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私と最愛の魔法使い~王女様、私の夫に惚れられても困ります!~
見知らぬ男
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アレクシアは自室のベッドで目を覚ました。
結婚式を終えた後、その足ですぐにウィルを王女の部屋へ連れてきて、興奮覚めやらぬまま交わった。
愛しい夫の顔を見ようと、王女に背を向け、隣に寝ているウィルの顔を覗き込んだ時である。王女は悲鳴をあげた。
「······きゃあ!!!お前は誰だ!!?ここで何をしている!?───ウィルはどこへ······!?」
王女の隣で寝ていた男はゆっくりと王女に向き直り、特段焦ったような様子もなく余裕たっぷりの表情で答えた。
「どうしました?王女様。あんなに激しく愛し合った夫をお忘れですか?俺がウィルですよ。」
ウィルとは似ても似つかぬ男だった。金髪のウィルとは正反対の黒髪に、筋肉隆々としてたくましい体をしている。端正な顔立ちをしているが、王女の好みとはかけ離れた容姿だった。
「───何を言っているの!?お前なんか知らないわ!!誰か!!誰かきて!!!」
ひどく狼狽した王女は、部屋の外にいる騎士を呼んだ。
すぐに騎士が3人、何事かと駆けつけた。
「この者が私の部屋に勝手に侵入した挙げ句、ウィルを名乗っているのよ!!お前達は何をしているの!?早く捕らえて!!!」
騎士達は顔を見合わせ困惑した。
「しかし、王女様はウィル様と······その方は先程王配となられました、『ウィル王子』です。」
「·········何を言っているの?この者がウィルなわけないじゃない。ウィルは金髪の美青年よ。お前達も見たことがあるでしょう!!」
王女はひどく苛立ち始めた。騎士達に話が通じず、まるで王女だけが狐に化かされたような気分だった。
「私達は昨日まで、『ウィル』と呼ばれる隣室で生活する金髪の青年を確かに見ていましたが······本日、結婚式にて民衆の前に王女様と共に出られたのは、今そちらにいらっしゃる『ウィル様』です。私達も、その場にいた民衆、国王様もご覧になられていました。」
「········何ですって?········」
王女はこれが現実だということが信じられなかった。
「王女様はお疲れのようだ。式典で疲れているのに、さらに無理をさせてしまったからな。もう下がっていいぞ。」
『ウィル王子』と呼ばれる男が騎士達を下がらせ、再び部屋には王女と男2人きりになった。
「何で········お前、私に何したの?····」
王女は憎しみのこもった目で男を睨んだ。男は高らかに笑いながら王女に言った。
「俺は何もしていません。俺があなたの夫で間違いありません。『ウィル・アンダーソン』ですよ。」
『ウィル』は王女を抱き寄せ、ひどく嬉しそうに耳元で囁いた。
「僕は本当に嬉しいです、王女様。誰もが憧れるような夫婦になりましょう。魔力のあるお子が欲しいのでしょう?僕もそれを願っています。民衆の為、この国の為、魔法使いの為に心血を注ぐことを誓います。」
放心状態になった王女はやっと理解した。(·······私は騙されたのだ。ウィルに、この男に───もう取り返しがつかない。)
◇
結婚式当日、ウィルは計画を実行した。
王女の部屋で、浮かれた様子で鏡を見ている王女に対し幻覚魔法をかけた。
この魔法は万能な魔法ではない。
特定の人物に対してのみ効果がある魔法で、魔法をかけられた者にだけ『ある人物が一定時間、全く別の人物に見える』という幻覚魔法だ。本当に成り変わるわけではないし、効果もせいぜい5~6時間というところだろう。使い勝手が悪く、魔法本の端に書かれてはいても、皆忘れてしまうような地味な魔法だったが、ウィルは覚えていた。
魔法が解けた後、王女が何を言ったところで後の祭りだ。カイザーを『ウィル』として御披露目すれば、誰もが彼をウィルだと認識する。カイザーはウィル・アンダーソンに完全に成り代わった。
カイザーに関する戸籍等の記録を抹消し、ウィルの記録に書き換えることは、アラン王子やギース、魔法界のトップに就いていたジークリートの力を使えば容易いことであった。
自室に忘れ物をしたと言い、王女の部屋を出たウィルは、ウィルの部屋で待機していたカイザーと入れ替わり、秘密の地下通路を通って離宮に来た。結婚式が終わり、カイザーと王女が初夜を過ごす時まで、念の為エステルと共に離宮の部屋で待機していた。
「こんなこと思い付くとはね。でも、あなたはもうウィル・アンダーソンじゃない。帰る場所はあるの?私は悔しいけど、ナタリーはアッシュのものになってるかもよ?」
ウィルは苦笑しながら答えた。
「·······その時は、立ち直れないかもしれませんが、それでも彼女を探します。僕はどうしようもないですよね。」
「──いいえ。一途で好きよ。私は、生きている間はアッシュを諦めてしまった。彼の心はいつまで待っても手に入らないもの。でも死ぬ時は彼を誰にも渡さないわ。それがあるから、私は彼に会えなくても平気なの。」
エステルはどこか切なそうな表情で笑った。それからしばらく待つと、カイザーが王女の部屋へ入り、手はず通り初夜を実行したとの情報が流れてきた。
「カイザーは上手くやったみたいね。」
「······はい。カイザーに重責を押し付け、逃げることが申し訳ないです。」
「そんなことないわよ。彼はトップになりたがってた男よ。ただの側近よりも、そっちの方が性に合ってるわ。·····じゃあ、元気でね、ウィル。」
