雇われオメガとご主人様

筍とるぞう

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第三話

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◇◆◇


あれから、話はトントン拍子に進み、シグレさんは契約書にサインをすると、僕を連れて施設を後にした。


「セイラ、本当に荷物はこれだけ?」

「はい、それだけです」


そう、僕の荷物はとても少なかった。

服は基本的に七着を着回しだったし、下着も同じく七着のみ。

趣味の物といえば、いつも読んでいたお気に入りの小説ぐらいで、後は抑性剤だの保険証だの、細々としたものばかりだ。


「鞄一つに収まるとはね……まぁいい。ほら、セイラはこっちに乗って」

「え、車……?」


乗ってと言われて前を見れば、そこには、よく磨かれた高級車が一台停められていた。


「そう、車で来たんだ。ここからだと、うちは少し遠いからね。電車でも行けるけど、もしかしたらセイラを連れて来るかもしれないと思って、車にしたんだ」

「そ、そう、だったんですか……」


てっきり、歩きで家まで行くのかと思っていたので、僕は少しだけ警戒してしまう。

このまま車で連れ去られ、いいようにされたりはしないだろうか。

すると、そんな僕の様子に気付いたのか、イケメン小説家はアハハと笑い、輝かしいまでの笑顔をこちらに向けた。


「そんなに警戒しないで?君とはちゃんと契約を交わした間柄だし、暫くは施設に君の事を報告しなければならない義務が俺にはあるんだ。それに、俺は君がΩだからって、変な事を言ったり、酷い事をしたりしないよ。約束する」


そう言って、シグレさんは僕の方に手を伸ばしてくる。


「……っ!?」


何かと思ってぎゅっと目を瞑ると、ふわりと頭を撫でられて、僕は恐る恐る目を開けた。


「…………」


無言で見つめると、頭からそっと手が離れていき、車のドアがガチャリと音を立てて開かれた。


「さぁ、良かったらどうぞ。セイラが怖いなら、無理に連れてはいかないよ。……どうする?」

「シグレさん……」


その姿から邪気のようなものは一切感じられなかった。

それに、どうしてだろう……

この人を見ていると、感じるのだ。

まだ初対面だというのに、どこかでもう会ったような、不思議な感覚を……。

だから……


「……大丈夫、です。宜しくお願いします」

「本当に?   ああ、良かった……!君にはお願いしたい仕事が沢山あるけど、それも少しずつ慣れていけばいいからね。さぁ、それじゃあ行こう」

「は、はい……っ」


緊張気味に返事をすると、シグレさんは僕の肩を軽く抱いて車内へと促した。


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