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私と最愛の魔法使い~王女様、私の夫に惚れられても困ります!~

新たな生活

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 レイと体を重ねた日の朝、ナタリーが外で洗濯物を干していると、ちょうど外に出てきたエルと出くわした。
「エルおはよう。」
 ナタリーがエルに挨拶をすると、エルはじーっと黙ってナタリーを見ていた。
「····何?私の顔何かついてる?」
「·······はぁ若いっていいわねぇ。」
 エルの言った意味が分からなかったが、すぐに昨夜か今朝のことを言っているのだと分かり、ナタリーは恥ずかしくなった。
「え──え?何で······うるさかった?」
 声を抑えていたつもりだったのに、エルに聞かれていたとしたら、本当にいたたまれない。
「やっぱりそうなんだ。声なんか聞こえないわよ。あなたの顔に、『やりました』って書いてある。」
 ナタリーは顔を隠し、何でもお見通しのエルが恐ろしいなと思った。
「私も若くてかわいい男の子に寝不足になるくらい抱かれたい人生だったわ。もう無理だけど。うちの旦那は仕事ばかりの飲んだくれだし、顔見るだけでげんなりしちゃう。」
「でも、エルは3人も子どもがいるじゃない。ほんとは仲良いんでしょ?」
 ナタリーがエルをいじると、エルにキッと睨まれた。
「あのねぇ、仲がいいからじゃないの。家にもいないくせに、無責任に子どもを作ろうとするのよ!獣人はそういう家庭多いわよ。本能に従って生きてるから。」
 いいなぁ···とぶつくさ言いながらエルは家に入って行った。

 ナタリーはレイに対して少しの気まずさがあり、今朝は顔がまともに見られなかったが、レイは特にいつもと変わった様子はなかった。自分だけが意識しているような気がして、ナタリーも普段通りに過ごそうと心に決めた。
 しかし、その日からレイは夜になると、日毎にナタリーを求めた。以前とは決定的に関係性が変わったのだとナタリーは認めざるを得なかった。

 ◇

 それから数ヵ月後、ナタリーの2度目の妊娠が発覚した。レイはナタリーが見たこともないくらいの喜びようで、毎日ナタリーのお腹の中の子を擦ったり、話しかけていた。
 レイはアリシアを自分の娘のように愛してくれたが、やはり自分と血の繋がる我が子が欲しかったのだろうか。

 ナタリーは無事、男の子を出産した。
「エレン」と名付けられたその子は、とてもかわいらしい子で、レイを受け継いだ美しい金髪だった。

 ◇

 それから平穏に月日は流れ、アリシアは3歳に、エレンは1歳になっていた。
 最近では、帝国から魔法使いが流入し、国の発展のために大いに尽力した為、あらゆる面でラニアの国は目覚ましい発展を遂げていた。元々資源が豊富な国であったこと、獣人達は身体能力や戦闘能力が高いことなどから強固な部隊を作り上げ、他国から攻め込まれることのない、豊かな国になり始めていた。

 数百人の魔法使い達が生活する区画が整備され、ナタリー達もそちらに移り住んでいた。フィガロで二人暮らしをしていた時よりも広い、庭付きの家をもらった。エルの家は隣ではなくなってしまったが、それでも近くではあるので、よく子どもを連れて遊びに来てくれた。

 ナタリーが庭で子ども達を遊ばせていると、庭木の向こう側から声をかけられた。
「ナタリー!」
 声の主は、魔法使いの男性ノーテルだった。ノーテルは、ナタリーよりも5歳程年上で、眼鏡をかけた知的な印象だったが、見かけに拠らず話好きの男だった。背が高く、魔法使いらしく顔立ちは整っていた。ノーテルは以前、何度かレイと任務を共にした際、レイに妻と子どもがいると知り、ぜひ会いたいということで半ば押しきったような形で家に遊びに来たことがあった。レイはノーテルとナタリーや子ども達をあまり会わせたくないような様子であったが、ノーテルは明るく快活で、子ども達ともナタリーとも楽しく話してくれたのでナタリーからすれば好印象な人物だった。
「ノーテルこんにちは。今日はどうしたんですか?」
「たまたまそこを通りかかったら、子どもの楽しそうな声が聞こえたからさ。顔を出してみたんだ。」
 アリシアはノーテルに会ったことがあったので「おじさん!!」と言って走り寄ってきた。
「立ち話もなんだし、中でお茶でもどうですか?」
 ナタリーはノーテルを招き入れ、子ども達を庭で遊ばせながらデッキに座って話をした。
「若くして、美しい妻にかわいい子ども達、レイが羨ましいよ。」
「ノーテルは独身ですよね?ラニアの女の子達にモテるんじゃないですか?」
 ナタリーがからかうように言うと、ノーテルは大きな声で笑った。
「いや、俺は全然····いい年だし。よく言い寄られてるのはレイの方だな──いや、すまない。」
 魔法使いはラニアでは、国を救ったくれた英雄として尊敬の対象とされている。獣人の女性はそもそも積極的で、恋人がいようが結婚していようがあまり関係なく、惹かれる男性にはグイグイいくような本能的なところがあった。獣人の若い女性にレイが言い寄られているかと思うとナタリーはいい気がしなかったが、こればかりはどうしようもないと割り切っていた。
「いいえ。レイは人間界でもそういうことがあったし、慣れてますから大丈夫です。」
 ナタリーが苦笑すると、ノーテルは意外そうに言った。
「奥さんの方がレイにぞっこんなのかと思ったが、逆なんだな。レイはナタリーを誰にも会わせようとしないよ。同僚はみんな君達に会いたがったが、ことごとく断っていた。」
「えぇ?ごめんなさい。多分家でゆっくりするのが好きな人だから、人を招くのが苦手なんだと思います。」
「いや、なんとなくレイの気持ちが分かるよ。だって君ってすごく綺麗だし···なんていうか目が離せないんだ。」
 一瞬だが、ノーテルの目の奥に熱がこもった気がしてナタリーは身構えた。「すごく綺麗」などと、以前はほとんど言われたことがなかった。特に自分の容姿が醜いとは思わないが、魔法使い達の容姿の整い具合に比べたら、どちらかというとナタリーは平凡な域に入るだろう。

 しかし、このところ不可解なことが起こっていた。現地の市場に買い出しに行った際、一言二言言葉を交わした獣人の男性に家まで後をつけられたことがあった。その時エレンを抱いていたしすごく怖かったのだが、何とか走って家まで帰り、アリシアと遊んでいたレイに事情を話した。
「獣人じゃなかったから、お金を持っていると思われたのかしら·····」
 話を聞いたレイは深刻な顔になり、ナタリーの肩を掴んで言った。
「多分違う。──ナタリーは今後は一人で市場には行かないようにしよう。僕が行くから、ナタリーはあまり獣人や他の魔法使いに会わないで。特に男とは。あと、この家には結界が張られているから、招き入れない限り入ってこれない。よっぽどじゃない限り、家には人を入れないで。」
「·····誰にも会うなってやりすぎじゃない?買い物に行くくらい····私も若くないし、そこまで勘ぐらなくても。誰も私のことなんか気にしない。今回はたまたまよ。」
「ナタリー。大事なことなんだ。縛りたいんじゃなくて、心配なんだよ。」
 レイが切実な目をしていたので、ナタリーはそれ以上は何も言えなくなり、レイに言われたことを了承した。


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