「はい。エステル様も、どうかお元気で。」
そうして、『ウィル・アンダーソンだった男』は人々の前から姿を消した。
結婚式を終えた後、その足ですぐにウィルを王女の部屋へ連れてきて、興奮覚めやらぬまま交わった。
愛しい夫の顔を見ようと、王女に背を向け、隣に寝ているウィルの顔を覗き込んだ時である。王女は悲鳴をあげた。
「······きゃあ!!!お前は誰だ!!?ここで何をしている!?───ウィルはどこへ······!?」
王女の隣で寝ていた男はゆっくりと王女に向き直り、特段焦ったような様子もなく余裕たっぷりの表情で答えた。
「どうしました?王女様。あんなに激しく愛し合った夫をお忘れですか?俺がウィルですよ。」
ウィルとは似ても似つかぬ男だった。金髪のウィルとは正反対の黒髪に、筋肉隆々としてたくましい体をしている。端正な顔立ちをしているが、王女の好みとはかけ離れた容姿だった。
「───何を言っているの!?お前なんか知らないわ!!誰か!!誰かきて!!!」
ひどく狼狽した王女は、部屋の外にいる騎士を呼んだ。
すぐに騎士が3人、何事かと駆けつけた。
「この者が私の部屋に勝手に侵入した挙げ句、ウィルを名乗っているのよ!!お前達は何をしているの!?早く捕らえて!!!」
騎士達は顔を見合わせ困惑した。
「しかし、王女様はウィル様と······その方は先程王配となられました、『ウィル王子』です。」
「·········何を言っているの?この者がウィルなわけないじゃない。ウィルは金髪の美青年よ。お前達も見たことがあるでしょう!!」
王女はひどく苛立ち始めた。騎士達に話が通じず、まるで王女だけが狐に化かされたような気分だった。
「私達は昨日まで、『ウィル』と呼ばれる隣室で生活する金髪の青年を確かに見ていましたが······本日、結婚式にて民衆の前に王女様と共に出られたのは、今そちらにいらっしゃる『ウィル様』です。私達も、その場にいた民衆、国王様もご覧になられていました。」
「········何ですって?········」
王女はこれが現実だということが信じられなかった。
「王女様はお疲れのようだ。式典で疲れているのに、さらに無理をさせてしまったからな。もう下がっていいぞ。」
『ウィル王子』と呼ばれる男が騎士達を下がらせ、再び部屋には王女と男2人きりになった。
「何で········お前、私に何したの?····」
王女は憎しみのこもった目で男を睨んだ。男は高らかに笑いながら王女に言った。
「俺は何もしていません。俺があなたの夫で間違いありません。『ウィル・アンダーソン』ですよ。」
『ウィル』は王女を抱き寄せ、ひどく嬉しそうに耳元で囁いた。
「僕は本当に嬉しいです、王女様。誰もが憧れるような夫婦になりましょう。魔力のあるお子が欲しいのでしょう?僕もそれを願っています。民衆の為、この国の為、魔法使いの為に心血を注ぐことを誓います。」
放心状態になった王女はやっと理解した。(·······私は騙されたのだ。ウィルに、この男に───もう取り返しがつかない。)
◇
結婚式当日、ウィルは計画を実行した。
王女の部屋で、浮かれた様子で鏡を見ている王女に対し幻覚魔法をかけた。
この魔法は万能な魔法ではない。
特定の人物に対してのみ効果がある魔法で、魔法をかけられた者にだけ『ある人物が一定時間、全く別の人物に見える』という幻覚魔法だ。本当に成り変わるわけではないし、効果もせいぜい5~6時間というところだろう。使い勝手が悪く、魔法本の端に書かれてはいても、皆忘れてしまうような地味な魔法だったが、ウィルは覚えていた。
魔法が解けた後、王女が何を言ったところで後の祭りだ。カイザーを『ウィル』として御披露目すれば、誰もが彼をウィルだと認識する。カイザーはウィル・アンダーソンに完全に成り代わった。
カイザーに関する戸籍等の記録を抹消し、ウィルの記録に書き換えることは、アラン王子やギース、魔法界のトップに就いていたジークリートの力を使えば容易いことであった。
自室に忘れ物をしたと言い、王女の部屋を出たウィルは、ウィルの部屋で待機していたカイザーと入れ替わり、秘密の地下通路を通って離宮に来た。結婚式が終わり、カイザーと王女が初夜を過ごす時まで、念の為エステルと共に離宮の部屋で待機していた。
「こんなこと思い付くとはね。でも、あなたはもうウィル・アンダーソンじゃない。帰る場所はあるの?私は悔しいけど、ナタリーはアッシュのものになってるかもよ?」
ウィルは苦笑しながら答えた。
「·······その時は、立ち直れないかもしれませんが、それでも彼女を探します。僕はどうしようもないですよね。」
「──いいえ。一途で好きよ。私は、生きている間はアッシュを諦めてしまった。彼の心はいつまで待っても手に入らないもの。でも死ぬ時は彼を誰にも渡さないわ。それがあるから、私は彼に会えなくても平気なの。」
エステルはどこか切なそうな表情で笑った。それからしばらく待つと、カイザーが王女の部屋へ入り、手はず通り初夜を実行したとの情報が流れてきた。
「カイザーは上手くやったみたいね。」
「······はい。カイザーに重責を押し付け、逃げることが申し訳ないです。」
「そんなことないわよ。彼はトップになりたがってた男よ。ただの側近よりも、そっちの方が性に合ってるわ。·····じゃあ、元気でね、ウィル。」
「はい。エステル様も、どうかお元気で。」
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