侍女と愛しの魔法使い【旧題:幼馴染の最強魔法使いは、「運命の番」を見つけたようです。邪魔者の私は消え去るとしましょう。】

私と最愛の魔法使い～王女様、私の夫に惚れられても困ります！～

分岐点１３ 晩餐

　そうしてナタリーは、ウィルの妻として半年間もの間、アンダーソン家の別邸で過ごした。ウィルとの仲は変わらず良好で、ウィルが屋敷で過ごす時は、常にナタリーに触れたがった。はじめの頃は、人間界での花屋の仕事を手伝いに行ったこともあったのだが、イレルに会いにいくのは構わないが、ナタリー目当ての客もいるし、心配だから店頭には出ないで欲しいと懇願され、ナタリーは心配のし過ぎだと苦笑した。
　そろそろ子どもが欲しいねと話していた矢先のことだった。

　ある日、ナタリーがウィル宛に届いた荷物や郵送品を確認していたところ、大層立派な木箱の中に、お酒に疎いナタリーでも知っているような、高級ワインの贈り物が届いていた。送り主は貴族の名前が書いてあったが、ナタリーは聞いたこともない名で、ウィルが帰ってきてから尋ねようと思っていた。
　その日の昼頃、別邸の庭を歩いていると、ちょうどウィルの兄フィリップと会った。フィリップとは少し会話を交わす程度の仲だったが、ウィルの両親とは違い、ナタリーに対して友好的に接してくれるフィリップがナタリーは好ましかった。
　少し会話をした後、ナタリーは思い出したようにワインの差出人について尋ねてみた。
「義兄さんそういえば······ポートマンさんという貴族を御存じですか？いいワインを頂いたんですが、私知らなくて。」
「ああ！ポートマンは知ってるよ。毎年贈り物をしてくれるんだ。ウィルが結婚したから、そのお祝いじゃないかな？ナタリーはワイン飲めなかったよね？··········もし良かったら、今晩、両親や僕と夕食を食べないか？ウィルも一緒に。その時にワインを出せば？」
「でも、私がご一緒するのはご両親は嫌なのでは？ご迷惑では··········」
「もう半紙経つから、両親もそろそろ君と仲良くしたがってたよ。でも今さら距離の縮め方が分からないみたいなんだ。ウィルも全く顔を出さないし、僕からもお願いできないかな？」
　ウィルが本邸に顔を出さなくなったことをナタリーは少なからず申し訳なく思っていた。
「それなら······ご一緒してもいいですか？」
　ナタリーがそういうと、フィリップは笑顔になり、両親に伝えてくると言い本邸に戻っていった。
　ウィルはギリギリの時間まで戻らなかった為、ナタリーだけ先に白いドレスに着替え、本邸の広間に顔を出した。
　広間には先にフィリップだけが座っていた。ナタリーを見たフィリップはため息をつき、「本当に綺麗だね。」と呟いた。普段そのような褒め言葉を彼から言われたことがなかったナタリーは少し違和感を覚えたが、気を取り直して席についた。
　少しすると、すぐにウィルの両親も現れた。フィリップの話だと、ナタリーと仲良くしたがっているという話だったが、どこかよそよそしそうで、ウィルが来るまでの間、気まずい沈黙が流れた。
　ウィルが戻り、着替えてからくるとのことだったので、先にグラスに例の贈られてきたワインが注がれた。ナタリーはワインが苦手だったので、ナタリーだけは甘い果実酒が注がれていた。
　広間に現れたウィルは不機嫌そうな顔をしていた。
「突然一緒に食べようなんて·········どういう風の吹き回しなんだ？ナタリーを困らせないで欲しいんだけど。」
「ウィル。久しぶりに一緒に食べるのに、そう言うな。みんなお前を待ってたんだぞ。」
　フィリップがそう言うと、ウィルは諦めたような顔をして、ナタリーの隣の席に着いた。
「ナタリーただいま。ごめん1人にして。今日は一段と綺麗だね。」
　ナタリーは恥ずかしそうに微笑んだ。皆グラスを持ち、ウィルの父が乾杯の言葉を口にするのを待った。
「久しぶりに全員揃ったな。それではさっそく乾杯しよう。乾杯！」
　そして、全員が一斉にグラスに口をつけ注がれた酒をゴクリと飲んだ。ナタリーが飲んだ果実酒は甘く美味しかった。ナタリーは目の前のごちそうをさっそく食べようと、テーブルの上にグラスを置いた。

　その時、ウィルの父が突然立ち上がり、フラフラと壁の方へ歩いていくと、呻き声をあげ、大量の血を吐いた。

　続いてウィルの母と兄のフィリップも、椅子から転げ落ち苦しみ出した。
「···············！？な、何───！？」
　ナタリーは隣にいるウィルにしがみつき、怯えて立ち上がった。
「ウィル·······大変！！皆が·······」
　ナタリーがウィルを見ると、ウィルは堪えるような顔をしてじっとナタリーを見ていた。
「········ごめん、ナタリー。」
「···········ウィル？」
　ウィルは悲しそうな顔をして顔を背けたかと思うと、苦しみながら床に崩れ落ち、真っ赤な血を吐いた。
「イ、イヤ、ウィル！？誰か····誰か来てー！！」
　ナタリーは倒れたウィルに抱き付き名を読んだが、ウィルは微動だにしなかった。ウィルの父も母も兄も倒れたまま動かない。すぐに使用人達の駆けつける足音が聞こえたが、ナタリーは混乱の中、ウィルに折り重なるようにして気を失った。