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第五話
しおりを挟む階段を上り切ると一階のエントランスに着き、普通の自動ドアと、カギを使って開けるオートロック式の自動ドアを二回通って中に入る。
「えーと、ここがエントランス・ホールといって、ポストはそっちに……ここ、集合ポストがある」
「わかりました。シグレさんのお部屋のは?」
「俺の部屋のはここ、703号室。名前も表示されてるから、次からはもう分かる?」
「はい、大丈夫だと思います」
紹介されたポストは今までに見たことのない綺麗さで、扉の部分を開けると金属の良い音がした。
エントランス・ホールはとても広く、壁際にはお洒落なテーブルとソファーが置かれている。床は、大理石だろうか……照明に照らされて、まるで泉のように輝いている。
「綺麗ですね」
「本当? 嬉しいな……ほら、ここがエレベーター。これで七階まで上がるからね」
「はい、わかりました」
エントランス・ホールを進むと、そこにはエレベーターが有り、中は15名程は乗れそうな広さで、ドアは白く塗られている。
シグレさんに続いて乗り込むと扉が静かに閉まり、なんだかホッとため息が漏れた。
「セイラ、疲れたかい?」
心配そうな表情で、シグレさんは僕に尋ねる。その様子からは、本当に優しい人なのだという事がひしひしと伝わってくるようだった。
「いえ、別に……」
正直なところ、今日は慣れない手続きや、指導員の長い説明を聞いたせいで、眠気がすごい。
実は、シグレさんの車に乗っている時も寝落ちしそうだったのだが、初回から寝るわけにもいかず、我慢していたのだ。
「はは、セイラは分かりやすいね。部屋に着いたら少し休もう。慣れない事だらけだったろうから、温かい飲み物でも淹れてゆっくりしようね」
「あ……あの、初日からすみません……っありがとうございます」
申し訳なくて頭を下げると、ちょうどエレベーターのドアが開いた。
七階に着いたらしい。
「さ、お先にどうぞ」
「え……? あ、あの……っ」
シグレさんが、エレベーターの開くボタンを押したまま振り返って僕を促す。
こんな……レディーファーストみたいなこと、されたのは初めてかもしれない。
僕は促されるままにエレベーターを降りると、その場で立ち止まった。
すると後ろから、シグレさんが僕の肩にポンと手を置いた。
「俺の部屋はこっち。おいで」
「……っ」
急に触れられたせいで、僕はドキッとしてしまい、思わず身構える。
「おっと、ごめん」
「あ……っいえ……」
僕の反応に、シグレさんはパッと手を離すと、短いため息と共に呟いた。
「あー、ダメだな、俺……」
それから、改めてこちらを振り返り、苦笑しながら僕を促す。
「ごめんね。さ、行こう」
そう言って、シグレさんは僅かに肩を竦めると、真っ直ぐな通路を歩いていく。
僕はそんなシグレさんの姿を暫くボーッと見つめてから、ハッと意識を取り戻し、慌ててその背中を追った。
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