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打ち上げデート
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家に帰ってから数日後、奈緒子は寅にメールを送った。
『お久し振りです。戦い、一旦決着がつきました。打ち上げ考えておいてください。』
すぐに寅から返信があった。
『お疲れ様でした。今度のお休み、朝の8時からいかがですか?』
朝の8時!?打ち上げと言っていたから、てっきり遅い時間かと思ったが、遠出でもするのだろうか?『了解しました。』と返し、奈緒子は次の休みをドキドキしながら待っていた。
寅と約束の日の当日、奈緒子は時間ギリギリまで、何を着ていくか服が選べなかった。寅とは、図書館で会ったり、探偵の真似事をしたりしたことはあるが、2人で出掛けるのは初めてだった。年が離れている寅の隣に立つときに、カジュアルすぎてもお出掛らしくないし、キレイ目すぎても浮いてしまう気がした。結局、無難な形のワンピースにして、バタバタと準備をしていると、玄関のチャイムが鳴った。
ドアを開けると、いつもと何ら変わらない格好をした寅が立っていた。
「おはようございます。奈緒子さん、今から行けますか?」
「あ、はい。カバン取ってくるね!」
奈緒子は急いで玄関から出て、ドアに鍵をかけた。なんだか自分だけ緊張している気がして、少し恥ずかしかった。
「お休みなのに、朝早くからごめんなさい。」
「ううん!私楽しみだったから·····でも、どこに行くの?」
「海沿いに波止場があって、船で15分くらい行ったところに水族館があるんです。そこに一緒に行きませんか?僕は運転しないので電車の旅になるんですけど····大丈夫ですか?」
「もちろん!電車の旅も船も楽しそう。──水族館かぁ。何年ぶりかな。早く行こう!」
奈緒子は久しぶりの水族館と聞いて、子どものようにワクワクしていた。
電車を乗り換え、1時間程行くと、都会の景色から離れたところに海が見えてきた。車内は人が少なくて、2人並んで海を見ながら電車に揺られていた。
「ねぇ、これって、打ち上げじゃなくてデートじゃないの?」
「え?そうなんですか?僕、実はデートしたことないです。」
「そうなんだ·····」
内心、奈緒子が寅の初デートの相手と聞いて少し嬉しかったが、寅を意識してしまっている奈緒子には、『寅くんの初デートもらっちゃったね!』などと、軽口をたたく余裕はなかった。
電車を降り、波止場に着くと磯の香りがした。風がビュウビュウと吹き、髪がグチャグチャになった。
船に乗り込むときに、少し段差があり、波で揺れていて不安定だった為、先に船に乗った寅が、奈緒子の手を取ってくれた。
「寅くん、ありがとう。手、このまま繋いでてもいい?」
奈緒子が勇気を出して聞いてみると、寅は顔を赤くして、「······はい。」と了承してくれた。
奈緒子の手首には、この前の弘人から強く掴まれた跡が残っており、その跡をちらっと見た寅は、痛々しいものを見るように、眉を潜めた。
船から降り、2人でゆっくりと水族館を回った。子どもの頃は、水族館は魚ばかりで退屈だなと思っていたが、寅と歩く水族館は、静かで、幻想的で、心地良かった。
ソフトクリームを食べながら、並んでベンチに座って少し話した。
「寅くんって大学4年生だよね?もう就職は決まってるの?」
「実は、今年の夏教員採用試験があって。それで受かれば、就活です。」
「へぇ!美術の先生になるの?」
「はい、受かればですけど·····。だから、今から忙しくなりそうなので、しばらく奈緒子さんとゆっくり会えなくなるかなって思ってました。今日一緒に遊びに来れて、良かったです。」
「······そっか。頑張ってね。私ね、離婚成立したの。弁護士通しての手続きとかはまだ残ってるけど、なんだか胸のモヤモヤが取れて、スッキリした。」
帰りは、2人とも朝早くからの遠出で疲れていた為、電車に揺られながら寝てしまった。手は繋がれたまま、頭を寄り添い合って眠った。アパートに帰り着いた頃には、外は暗くなっていた。
玄関の前で、寅と奈緒子は今日一日の別れの挨拶をしていた。
「じゃあ、寅くん今日は楽しかった。ありがとね。」
「はい、僕も楽しかったです。それでは、奈緒子さん、また。」
寅がドアを開け、部屋に入ろうとすると、奈緒子が寅を呼び止めた。
