侍女と愛しの魔法使い【旧題:幼馴染の最強魔法使いは、「運命の番」を見つけたようです。邪魔者の私は消え去るとしましょう。】

きなこもち

文字の大きさ
上 下
94 / 121
私と最愛の魔法使い~王女様、私の夫に惚れられても困ります!~

レイの変化

しおりを挟む
 シェリーはようやく僕を受け入れてくれた。

 彼女がアッシュを選んだことは、覚悟はしていたが目の当たりにするとやはり落ち込んだ。夢の中で彼女に別れを告げられた時、僕はこのままシェリーの目の前に現れず、姿を消した方がいいのではないかと本気で思った。しかし、それができなかったのは、アッシュは消え、僕は生きているからだ。
 愛していた故人を超えることはできないかもしれないが、共に生きていくことはできる。側にさえいれば、これから起こり得る、喜びも悲しみも共有できるのは生きている者の特権だ。

 ただ一つ気掛かりなことがある。シェリーは、アッシュとエステルが婚姻による誓約で共に死んだと信じ疑っていないようだが、僕はやや疑問が残っていた。アッシュの死を目の当たりにしていないし、聖女の誓いについては詳しくない。魔力が関係する誓約は複雑で、かけた本人ですらも予想できないことが起こり得る。

 シェリーがアッシュの死に納得しているのであれば、そのことについて僕が何か言うつもりはない。わざわざ寝た子を起こすほど僕はお人好しではないし、2年も音沙汰がないのだから、本当に死んだ可能性が高いからだ。期待だけさせて、子どももいるシェリーがアッシュの帰りを待ち続けるのはあまりにも酷だ。

 シェリーには、僕に対して申し訳なく思うのはやめて欲しいと言ったが、それは本心だ。彼女を守れなかった自分の不甲斐なさが原因だし、元々シェリーがアッシュに対して恋心を抱いていたのは知っていたからだ。

 しかし、アッシュに対しては、安らかにお眠りくださいなどと穏やかな感情を持つことはできなかった。シェリーはアッシュの石碑を作り、毎年エステルが死んだ日に祈りを捧げているようだったが、僕はとても祈りを捧げるような気にはなれない。
 最愛の妻を寝取った挙げ句、子どもを孕ませ、無責任に姿を消しても尚、シェリーの心に居座り続ける奴が憎かった。
 本音を言えば、「幼馴染で生まれも育ちも一緒」というのは、僕からすれば越えられない壁のようなものがあった。アッシュはああも破綻した性格なのに、幼馴染で能力が高いというだけでシェリーから愛されているような気がしてひどく羨ましかった。

 2年ぶりに抱いたシェリーは以前と変わらず美しかったが、以前のように何の憂いもなく、ただ僕を愛し、情熱的に抱かれるというよりは、その表情には切なさと迷い、憂いと喜びのような複雑な感情が混在していた。
 以前のシェリーは、朗らかで快活で優しい印象だったが、今は時折、蠱惑的に見える時があり、別人なのではないかと思うことがあった。しかし、僕は変わらず彼女を愛しているし、むしろ以前よりも想いが強くなった気がする。抱いているこの瞬間も、彼女を手に入れているのに、逃げられてしまいそうな焦燥感を抱いた。その焦燥感がぼくをより一層掻き立て、ほの暗い独占欲を抱かせた。
 シェリーの肌や体液は甘く、まるで麻薬のようだった。以前の彼女との交わりは、幸福感に包まれた優しいものだったが、今は彼女を誰にも渡したくない、ずっと繋がっていたいという激情に支配されていた。
 僕にこんな感情があるなんて自分でも予想外だ。シェリーとフィガロに逃げた時、彼女が愛しく、守りたいという強い感情はあったが、狂気じみた独占欲はなかった。アッシュに連れ戻された時も、元気でいて欲しい、笑っていてくれればそれでいいという穏やかな感情の方が先に立っていたが、今は違う。シェリーの肌に触れ、この甘さを味わい、彼女の中に放った男がいたなど信じたくもなかった。
 死んでいるのか生きているのか、シェリーを捨てて逃げたのか知らないが、万が一あいつが戻ってきたとしても、僕はもう一歩も引く気はなかった。シェリーは僕の妻で、アリシアはナタリーと僕の子だ。

 アッシュが永遠に僕たちの目の前に現れませんように····この時ばかりは僕も神に祈りを捧げた。

    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Eランクの薬師

ざっく
恋愛
冒険者であるキャルは、ランクの低さを理由にパーティに放り出されてしまった。一人ではとても活動できないので、どうにか故郷に帰るまでの旅費を貯めていた。それも、先が見えずに悩んでいたときに、腕の中にお宝を飼っている人間を見つけたのだ。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

ゼラニウムの花束をあなたに

ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】職業王妃にはなりません!~今世と前世の夢を叶えるために冒険者と食堂始めました~

Na20
恋愛
セントミル国の王家には変わった習わしがある。それは初代国王夫妻を習い、国王の妻である王妃は生涯国王を護る護衛になるということ。公務も跡継ぎも求められないそんな王妃が国の象徴とされている。 そして私ルナリア・オーガストは次期王太子である第一王子の婚約者=未来の王妃に選ばれてしまうのだった。 ※設定甘い、ご都合主義です。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...