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私と最愛の魔法使い~王女様、私の夫に惚れられても困ります!~

蘇った男

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 男性の髪は白銀で、濃いグリーンの瞳だった。かなり目立つ容姿をしていて、ユリアンは彼は人間ではなく、森の妖精か何かだと本気で思った。
 男性はフッと笑って少年達に話しかけてきた。
「人間か····多分俺は人間なんだろうな。──────聞きたいんだが、今は何年だ?」
 男性の問いに、ザイルが戸惑いながら答えた。
「今は1214年ですけど····」
「······ははっ!1214年か。俺は4年も眠っていたのか────だが100年後じゃなかっただけ運がいいのだろうな····俺を触ったのはどっちだ?」
「ぼ、ぼくです。」
 ユリアンはおずおずと名乗り出た。
「·········君のおかげで助かった。礼を言う。すぐにでもここを去りたいところだが、まだ石化が解けきれてなくてな。悪いが、手を貸してくれないか?」
 2人は男性の両肩を支え、森を抜けるために歩き始めた。男性の片足はまだ石のままだった。
「あの······どうしてあなたは石になってたんですか?あなたは誰なんですか?」
 疑問ばかり浮かぶザイルが男性に問いかけた。
「ああ──悪い魔法使いにやられたんだ。無様だな。4年も眠ってた。俺の名前は·····ジークだ。」
「ジークさんは、今行く宛がないんですよね?僕たちの家に来てください。」
「おい、ユリアン·····父さんと母さんが何て言うか·····」
「今外出中だし、僕たちの部屋にいてもらえれば数日なら匿えるよ!お願い兄ちゃん。」
 ユリアンが自分の意見を押し通そうとするのは初めてで、ザイルは戸惑っていた。ユリアンとジークは初対面のはずなのに、ユリアンは何故かジークに肩入れしていた。

 今まで言葉にできない疎外感を感じながら生きてきたユリアンは、何故かこの何もかもが怪しい男、ジークに親近感を感じていた。彼は自分と同じで、「人と何かが違う」そんな気がした。
 もっとジークのことを知りたかったし、助けになりたかった。
 ユリアンの頑固さに根負けしたザイルは、ジークを自宅の部屋で匿うことにしぶしぶ納得した。
 ジークは少しも申し訳なさそうにせず、「世話になる。」とだけ言い椅子に腰かけた。

 翌日、ユリアンとザイルは学校であったが、ジークを一人残し家を出るのは、両親と鉢合わせになってしまったら大変だということで、ユリアンは学校を休み、ジークと一緒に部屋に残ることにした。
「ユリアン、気を付けろよ。その人が怪しい行動したら·····」
 ザイルは小声でユリアンに耳打ちした。
「兄ちゃん!大丈夫だよ。行ってらっしゃい。」
 ザイルは不満そうな顔をして、家を出ていった。ザイルとユリアンのやり取りをじっと見ていたジークと目があった。
「··········実の兄弟か?」
「え?あ、はい。そうですけど。」
 ジークは微妙な表情で「そうか」と言った。
「ユリアンと言ったな。お前に頼みたいことがあるんだが·····ちょっとこっちに来てくれないか。」
 ユリアンは恐る恐るジークに近付き、ソファーの隣に腰を下ろした。するとジークはユリアンの両手を握ってきた。
「───!?な、なんですか······」
 ユリアンはジークの突然の行動に驚いてしまい、上体を仰け反らせた。
「いいから。じっとしてくれ。」
 ジークは目を瞑り、何かに集中しているようだった。ユリアンは警戒しながらも、言われた通りじっとしていた。ジークの顔をまじまじと見ると、睫が髪と同じ白銀でキラキラと光っている。こんなにきれいな大人をユリアンは見たことがなく、男の人なのになんだかドキドキした。
 しばらくしてからだろうか、ジークの片足の部分的に残っていた石化部分が、元の肉体に戻ってきた。
「え!?なんで····?」
「お前に触れると石化が解けていくようなんだ。完全に解けるまで、こうしててもいいか?」
 ユリアンは、なんだか自分が初めて人の役に立っているような気がしてうれしくなった。お互い身動きが取れず、何もすることがないので、ユリアンはジークに話しかけた。
「ジークさんは、家族はいないんですか?」
「家族はいない。捨てられたからな。」
「そうなんですか······僕はジークさんに比べたら、優しい家族や兄がいて、家があって恵まれてるって分かってるんです。でも、何故だか分からないけど、誰も僕のことを分かってくれないような、いつも一人のような、そんな気分になるんです。変ですよね?」
 ユリアンが自信の抱えていた悩みを誰かに吐露するのは初めてであった。初対面で、何も知らないぶっきらぼうな彼に、悩みを打ち明けることができたのが自分でも以外だった。
「·········変だとは思わない。俺も同じようなものだったからな。───お前は、自分のことが本当に知りたいのか?知らない方が幸せということもある。」
「──?どういう意味ですか?ジークさんは、僕のことを何か知ってるんですか??」
「·····俺はユリアンに感謝している。お前は平穏に家族に囲まれ暮らしているのが幸せだと思う。だが、真実はいずれ分かる時がくる。その時に、お前は強くいられるか?」
「────僕が何者であっても、僕は知りたいです!何も知らないままなんて、人生そのものが虚構みたいで·····教えてください。僕は····どうしてこんな気持ちを抱えてしまうんでしょうか。」
 ユリアンのすがるような目を見たジークは、育ての両親があえて本人に伝えていない事実、ましてやそれよりももっと深い秘密をユリアンに打ち明けていいのかどうか迷っている様子だった。悩んだ末、ジークはユリアンの目を見て真剣に答えた。





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