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私と最愛の魔法使い~王女様、私の夫に惚れられても困ります!~

獣人の国ラニア

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 ナタリーはそれから3ヶ月間、苦難に見舞われながらも一人旅をし、やっとの思いで獣人の国ラニアに到着した。
 到着したラニアは年中温暖な国で、民家は平屋の石造りだった。自然が多く残り、帝国とは異なる独特な文化を築いてきた国だ。
 ラニアにも王族と呼ばれる人々がるらしく、アッシュからは、
『王族のルイーゼという男に会え。俺の名前を出せば分かる。』
 と言われていた。この国はそもそも観光で来られるような場所ではなく、特別な人物に会い、特別な行き方を訪ねなければ見つけることもできない、隠された国だった。

 ナタリーが到着すると、やはり国境には警備を担当する獣人がいた。ナタリーは獣人を見るのは初めてで、犬のようなミミが生えた男性をまじまじと見てしまった。
「········お前は何者だ!?どうやってここへ·····女か!?」
 訪問者が、しかも女性が来ることが珍しいのか、獣人からひどく警戒され、奇異の目で見られた。
「あの·······私はナタリーと言います。白銀の髪の魔法使いアッシュの侍女をしていました。王族のルイーゼ様にお会いしたいです。」
 それだけ言うと、警備の男はひどく焦り、「少々お待ちを···!!」と言ってその場を離れた。しばらくすると、ナタリーは王族の住む居住地へ連れていかれることになった。
 大柄な獣人の引く荷台に揺られながら、王族の住む居住地へ到着した。そこは、白いシンプルな石造りの建物で、ナタリーは別の世界へ迷い込んだような錯覚に陥った。
 通された部屋で待っていると、王族のルイーゼと呼ばれる壮年の男性獣人が姿を現した。
 ルイーゼは長身で浅黒い肌に、虎のような耳が付いていた。目はどこか獰猛な印象があり、ナタリーは自分がこの場で取って食われるのではないかという気がした。
「ナタリー、長旅ご過労だった。魔法使いアッシュ様の侍女だったと·····かねてより、アッシュ様からあなたのことは聞いていた。大切な人だから、もし現れたときは丁重に扱えと。」
「あの······アッシュはなぜこの国に来たんですか?どういったご関係で?」
「アッシュ様がこの国へ来たのは、8ヶ月ほど前だったな。突然来て、この国を統治している人物に会いたいと言うものだから、皆警戒した。見たこともない魔法の数々を目の当たりにし、獣人属は恐れおののいた。侵略でもされるのかと思ったが、『危害を加える気はない。この国の助けになる話をしにきた』というものだから、私が直接話を聞いたのだ。」
「この国の助けに······??」
「ああ、私達の国はこの暑さで、作物が枯れ、年中水不足に陥っていたんだ。人々は飢え、病気が蔓延し、子どもが産まれても育てることができないくらい困窮していた。それを、あの方の操る魔法で、枯渇していた貯水池に水が戻り、大きな川が流れ、水不足が解消されたんだ。」
「そうだったんですか······でも、アッシュはなぜ突然この国の助けとなるようなことをしたんでしょうか?」
「彼が言うには、帝国は、魔法使いは迫害され嫌われ、住むことができない国になってしまったと。このラニアの発展の為に力を借す代わりに、魔法使いを許容する国にして欲しいと言われたよ。私達からすれば、魔法使いは本当にありがたい存在だ。彼らの力のお陰で、救われる命が大勢いるからな。迫害など信じられん。」
 ナタリーはルイーゼの話を聞き、アッシュの行動を意外に思った。アッシュは他人に関心がなく、自分に関係さえしなければ手を出すことはないと思っていた。しかし、行き場をなくした魔法使いに対しては、元魔法使いのトップとして思うところがあったのだろう。このラニアの国に、魔法使い達の受け皿を作ることで、少しでも彼らを救おうとしたのだ。
「ところで·····アッシュ様は?ご一緒ではないのですか?」
「ええ──実は、やることがあると旅立ってしまいました。待っていたのですが戻らず、私だけこちらへ来てしまいました·····お腹に、アッシュの子がいます。本当にご迷惑だと思うのですが、私をこの国に住まわせていただけないでしょうか?仕事でも何でもいたします。わたしはこの子と生きていきながら、彼の帰りを待ちたいんです。どうか力を借していてだけないでしょうか?」
 子どもがいると言うとルイーゼは驚き、立っていたナタリーを椅子に座らせた。
「お腹にお子が!?しかも···アッシュ様との───?なぜそれを早く言わないのです!安静にしていなければ!なんとまぁ妊娠中に一人でこんなところまで·····」
 ルイーゼはナタリーの体調を気遣い、王族が住む住居とは別に、仮暮らしができる住みかを用意すると言ってくれた。
「ご迷惑をおかけします·····落ち着きましたら、私も皆さんのお力になれるよう働きます。本当にありがとうございます。」
「あなたは何も心配しなくていい。子どものためにも、安静にしておきなさい。」
 ナタリーは住居に住まわせてもらい、出産まで、一人で暮らすことになった。
 アッシュの帰りを待ち続けたナタリーだったが、衝撃の事実を知ることになったのは、ちょうど妊娠8カ月目の頃だった。
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