103 / 121
私と最愛の魔法使い~王女様、私の夫に惚れられても困ります!~
帰還
しおりを挟む
扉の前に立っていたのは、4年前の姿のままのアッシュだった。
「─────え·········あなた···誰なの!?」
ナタリーは非常に困惑した。アッシュは死んだはずだし、4年経っているのに全く容姿が変わらないというのはどう考えてもあり得ないからだ。
何かを企む魔法使いが、アッシュに姿を変え、ナタリーを騙そうとしているのだと思った。
危険だと判断したナタリーは子ども達を家の中に入れ、自分は外に出て扉を閉めた。
男は、閉めた扉を見ながら呆然と呟いた。
「────子どもがいるのか。誰の子だ?」
「その姿でしゃべらないで····!なんのつもりですか──!?」
ナタリーは頭がおかしくなりそうだった。目の前にいる、死んでしまった愛した人の姿をしたこの男は一体誰なんだろうか。
「俺が分からないのか?すぐに帰るという約束を破ってしまった····すまないナタリー。」
アッシュの姿をした男は切実な目をしてナタリーを見つめてきた。
アッシュが死んで4年経っているが、ナタリーの中でアッシュの姿は脳裏に焼き付いて離れなかった。どう見ても別人だとは思えず、アッシュ本人にしか見えなかった。本人ならばどんなにいいだろうかと期待してしまった。
「嘘よ!ア···アッシュは4年前に死んだのよ。エステル様は既に亡くなったんだから···」
「事情を話せば長くなる。俺がしくじって、闇の魔法使いに石化の魔法をかけられた。封印が解けたのはつい最近だ。気づいたら4年経っていた·····婚姻の誓いが何故発動しなかったのかは俺も分からないが、石化の状態が例外だったのかもしれない。時が止まっていたからな。生死に当てはまらなかったのかもしれない。」
ナタリーはゆっくりアッシュを見上げた。
「────本当に?·····アッシュなの?」
「ああ。本当だよ·····信じてくれるか?」
心のどこかで、アッシュは生きているんじゃないかと願いたい気持ちがあった。しかし、エステルの死と、何年も帰らない事実を考えると、希望を持ち続けるのが辛すぎて、ナタリーはこの4年でアッシュの死を受け入れていた。
ナタリーの感情は入り乱れ、その場に泣き崩れた。
ナタリーの側に来たアッシュは、しゃがみこんだナタリーを静かに抱き締めた。
「本当に悪かったナタリー。悲しませて·····許して欲しい。」
ナタリーの悲痛な姿を目にしたアッシュは、愛しさと申し訳なさと後悔が押し寄せ、抱き締める腕に力を込めた。4年の年月が経っていたが、アッシュにとっては、ナタリーと2人で教会で過ごした密月はつい先日の出来事であった。自分がいない間に、ナタリーが他の男と子どもを作り家族として暮らしているということが信じられなかった。アッシュがあの時、ナタリーの元に戻れなかったことが悔やんでも悔やみきれず、すべてが変わってしまったことが悲しかった。しかし、目の前にいるナタリーが只々愛しく、再び彼女に触れられることに喜びが込み上げた。
レイは任務が終わり、エルとルイーゼを連れて帰宅しようとしていた。最近外にあまり出れずに不自由していたナタリーに少しでも気分転換させたくて、久しぶりに皆で集まって夕食を食べようとエル達を誘ったのだった。家の前まで来ると、庭木の影から玄関前にしゃがみこんでいるナタリーと男の後ろ姿が見えた。
「あら?····誰か来てるのかしら。」
エルが隣にいたレイを見ると、まるで幽霊でも見るような真っ青な顔をして男の後ろ姿を呆然と見ていた。
「おい。ナタリーから離れろ。」
レイの声が聞こえ、ナタリーははっと顔を上げ立ち上がった。
アッシュも立ち上がり、ゆっくりとレイの方へ向き直った。
「────アッシュ様なのですか!?何故ここに!?亡くなられたとばかり········!!!」
「ア、アッシュ!?それってあの、アリシアの·······?」
ルイーゼとエルは突然のアッシュの登場な驚きを隠せなかったが、レイとアッシュの間に流れるただならぬ雰囲気を感じ取り、固唾を飲んで見守った。
「········ウィル、やっぱりお前だったか。自分の役目を放棄してまでナタリーを追いかけてきたのか?情けない奴。」
「あんたもな。すべてを捨てて突然消えたくせに今頃現れるとは。死んだとばかり思ってたよ。」
一触即発の様子にナタリーは困惑した。アッシュが生きていたことが泣く程うれしかったが、かといって今の状況はまるで地獄のようだった。
「皆、とりあえず中に入って····子ども達を放っておけないし。」
ナタリーの提案にレイが首を振った。
「家には入れない。アッシュと子ども達を会わせたくない。ナタリーはここにいて。僕達だけで話す。」
「え?でも·······私抜きでってそういうわけには───」
見かねたルイーゼとエルがレイの提案に同調し、助け船を出した。
「ああ。場所を変えよう。ナタリー以外は私と一緒に来てください。」
「そうよ!私も行くわ。ナタリーは来ない方がいい。あなたがいると、この2人は冷静にいられないでしょうから。子ども達と家で待ってて。」
