雇われオメガとご主人様

筍とるぞう

文字の大きさ
上 下
3 / 98

第三話

しおりを挟む
◇◆◇


あれから、話はトントン拍子に進み、シグレさんは契約書にサインをすると、僕を連れて施設を後にした。


「セイラ、本当に荷物はこれだけ?」

「はい、それだけです」


そう、僕の荷物はとても少なかった。

服は基本的に七着を着回しだったし、下着も同じく七着のみ。

趣味の物といえば、いつも読んでいたお気に入りの小説ぐらいで、後は抑性剤だの保険証だの、細々としたものばかりだ。


「鞄一つに収まるとはね……まぁいい。ほら、セイラはこっちに乗って」

「え、車……?」


乗ってと言われて前を見れば、そこには、よく磨かれた高級車が一台停められていた。


「そう、車で来たんだ。ここからだと、うちは少し遠いからね。電車でも行けるけど、もしかしたらセイラを連れて来るかもしれないと思って、車にしたんだ」

「そ、そう、だったんですか……」


てっきり、歩きで家まで行くのかと思っていたので、僕は少しだけ警戒してしまう。

このまま車で連れ去られ、いいようにされたりはしないだろうか。

すると、そんな僕の様子に気付いたのか、イケメン小説家はアハハと笑い、輝かしいまでの笑顔をこちらに向けた。


「そんなに警戒しないで?君とはちゃんと契約を交わした間柄だし、暫くは施設に君の事を報告しなければならない義務が俺にはあるんだ。それに、俺は君がΩだからって、変な事を言ったり、酷い事をしたりしないよ。約束する」


そう言って、シグレさんは僕の方に手を伸ばしてくる。


「……っ!?」


何かと思ってぎゅっと目を瞑ると、ふわりと頭を撫でられて、僕は恐る恐る目を開けた。


「…………」


無言で見つめると、頭からそっと手が離れていき、車のドアがガチャリと音を立てて開かれた。


「さぁ、良かったらどうぞ。セイラが怖いなら、無理に連れてはいかないよ。……どうする?」

「シグレさん……」


その姿から邪気のようなものは一切感じられなかった。

それに、どうしてだろう……

この人を見ていると、感じるのだ。

まだ初対面だというのに、どこかでもう会ったような、不思議な感覚を……。

だから……


「……大丈夫、です。宜しくお願いします」

「本当に?   ああ、良かった……!君にはお願いしたい仕事が沢山あるけど、それも少しずつ慣れていけばいいからね。さぁ、それじゃあ行こう」

「は、はい……っ」


緊張気味に返事をすると、シグレさんは僕の肩を軽く抱いて車内へと促した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スノードロップに触れられない

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照
BL
*表紙* 題字&イラスト:niia 様 ※ 表紙の持ち出しはご遠慮ください (拡大版は1ページ目に挿入させていただいております!) アルファだから評価され、アルファだから期待される世界。 先天性のアルファとして生まれた松葉瀬陸真(まつばせ りくま)は、根っからのアルファ嫌いだった。 そんな陸真の怒りを鎮めるのは、いつだって自分よりも可哀想な存在……オメガという人種だ。 しかし、その考えはある日突然……一変した。 『四月から入社しました、矢車菊臣(やぐるま きくおみ)です。一応……先に言っておきますけど、ボクはオメガ性でぇす。……あっ。だからって、襲ったりしないでくださいねぇ?』 自分よりも楽観的に生き、オメガであることをまるで長所のように語る後輩……菊臣との出会い。 『職場のセンパイとして、人生のセンパイとして。後輩オメガに、松葉瀬センパイが知ってる悪いこと……全部、教えてください』 挑発的に笑う菊臣との出会いが、陸真の人生を変えていく。 周りからの身勝手な評価にうんざりし、ひねくれてしまった青年アルファが、自分より弱い存在である筈の後輩オメガによって変わっていくお話です。 可哀想なのはオメガだけじゃないのかもしれない。そんな、他のオメガバース作品とは少し違うかもしれないお話です。 自分勝手で俺様なアルファ嫌いの先輩アルファ×飄々としているあざと可愛い毒舌後輩オメガ でございます!! ※ アダルト表現のあるページにはタイトルの後ろに * と表記しておりますので、読む時はお気を付けください!! ※ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

たしかなこと

大波小波
BL
 白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。  ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。  彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。  そんな彼が言うことには。 「すでに私たちは、恋人同士なのだから」  僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

お世話したいαしか勝たん!

沙耶
BL
神崎斗真はオメガである。総合病院でオメガ科の医師として働くうちに、ヒートが悪化。次のヒートは抑制剤無しで迎えなさいと言われてしまった。 悩んでいるときに相談に乗ってくれたα、立花優翔が、「俺と一緒にヒートを過ごさない?」と言ってくれた…? 優しい彼に乗せられて一緒に過ごすことになったけど、彼はΩをお世話したい系αだった?! ※完結設定にしていますが、番外編を突如として投稿することがございます。ご了承ください。

処理中です...