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私と最愛の魔法使い~王女様、私の夫に惚れられても困ります!~

父親

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 アッシュと共に飛ばされた男は、地上に降り立つなり後ろに飛び退き、アッシュと距離を取った。
「·····イースと雰囲気が違っていたからおかしいと思ったが、その白い髪、まさか大魔法使いだったアッシュか?」
 イースの変化を解いたアッシュは、面白そうにニヤっと笑った。
「俺のことを知っていてくれたとは光栄だな。一応聞くが、お前は建国祭の日、企てを起こした張本人だろう?そして、悪名高いアルヴェイン・ウォレスだ。違うか?」
 男は不遜な顔をして黙っていたが、アッシュの顔をじっと見ると何かに気が付いたようだった。
「私こそ光栄だよ。君がそこまで私について興味を持っているとは·····もしや、君の母はアリスか?まるで生き写しのようだ。」
 アルヴェインが昔を懐かしむような、遠い目をした。この悪党にも懐かしいという感情があることが、アッシュには意外だった。
「一応抱いた女は覚えているんだな。それだけで俺の母親は浮かばれるだろう。」
 アッシュが皮肉そうに言うと、アルヴェインが高らかに笑った。
「私がアリスを抱いた?アリスの友人は抱いたが、アリスを抱いた覚えはない。」
「······何?しかし、お前とアリスが同時期にルフトの町から消えたと聞いた。」
「ああ····アリスと暮らす為に一緒に町を出たさ。しかし、私が一時外出していた隙に、私を探し追いかけてきた男、当時上級魔法使いだったサミュエルにアリスは連れ去られた。───悔しかったよ。まぁ、私はサミュエルを探し出し、アリスの目の前で奴を殺したがね。アリスのことは、愛しく思っていたから殺せなかった。アリスは私の前から姿を消したよ。·······その後ルフトの町で自死したと知った。」
 (俺とナタリーは血縁関係はなかったのか·····じゃあ俺はあの時何の為に──)
 アッシュは1年前、ナタリーをウィルに託して離れたことを後悔していた。アッシュが追われる身であったことが理由ではあったが、兄弟で愛し合う仲になるのは、ナタリーに十字架を負わせることになると思ったから、離れたのだった。
「君のことは知っているよ。王宮から逃げ出したナタリーとは幼馴染なんだろう?彼女を王宮で見た時に分かった。ナタリーは私の娘だ。そして、君は彼女を愛している。違うかい?」
「···········お前に答える必要があるか?」
「知っているかもしれないが、私の先祖は淫魔と交わった。私には淫魔の血が流れ、その特性を色濃く受け継いだ。私が初めて女を抱いた、15、16の頃からかな。人間の女も魔法使いの女も、こぞって私を欲しがり、言いなりになった。私はそうして欲しいと望んだことはないのに、勝手に私を奪い合い、憎み合い、殺し合いをした者もいる。ナタリーは見たところ、私のようにその特性を強く受け継いだようだ。まだ開花していないようだったが、徐々に私のように普通に溶け込めなくなる。」
「───ナタリーが?ナタリーはそんな風には·····」
「ないといえるか?何かをきっかけに開花することがある。一度関係を持ってしまえばまるで蟻地獄のように抜け出せなくなる。彼女はやめておいた方がいい。私は多くの女と関係を持ち、中には大切に思っていた者もいる。こんな私でもな。しかし、私と関わって幸せになった女を1人も知らない。分かるか?」
「·················」
「もしや、もう関係を持ってしまったのか?だとすればもう手遅れだな。君は底無し沼に落ちたんだ。よっぽどのことがない限り抜け出せない。アリスが俺から離れられたのは、体を重ねていなかったからだ。結果不幸になったがね。」
「お前の過去など俺にとってはどうでもいい。··········喋りすぎたな。決着をつけようかアルヴェイン。」
 アルヴェインは不適な笑みを浮かべ頷くと、地面に両手をつき呪文を唱えた。たちまち地面から巨体の土の精霊が現れ、アッシュへ襲い掛かった。アッシュは精霊の攻撃をかわしながら、水属性魔法で巨大な水の波球を放ち、土の精霊にぶつけた。波球は精霊を吹っ飛ばし、辺り一面の木々は軒並み倒された。水によって体を保っていられなくなった精霊は崩れ落ち、地面へと帰った。
 すぐさまアッシュが闇の魔法の呪文を唱えるとアッシュの影が伸び、アルヴェインの影と重なった。途端にアルヴェインは身動きが取れなくなった。
 アッシュはゆっくりとアルヴェインに近付くと、薄く笑いながらこう言った。
「お前は簡単に殺すのは面白くないな。自分の罪は自分で償え。お前が殺した者達によって、呪い殺されるのさ。」
 アッシュは禁術を唱えた。アルヴェインが犯した罪が闇となり、アルヴェイン自身の体を蝕むのだ。アルヴェインの影から黒い巨大な柱が出現し、アルヴェインの体を貫いた。途端にアルヴェインの首に黒い呪いの紋様が浮かび上がり、アルヴェインはうめき声をあげた。このままジワジワと呪いによって体を蝕まれ、最後には首が落ちてしまう恐ろしい魔術だ。
 苦しみ悶えているアルヴェインをアッシュは無表情で見下ろしていた。首が落ちるのを見届け、アッシュはこの場を去るつもりだった。
 もう何もできなくなったアルヴェインは一時したら首が落ちるだろう、アッシュが一瞬油断した時だった。
 アルヴェインはわずかに唇を動かし、僅かに残った魔力の全てをかけて、封印の呪文を唱えた。

 白い閃光がアッシュの心臓を貫いた。

 アッシュは何が起こったのか分からず、只呆然とアルヴェインを見ていた。
「お前·····何をした───」
「······封印の呪文さ。心臓を貫かれた者は石化し時が止まる。私はここで死ぬが、お前も死んだも同然さ。封印を解く方法は、私がお前に触れるか、私の血縁者がお前に触れる以外にない。私はここで終わりだから、私の血縁者がここでお前を見つけ、触れることなど何百年待ってもないだろうな。······私は地獄へ行くよ。お前は、死ぬこともできずずっと石のまま、この世から忘れ去られていくんだ。それは何よりも残酷なことだろう?───楽しかったよ。大魔法使いアッシュ····さらばだ。」
 アルヴェインは苦しみながらそう言うと、アッシュを笑顔で見送り事切れた。
 アッシュの体はみるみるうちに手と足の先から石化が始まり、全身が石となったアッシュはもはや人間ではなくなった。
 アッシュだった石像は地面に倒れ、土埃をあげた。アッシュは意識を手離す直前、愛しい人へ呼び掛けた。
 (ナタリーすまない······帰ると約束したのに俺は········会いたいナタリー───)

 時が経ち、石像は雨風にさらされ、辺りの倒れた木々の中に埋もれてしまった。元々人が入ることのない森の中で、石像に気づく者は現れなかった。アッシュは目を開けたまま空を見つめ、同じ景色を長い間見つめているだけだった。
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