上 下
91 / 121
私と最愛の魔法使い~王女様、私の夫に惚れられても困ります!~

しおりを挟む
 ナタリーはアッシュの死から完全に立ち直ることは今だできなかったが、それでも日々を慌ただしく過ごすうちに、なんとか笑って1日を終えることができるようになっていた。それも、エルや子ども達、アリシア、そしてレイのおかげだ。

 エルの子ども達とレイが、家の外で鬼ごっこしているのを、ナタリーとエルは玄関先の石段に座って眺めていた。
 1歳3ヶ月になるアリシアは掴まり立ちができるようになり、「ママ」など簡単な言葉を発するようになっていた。歩けるようになったことで視界が広がり、すべてのものが面白いようで、石垣をつたい歩きしながら道端の草をちぎってナタリーに見せに来るという遊びを繰り返していた。

「ねぇ、ナタリー聞きたかったんだけど、レイとはどうなの?」
「どうって?別に今まで通りよ。あぁ、でもこの前、アリシアがレイのこと『パパ』って言ったのよ。わたしが教えたわけじゃないんだけど、エルの旦那さんのこと、みんながパパって呼ぶじゃない?だから、一番身近にいる男の人をパパって思ったみたいでね、アリシアはまだ小さいし、私なんて説明すればいいのか·····」
 ナタリーが見当違いの話をし始めたので、エルはナタリーの話を遮った。
「そうじゃなくて!ナタリーとレイは元夫婦でしょ?今のあなた達、お似合いの夫婦にしか見えないわよ。ただの隣人っていう方がおかしいわ。」
「───エル、やめてよ。レイは親切にしてくれてるだけ。私とアリシアは面倒を見てもらってるの。この関係が一番上手くいくのよ。それに私······アッシュを忘れたくない。」
 エルはため息をついた。
「彼が忘れられないのは分かるわよ·····死んだ人が心の中で生き続けるのは誰だって同じ。でも、レイがここにいるのは、あなたを愛してるからよ。それ以外の理由なんてない。『ただ親切な隣人』のままがいいなんてレイは思ってないはずよ。でもあなたを困らせたくなくて、このままの関係がいいよねってフリをしてるのよ。彼の目を見たら分かる。」
 そのことは、ナタリーも薄々気付いてはいた。ふとした時にレイが自分を切なそうな目で見ていること、何げなくナタリーの肩や顔に触れようとした時に躊躇し、手を引っ込める仕草を見たことがあるからだ。
「───でも、簡単じゃないのよエル。レイは私に、『僕を裏切ったとかもう思わなくていい』って言ってくれたけど·····でも私は実際にアッシュを選んだのよ。レイと一生会えなくなったとしても、アッシュといたいってその時は本気で思ってたの。そんな私がどんな顔して彼の隣に立てばいいの?」
「ナタリー。過去の自分や亡くなった人より、今側にいてくれる人に向き合わなきゃ。ずっと負い目を感じて生きていくの?そんなこと誰も望んでない。」
「·················」
 ナタリーは何も言い返せず、考え込んでしまった。
「シンプルに考えればいいのよ。レイに男性として側にいて欲しいと思ってる?それとも、たまに子どもの相手をしてくれるただの友達がいい?」
 ナタリーは子ども達と楽しそうに遊んでいるレイを見た。結局レイは、ナタリーが王女を助けたことも、アッシュと寝たことも一度も責めなかった。そればかりか、ナタリーのことは忘れ王配になることもできたはずだ。それなのに、自分の名前を捨て、何も持たないままこの国にやってきて、今も何も欲しがらずただ側にいてくれる。これを愛と呼ばずして何と呼ぶのかナタリーには分からなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

幼馴染パーティーを追放された錬金術師、実は敵が強ければ強いほどダメージを与える劇薬を開発した天才だった

名無し
ファンタジー
 主人公である錬金術師のリューイは、ダンジョンタワーの100階層に到達してまもなく、エリート揃いの幼馴染パーティーから追放を命じられる。  彼のパーティーは『ボスキラー』と異名がつくほどボスを倒すスピードが速いことで有名であり、1000階を越えるダンジョンタワーの制覇を目指す冒険者たちから人気があったため、お荷物と見られていたリューイを追い出すことでさらなる高みを目指そうとしたのだ。  片思いの子も寝取られてしまい、途方に暮れながらタワーの一階まで降りたリューイだったが、有名人の一人だったこともあって初心者パーティーのリーダーに声をかけられる。追放されたことを伝えると仰天した様子で、その圧倒的な才能に惚れ込んでいたからだという。  リーダーには威力をも数値化できる優れた鑑定眼があり、リューイの投げている劇薬に関して敵が強ければ強いほど威力が上がっているということを見抜いていた。  実は元パーティーが『ボスキラー』と呼ばれていたのはリューイのおかげであったのだ。  リューイを迎え入れたパーティーが村づくりをしながら余裕かつ最速でダンジョンタワーを攻略していく一方、彼を追放したパーティーは徐々に行き詰まり、崩壊していくことになるのだった。

異世界に行ったら才能に満ち溢れていました

みずうし
ファンタジー
銀行に勤めるそこそこ頭はイイところ以外に取り柄のない23歳青山 零 は突如、自称神からの死亡宣言を受けた。そして気がついたら異世界。 異世界ではまるで別人のような体になった零だが、その体には類い稀なる才能が隠されていて....

魔法が使えなかった令嬢は、婚約破棄によって魔法が使えるようになりました

天宮有
恋愛
 魔力のある人は15歳になって魔法学園に入学し、16歳までに魔法が使えるようになるらしい。  伯爵令嬢の私ルーナは魔力を期待されて、侯爵令息ラドンは私を婚約者にする。  私は16歳になっても魔法が使えず、ラドンに婚約破棄言い渡されてしまう。  その後――ラドンの婚約破棄した後の行動による怒りによって、私は魔法が使えるようになっていた。

大賢者の二番弟子、転生後は伝説級の強者扱いされる 〜死んでいる間に一番弟子の暴走で大賢者の戦闘理論が失われ、一番弟子も消えたらしい〜

Josse.T
ファンタジー
⚠️俺の作品の面白さは書籍化作品を越えるって自信がある! 騙されたと思って読んでいってくれ!⚠️ 大賢者の二番弟子は世渡り上手なサボリ魔で、実力は一般の弟子に劣る程度だった。 そんな彼の唯一の取り柄は、転生魔法の申し子であり、その扱いだけは大賢者をも凌駕した事だ。 彼は兄弟弟子たちからの相談を受け、素行不良が目立つ危険思想の持ち主であった一番弟子に「転生妨害」の呪いをかける。 そしてその後、自らは「美少年に生まれ変わる」だけの目的で、魂をいじって来世のスペックを調整し、転生した。 転生後。彼が見たものは──戦闘技術が完全に衰退した、文明レベルの低い世界だった。

何でも欲しがる妹が、私が愛している人を奪うと言い出しました。でもその方を愛しているのは、私ではなく怖い侯爵令嬢様ですよ?

柚木ゆず
ファンタジー
「ふ~ん。レナエルはオーガスティン様を愛していて、しかもわたくし達に内緒で交際をしていましたのね」  姉レナエルのものを何でも欲しがる、ニーザリア子爵家の次女ザラ。彼女はレナエルのとある寝言を聞いたことによりそう確信し、今まで興味がなかったテデファリゼ侯爵家の嫡男オーガスティンに好意を抱くようになりました。 「ふふ。貴方が好きな人は、もらいますわ」  そのためザラは自身を溺愛する両親に頼み、レナエルを自室に軟禁した上でアプローチを始めるのですが――。そういった事実はなく、それは大きな勘違いでした。  オーガスティンを愛しているのは姉レナエルではなく、恐ろしい性質を持った侯爵令嬢マリーで――。 ※全体で見た場合恋愛シーンよりもその他のシーンが多いため、2月11日に恋愛ジャンルからファンタジージャンルへの変更を行わせていただきました(内容に変更はございません)。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

処理中です...