そこまで言われてしまえば、ナタリーは1人残らざるを得なかった。
「勝手に決めるな。俺はナタリーに会うために来たんだ。お前達と話すこと等ない!」
憤るアッシュをエルがなだめた。
「アッシュ、あなたがいない時間は長かったのよ!もう2人だけの問題じゃないの。大人になって。とにかく話しましょう·····!」
アッシュはかなり不服そうだったが、このままでは埒が明かないと思ったのか、しぶしぶ了承し、場所を変えるため家を出ていった。家を出ていく間際、一番後ろを歩いていたレイをナタリーは呼び止めた。
「レイ·····!こんなことになって本当にごめんなさい。私何て言ったらいいか────」
「········いつかこうなる気がしてた。僕はアッシュが死んでないかもって、心のどこかで思ってたんだ。でも、君の側にいたくて黙ってた。僕のせいでもある───でも、もう今になってアッシュが現れたとしても、君や子ども達を僕は死んでも手放せないんだ。謝らなくていいから、ずっと一緒にいて欲しい。·······諦めが悪くてごめんね。」
レイは困ったように笑い、すぐに3人の後を追って家を出ていった。
自分が原因で絡み合ってしまった糸をほどくことができるのか、ナタリーには分からず、家を出ていく4人の後ろ姿をただ見送ることしかできなかった。
「─────え·········あなた···誰なの!?」
ナタリーは非常に困惑した。アッシュは死んだはずだし、4年経っているのに全く容姿が変わらないというのはどう考えてもあり得ないからだ。
何かを企む魔法使いが、アッシュに姿を変え、ナタリーを騙そうとしているのだと思った。
危険だと判断したナタリーは子ども達を家の中に入れ、自分は外に出て扉を閉めた。
男は、閉めた扉を見ながら呆然と呟いた。
「────子どもがいるのか。誰の子だ?」
「その姿でしゃべらないで····!なんのつもりですか──!?」
ナタリーは頭がおかしくなりそうだった。目の前にいる、死んでしまった愛した人の姿をしたこの男は一体誰なんだろうか。
「俺が分からないのか?すぐに帰るという約束を破ってしまった····すまないナタリー。」
アッシュの姿をした男は切実な目をしてナタリーを見つめてきた。
アッシュが死んで4年経っているが、ナタリーの中でアッシュの姿は脳裏に焼き付いて離れなかった。どう見ても別人だとは思えず、アッシュ本人にしか見えなかった。本人ならばどんなにいいだろうかと期待してしまった。
「嘘よ!ア···アッシュは4年前に死んだのよ。エステル様は既に亡くなったんだから···」
「事情を話せば長くなる。俺がしくじって、闇の魔法使いに石化の魔法をかけられた。封印が解けたのはつい最近だ。気づいたら4年経っていた·····婚姻の誓いが何故発動しなかったのかは俺も分からないが、石化の状態が例外だったのかもしれない。時が止まっていたからな。生死に当てはまらなかったのかもしれない。」
ナタリーはゆっくりアッシュを見上げた。
「────本当に?·····アッシュなの?」
「ああ。本当だよ·····信じてくれるか?」
心のどこかで、アッシュは生きているんじゃないかと願いたい気持ちがあった。しかし、エステルの死と、何年も帰らない事実を考えると、希望を持ち続けるのが辛すぎて、ナタリーはこの4年でアッシュの死を受け入れていた。
ナタリーの感情は入り乱れ、その場に泣き崩れた。
ナタリーの側に来たアッシュは、しゃがみこんだナタリーを静かに抱き締めた。
「本当に悪かったナタリー。悲しませて·····許して欲しい。」
ナタリーの悲痛な姿を目にしたアッシュは、愛しさと申し訳なさと後悔が押し寄せ、抱き締める腕に力を込めた。4年の年月が経っていたが、アッシュにとっては、ナタリーと2人で教会で過ごした密月はつい先日の出来事であった。自分がいない間に、ナタリーが他の男と子どもを作り家族として暮らしているということが信じられなかった。アッシュがあの時、ナタリーの元に戻れなかったことが悔やんでも悔やみきれず、すべてが変わってしまったことが悲しかった。しかし、目の前にいるナタリーが只々愛しく、再び彼女に触れられることに喜びが込み上げた。
レイは任務が終わり、エルとルイーゼを連れて帰宅しようとしていた。最近外にあまり出れずに不自由していたナタリーに少しでも気分転換させたくて、久しぶりに皆で集まって夕食を食べようとエル達を誘ったのだった。家の前まで来ると、庭木の影から玄関前にしゃがみこんでいるナタリーと男の後ろ姿が見えた。
「あら?····誰か来てるのかしら。」
エルが隣にいたレイを見ると、まるで幽霊でも見るような真っ青な顔をして男の後ろ姿を呆然と見ていた。
「おい。ナタリーから離れろ。」
レイの声が聞こえ、ナタリーははっと顔を上げ立ち上がった。
アッシュも立ち上がり、ゆっくりとレイの方へ向き直った。
「────アッシュ様なのですか!?何故ここに!?亡くなられたとばかり········!!!」
「ア、アッシュ!?それってあの、アリシアの·······?」
