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私と最愛の魔法使い~王女様、私の夫に惚れられても困ります!~

二年越し

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 翌朝、いつも通りに目を覚ましたアリシアは、大好きなレイが家にいるのではしゃいでいた。
「レイおはよう。昨夜は本当にありがとう。」
「ナタリー。おはよう。アリシア落ち着いてるみたいで良かった。それで、考えたんだけど·····アリシアはまたいつ同じような症状が出るか分からないかも。症状を抑えることができるのは僕だけだから、僕はアリシアの側にいた方がいいと思うんだ。だから······」
「うん。私も考えていたの。あの、もしレイが良ければ───迷惑かもしれないけど、アリシアの体調が落ち着くまで一緒に·····一緒に暮らしてくれたら嬉しい。」
 ナタリーが覚悟を決めてそう言うと、レイは顔を上げて笑顔になった。
 こうして、レイはナタリーとアリシアと共に暮らすことになった。

 ナタリーの家に大きめの荷物を持ち運んでいるレイに気付いたエルが、ドア越しにナタリーに声をかけてきた。
「え?あなた達とうとう一緒に住むの!?」
「エル。これには事情があるのよ。私からお願いしたことなの、しばらくの間だけ!」
「ふーん。そうなんだ。」
 エルはそういうと、ニヤニヤしながら家の中に入っていった。

 アリシアはそれから、何度か夜中に同じような症状が起こった。その度にすぐに隣室に寝ているレイがアリシアを落ち着かせてくれるので、ナタリーの中でレイの存在が大きくなっていった。アリシアの体調は落ち着いていき、最近はめったに発作は出なくなっていた。

 ある日、アリシアを昼寝させたナタリーはそのまま一緒に寝てしまった。気付いたら夕方になっており、夕食の準備をしていなかったことを思い出し、あわてて飛び起きた。
 キッチンにはレイが立っており、既に何品か料理を作っていた。
「ごめんなさい!私寝ちゃってて·····レイは料理なんかしなくていいのよ──来てもらってるんだから何も····」
「何もするなって?これぐらいやらせてよ。居候みたいで居辛いだろ?」
「·······ごめんね。ありがとう。」
「ごめんはなし。できたばかりだから少し早いけど食べる?アリシアが寝てるうちに。」
 食卓に並べられた美味しそうな料理を見たナタリーは、いただきますと言い料理を口に運んだ。
 懐かしい味がした。フィガロで食べ慣れた、ナタリーの為にいつもレイが作ってくれた大好きな味だ。
 堪えきれなくなり、突然涙を流したナタリーに驚いたレイは、焦ってナタリーに駆け寄ってきた。
「ど、どうしたの?不味かった!?」
「·······いいえ、すごく美味しい。ごめん、あの頃を思い出してしまって───」
「覚えててくれて嬉しい。ナタリー、この料理好きだったよね。」
 ナタリーが笑顔で頷き、レイの方へ顔を向けると、不意にレイから唇を重ねられた。
「··········!」
 ナタリーは驚き一瞬身を固くしたが、すぐに力を抜き、レイの唇を受け入れた。それからレイは強くナタリーを抱き締めた。
「好きだよナタリー。過去も含めて、今はもっと君が愛しい。アリシアのことも好きだ。······2人と家族になりたい。」
「·······レイ、私もあなたが好き。──いいの?苦労すると思う。」
 その言葉を聞いたレイは、「いいよ。苦労させて。」と言い、今度は深くナタリーに口付けた。
 ナタリーは、アッシュへの愛とレイへの愛は同じではないことに気付いていた。アッシュは最初からナタリーの中で特別で、自分達以外はどうなってもいいというような、一種の破滅的な感情を抱いていた。一方レイは、ナタリーを優しく包み込むような、一途でひたむきな愛をくれた。ナタリーや娘を笑わせてくれ、安心させてくれる彼が好きだった。
 ずるい考えかもしれないが、自分やアリシアを支えてくれるレイの優しさにすがりたくなった。
 レイのキスが首筋に下りてきた為、ナタリーはさすがに彼を制止した。
「レイ·····せっかくの料理が冷めちゃうから······」
 レイはしばらく行為をやめなかったが、途中「ごめん」と言い、諦めて体を離した。
 久しぶりにレイに触られたことで、ナタリーはいつになく緊張し、レイの顔がまともに見られなくなった。
 料理に集中し食べ終わる頃に、アリシアが目が覚めて泣き出した。そしてその日は、いつも通りアリシアに夕御飯を食べさせ、お風呂に入れてから少し遊ばせ、就寝させた。
 慌ただしい1日が終わり、ほっと一息ついたナタリーは、自身も寝ようとレイに声をかけた。
「レイ、私も寝るわ。おやすみなさい。」
 ベランダに出て夜風に当たっていたレイは「ああ、うん。おやすみ。」と応えた。
 ナタリーが寝室へ向かおうとすると、ベランダから部屋に入ってきたレイに呼び止められた。
「ナタリー」
「········レイ。どうしたの?」
「今日、一緒に寝ない?」
「───────うん。」
 ナタリーはしばらく迷ったが、レイの誘いを受け入れた。
 ナタリーは初めての時のように緊張し、顔が紅潮しているのが分かった。レイに手を引かれ、彼が使っているベッドに連れていかれた。

 その夜、レイと身体を重ねた。ナタリーには複雑な想いもあったが、レイは優しく情熱的に、時に激しくナタリーを抱いてくれた。隣の部屋で娘が寝ているので、声を圧し殺すのに苦労した。
 2年ぶりのレイとの情事に翻弄され、ナタリーは朝起きてからも隣に寝ているレイを見ると、胸の鼓動がおさまらなかった。レイとの交わりが以前と変わっている気がした。以前は、優しく愛撫され、身も心も溶けてしまいそうなものだったが、昨夜は優しさの中にも荒々しく扇情的な一面があり、思い出すだけで顔が紅くなりそうだった。
 目覚めたレイと目が合い、ナタリーは恥ずかしくなって顔を背けた。
「ナタリー、こっち向いて。」
 振り向くとレイにきつく抱き締められ、胸元に口付けをされた。ナタリーは自身の中が再び溢れてくるのを感じた。
「レイ·····駄目よ朝から───」
 以前のレイなら、笑いながらごめんと言ってやめてくれたのだが、今朝はやめるそぶりはなく、ナタリーは再び快楽の波に身を任せた。
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