が居たら邪魔になるだろう。

そう思い部屋を出ようとすると、優しく手首を捕まれ、ドキリとする。

振り返ると、熱を帯びた視線に捉えられた。


「いや、外さなくていい。セイラも一緒に、休もう?」


甘い誘いと共に、手の甲にチュッとキスを落とされる。


「……っ」


……こんなの、断れるΩがいるだろうか。


「……はぃ……」


僕は緊張で僅かに身を震わせながら、小さく頷いたのだった。


◆◇◆


その後、僕達はお互い気持ちを落ち着ける為にも、歯磨きやトイレ等の寝る準備をゆっくりと行った。


(ふぅ……)


先に終えた僕は、部屋へ向かう。

ドアを開けると、室内はオレンジ色の落ち着いた光を放つ間接照明のみが付けられており、なんだかムード満点になっていた。


(……う、わぁ……)


今、シグレさんは別室で着替えており、部屋には僕一人なのだけれど、どうにも落ち着かない。

この間接照明の明かりも、気持ちが落ち着くというよりは、雰囲気があり過ぎて意識してしまう。

僕は一人、部屋の真ん中に突っ立ったままシグレさんを待った。


暫くすると、ふいにドアがガチャリと開き、部屋着に身を包んだシグレさんがリラックスした様子で入ってきた。


「ああ、セイラ。ごめんね、待たせちゃったかな」


「あっ、いえ……!」


振り向くと、シグレさんがこちらへ迫って来たので、僕はドキリとして思わず背を向けた。


「……っ」


「セイラ?」


(な、なんか、シグレさん、いつも以上にカッコいい……)


シグレさんの部屋着はフード付きの黒いルームウェアなのだけれど、いつもの襟付きシャツを着ているイメージとは違って、これはまたラフでカッコ良いい。それに、ちょっと可愛い。

こんな魅力的な人(しかもα)と同じベッドで寝るのかと思うと、心臓がいくつあっても足りなさそうだ。


「ねぇ、セイラ……どうしたの?」


シグレさんの色っぽい声が耳元に響き、ふいに後ろから抱き締められる。


「シ……っグレ、さ……!」


「そんなに緊張しないで。大丈夫、ベッドに入ろう。明日も忙しいからね」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スノードロップに触れられない

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照
BL
*表紙* 題字&イラスト:niia 様 ※ 表紙の持ち出しはご遠慮ください (拡大版は1ページ目に挿入させていただいております!) アルファだから評価され、アルファだから期待される世界。 先天性のアルファとして生まれた松葉瀬陸真(まつばせ りくま)は、根っからのアルファ嫌いだった。 そんな陸真の怒りを鎮めるのは、いつだって自分よりも可哀想な存在……オメガという人種だ。 しかし、その考えはある日突然……一変した。 『四月から入社しました、矢車菊臣(やぐるま きくおみ)です。一応……先に言っておきますけど、ボクはオメガ性でぇす。……あっ。だからって、襲ったりしないでくださいねぇ?』 自分よりも楽観的に生き、オメガであることをまるで長所のように語る後輩……菊臣との出会い。 『職場のセンパイとして、人生のセンパイとして。後輩オメガに、松葉瀬センパイが知ってる悪いこと……全部、教えてください』 挑発的に笑う菊臣との出会いが、陸真の人生を変えていく。 周りからの身勝手な評価にうんざりし、ひねくれてしまった青年アルファが、自分より弱い存在である筈の後輩オメガによって変わっていくお話です。 可哀想なのはオメガだけじゃないのかもしれない。そんな、他のオメガバース作品とは少し違うかもしれないお話です。 自分勝手で俺様なアルファ嫌いの先輩アルファ×飄々としているあざと可愛い毒舌後輩オメガ でございます!! ※ アダルト表現のあるページにはタイトルの後ろに * と表記しておりますので、読む時はお気を付けください!! ※ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

たしかなこと

大波小波
BL
 白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。  ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。  彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。  そんな彼が言うことには。 「すでに私たちは、恋人同士なのだから」  僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

お世話したいαしか勝たん!

沙耶
BL
神崎斗真はオメガである。総合病院でオメガ科の医師として働くうちに、ヒートが悪化。次のヒートは抑制剤無しで迎えなさいと言われてしまった。 悩んでいるときに相談に乗ってくれたα、立花優翔が、「俺と一緒にヒートを過ごさない?」と言ってくれた…? 優しい彼に乗せられて一緒に過ごすことになったけど、彼はΩをお世話したい系αだった?! ※完結設定にしていますが、番外編を突如として投稿することがございます。ご了承ください。

処理中です...