「──寅君。」
「········はい?」
「あの······私の部屋に来ない?」
『お久し振りです。戦い、一旦決着がつきました。打ち上げ考えておいてください。』
すぐに寅から返信があった。
『お疲れ様でした。今度のお休み、朝の8時からいかがですか?』
朝の8時!?打ち上げと言っていたから、てっきり遅い時間かと思ったが、遠出でもするのだろうか?『了解しました。』と返し、奈緒子は次の休みをドキドキしながら待っていた。
寅と約束の日の当日、奈緒子は時間ギリギリまで、何を着ていくか服が選べなかった。寅とは、図書館で会ったり、探偵の真似事をしたりしたことはあるが、2人で出掛けるのは初めてだった。年が離れている寅の隣に立つときに、カジュアルすぎてもお出掛らしくないし、キレイ目すぎても浮いてしまう気がした。結局、無難な形のワンピースにして、バタバタと準備をしていると、玄関のチャイムが鳴った。
ドアを開けると、いつもと何ら変わらない格好をした寅が立っていた。
「おはようございます。奈緒子さん、今から行けますか?」
「あ、はい。カバン取ってくるね!」
奈緒子は急いで玄関から出て、ドアに鍵をかけた。なんだか自分だけ緊張している気がして、少し恥ずかしかった。
「お休みなのに、朝早くからごめんなさい。」
「ううん!私楽しみだったから·····でも、どこに行くの?」
「海沿いに波止場があって、船で15分くらい行ったところに水族館があるんです。そこに一緒に行きませんか?僕は運転しないので電車の旅になるんですけど····大丈夫ですか?」
「もちろん!電車の旅も船も楽しそう。──水族館かぁ。何年ぶりかな。早く行こう!」
奈緒子は久しぶりの水族館と聞いて、子どものようにワクワクしていた。
電車を乗り換え、1時間程行くと、都会の景色から離れたところに海が見えてきた。車内は人が少なくて、2人並んで海を見ながら電車に揺られていた。
「ねぇ、これって、打ち上げじゃなくてデートじゃないの?」
「え?そうなんですか?僕、実はデートしたことないです。」
「そうなんだ·····」
内心、奈緒子が寅の初デートの相手と聞いて少し嬉しかったが、寅を意識してしまっている奈緒子には、『寅くんの初デートもらっちゃったね!』などと、軽口をたたく余裕はなかった。
電車を降り、波止場に着くと磯の香りがした。風がビュウビュウと吹き、髪がグチャグチャになった。
船に乗り込むときに、少し段差があり、波で揺れていて不安定だった為、先に船に乗った寅が、奈緒子の手を取ってくれた。
「寅くん、ありがとう。手、このまま繋いでてもいい?」
奈緒子が勇気を出して聞いてみると、寅は顔を赤くして、「······はい。」と了承してくれた。
奈緒子の手首には、この前の弘人から強く掴まれた跡が残っており、その跡をちらっと見た寅は、痛々しいものを見るように、眉を潜めた。
船から降り、2人でゆっくりと水族館を回った。子どもの頃は、水族館は魚ばかりで退屈だなと思っていたが、寅と歩く水族館は、静かで、幻想的で、心地良かった。
ソフトクリームを食べながら、並んでベンチに座って少し話した。
「寅くんって大学4年生だよね?もう就職は決まってるの?」
「実は、今年の夏教員採用試験があって。それで受かれば、就活です。」
「へぇ!美術の先生になるの?」
「はい、受かればですけど·····。だから、今から忙しくなりそうなので、しばらく奈緒子さんとゆっくり会えなくなるかなって思ってました。今日一緒に遊びに来れて、良かったです。」
「······そっか。頑張ってね。私ね、離婚成立したの。弁護士通しての手続きとかはまだ残ってるけど、なんだか胸のモヤモヤが取れて、スッキリした。」
帰りは、2人とも朝早くからの遠出で疲れていた為、電車に揺られながら寝てしまった。手は繋がれたまま、頭を寄り添い合って眠った。アパートに帰り着いた頃には、外は暗くなっていた。
玄関の前で、寅と奈緒子は今日一日の別れの挨拶をしていた。
「じゃあ、寅くん今日は楽しかった。ありがとね。」
「はい、僕も楽しかったです。それでは、奈緒子さん、また。」
寅がドアを開け、部屋に入ろうとすると、奈緒子が寅を呼び止めた。
「──寅君。」
「········はい?」
「あの······私の部屋に来ない?」
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