ルイーゼとエルは突然のアッシュの登場な驚きを隠せなかったが、レイとアッシュの間に流れるただならぬ雰囲気を感じ取り、固唾を飲んで見守った。
「········ウィル、やっぱりお前だったか。自分の役目を放棄してまでナタリーを追いかけてきたのか?情けない奴。」
「あんたもな。すべてを捨てて突然消えたくせに今頃現れるとは。死んだとばかり思ってたよ。」
一触即発の様子にナタリーは困惑した。アッシュが生きていたことが泣く程うれしかったが、かといって今の状況はまるで地獄のようだった。
「皆、とりあえず中に入って····子ども達を放っておけないし。」
ナタリーの提案にレイが首を振った。
「家には入れない。アッシュと子ども達を会わせたくない。ナタリーはここにいて。僕達だけで話す。」
「え?でも·······私抜きでってそういうわけには───」
見かねたルイーゼとエルがレイの提案に同調し、助け船を出した。
「ああ。場所を変えよう。ナタリー以外は私と一緒に来てください。」
「そうよ!私も行くわ。ナタリーは来ない方がいい。あなたがいると、この2人は冷静にいられないでしょうから。子ども達と家で待ってて。」
そこまで言われてしまえば、ナタリーは1人残らざるを得なかった。
「勝手に決めるな。俺はナタリーに会うために来たんだ。お前達と話すこと等ない!」
憤るアッシュをエルがなだめた。
「アッシュ、あなたがいない時間は長かったのよ!もう2人だけの問題じゃないの。大人になって。とにかく話しましょう·····!」
アッシュはかなり不服そうだったが、このままでは埒が明かないと思ったのか、しぶしぶ了承し、場所を変えるため家を出ていった。家を出ていく間際、一番後ろを歩いていたレイをナタリーは呼び止めた。
「レイ·····!こんなことになって本当にごめんなさい。私何て言ったらいいか────」
「········いつかこうなる気がしてた。僕はアッシュが死んでないかもって、心のどこかで思ってたんだ。でも、君の側にいたくて黙ってた。僕のせいでもある───でも、もう今になってアッシュが現れたとしても、君や子ども達を僕は死んでも手放せないんだ。謝らなくていいから、ずっと一緒にいて欲しい。·······諦めが悪くてごめんね。」
レイは困ったように笑い、すぐに3人の後を追って家を出ていった。
自分が原因で絡み合ってしまった糸をほどくことができるのか、ナタリーには分からず、家を出ていく4人の後ろ姿をただ見送ることしかできなかった。
265
お気に入りに追加
2,226
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

愛人をつくればと夫に言われたので。
まめまめ
恋愛
"氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。
初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。
仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。
傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。
「君も愛人をつくればいい。」
…ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!
あなたのことなんてちっとも愛しておりません!
横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。
※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…
(完結)「君を愛することはない」と言われて……
青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら?
この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。
主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。
以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。
※カクヨム。なろうにも時差投稿します。
※作者独自の世界です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

私はいけにえ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」
ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。
私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。
****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる