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私と最愛の魔法使い~王女様、私の夫に惚れられても困ります!~

彼のいる日々

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 レイがここに暮らしてこれからも顔を合わせるのであれば、エルにも話しておいた方がいいかと思い、ナタリーはレイとの関係について、簡単にだが説明しておいた。
「つまり、あなたとレイは元夫婦だったけど、王女の陰謀に巻き込まれて離ればなれになった。その間に、ナタリーのピンチを救ってくれた幼馴染があなたを寝取って、結果子どもができたんだけど、レイはそれでもいいからってあなたを追ってここまで来たってこと!?なにそれドロドロじゃない!面白いわ!!」
 エルがそういう話を待ってましたと言わんばかりにイキイキしていたので、ナタリーはため息をついた。
「········エル。全く面白くないわ。要するに私が最低だって話よ。」
「あら!獣人の間じゃ、雄が人気のある雌を取り合うのは普通よ。雌はより強い男になびく。あなたは本能に従っただけでしょ?後ろめたく思う必要ないわよ。それにしても、あんな若くて美しい男に追いかけられるなんてナタリーもやるわね。意外に魔性の女なの?」
 ナタリーは泣くアリシアをあやしながら、エルの発言を聞き流した。近くに住んでいるといっても、あんなことがあったし、レイはそう頻繁にこちらに顔を出すことはないだろうと思っていた。

 次の日からレイは、何の用かは知らないが、隣の家のエル宅を訪ねている様子だった。
 数日後、レイは突然ナタリーの家を訪ねてきた。手には何やら料理の入った皿をいくつも持っている。
「·····こんにちはレイ。どうしたの?」
「ナタリー、これ作りすぎちゃったからもらって。」
「──え、え?私に?いいの?」
 笑顔で頷いたレイは、料理の皿をナタリーに渡すとさっさと帰っていった。そんなことが何日も続いた。
 (これは、明らかに私の為に料理を作ってくれてるのね···でもなんで?)
 気になったナタリーは、家に遊びに来たエルに事情を聞いてみた。
「あぁそのこと!レイが、うちに来てね。『赤ん坊がいる母親は、どんなことが助けになりますか?』って聞いてきたのよ。お母さんは疲れてたり時間がなかったりするから、ごはんがあるとありがたいんじゃない?って教えてあげたわ。」
「そうだったんですか····それで毎日──」
「レイは家の子ども達とも遊んでくれるわよ。この前も、3人の子守りをしてもらってる間に私は買い物に行けちゃった。子ども達もレイに懐いているわ。彼いい子ね!あなたの役に立ちたいのよ。」
 レイがそんなことを考えてくれているのがひどく申し訳なかったが、実際に料理をもらって助かっていたのは事実だった。

 ある日、エルの家の外で、エルの子ども達とレイが遊んでいる声が聞こえたので、ナタリーはアリシアを抱いて外に出た。
「レイ!料理いつもありがとう。すごく助かるわ。それにおいしい。でも、私も作る時間はあるから毎日もらわなくても大丈夫よ。たまにでもすごくありがたいわ。」
「そっか。うん分かった。·····ナタリー、その子、抱いてみてもいい?」
 レイがアリシアを抱きたがったので、ナタリーは抱き方を教えながらそっとレイにアリシアを抱かせた。
 アリシアは泣かずに、レイの顔をじーっと見て時折笑顔を見せていた。
「あなたが好きみたい。」
「アリシアこんにちは。····はは、本当にかわいい。赤ちゃんって軽いけど、頭が落ちそうでちょっと怖いな。」
 アリシアは首が座る前だったので、抱きなれていないレイは少し慣れないようだった。
 それからレイは、ルイーゼに連れられ干ばつのひどい地域に赴き、魔法を駆使して水不足を解消させたり、水脈を見つける手伝いをしたり、病気や食糧難で伏せっている人々に回復魔法を使ったりと、あちこちから助けを求められ、忙しく日々を過ごしていた。ルイーゼがあまりにもレイをこき使うものだからエルはルイーゼに苦言を呈した。
「ルイーゼ様。レイは魔法使いですが、便利屋ではありませんよ。ただここに住まわせているだけでしょう?対価に見合わない仕事をさせていますよ。それなら、きちんとした報酬を支払うなり、相応の特別な地位に就けるなりしてあげて欲しいです。」
 エルに痛いところを突かれたルイーゼは、口ごもりながら反論した。
「それはそうだが、レイが特別な見返りはいらないと言うんだ·····ただ不自由なく生活できればそれでいい、干渉せず放っておいてほしいと。」
 レイはとにかく目立つことを嫌った。魔法界でも帝国でも、能力を買われ目立ってしまった結果、レイの意思とは真逆の方向に事態が進み、結果的にナタリーとも離れることになった。
 ルイーゼがエルの言葉を考慮した結果、レイの仕事量は見直されることになり、その分時間に余裕が生まれた。ナタリーやエルの家に来て、子ども達やアリシアと過ごす時間が次第に増えていった。
 そうして毎日を過ごし、レイが一緒に過ごすようになって1年の年月が流れた。

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