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私と最愛の魔法使い~王女様、私の夫に惚れられても困ります!~

ウィルの予感

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 ウィルは自室で、ナタリーのことを考えていた。
 魔法使い達が逃げ出してから一週間が経つ。アッシュが助けたのだろうから、きっとナタリーは今もアッシュと一緒にいるだろう。アッシュの助けがなければ、今頃彼女は殺されていたかもしれない。想像するだけでゾッとし、何もできなかった弱い自分が恨めしかった。

 ナタリーとセントラルを逃げ出す以前から、ナタリーがアッシュに対して恋心を抱いているというのは薄々気付いていた。あんなに近い関係だったにも拘らず、逃げ出すという選択をしたということは、ウィルの知らない、ただの幼馴染や主従関係以上の何かがあったのだろう。
 アッシュが姿を消してからは、ナタリーは夜な夜な声を殺して泣いていた。しかし、アッシュは消え、以前もそしてこの先も、ナタリーの側にいるのはウィルだった。ナタリーとアッシュ、2人の縁が交わることはもうないと安心していた。

 しかし今はどうだ?
 ナタリーの絶対絶命のピンチに駆けつけたのはアッシュで、魔法使い達を救い出したのも彼だ。
 ウィルはナタリーとは二週間以上まともに話しもできておらず、しかもウィルを気に入っている王女にイビられた挙げ句、差し向けた近衛兵に乱暴までされかけた。
 王女と婚姻すると公に公表されている男を、ナタリーは無条件に待つだろうか?
 アッシュがナタリーに執着し、愛していることは疑いようのない事実だ。
 ナタリーの命を救ってくれ、彼女を健気に愛してくれる強く美しい魔法使いに心を奪われるのはごく自然な気がして、ウィルはいても立ってもいられなくなった。

 アラン王子やカイザーから話された、『魔法使い全体が生き残るために、このまま王女と結婚して欲しい』ということについて、ウィルなりにも考えてはみた。
 (カイザーの言っていることは理解できる。だれかが王配につくのが最善の手だということも······しかし、僕には大義がない。僕はあの夜、ナタリーを逃がすためなら、他の魔法使い達が殺されようが構わないと本気で思った。そんな奴が、大勢の人間達の上に立つのにふさわしくない。)
 ウィルにとって、自分の居場所はナタリーの側以外には考えられなかった。
 (もしナタリーが僕を待ってなくても·····それでも君と一緒にいたい。僕は浅ましい人間だ。)

 ウィルが思うに、王女から逃れ、かつ魔法使い達の立場を固める方法は一つある。しかし、それは一人では絶対に成功し得ないもので、『ある人』に話を持ち掛ける必要があった。
 ナタリーや、『赤い塔』に囚われの魔法使い達が逃げたことで人質の心配がなくなり、ウィルは王女の顔色を伺い行動することをやめていた。
 (僕達がいなくなって困るのは王女だ。この首輪もいざというときにしか使えない。)
 ウィルが堂々と部屋を出た際、王女に気付かれ呼び止められたが、聞こえないことにして振り向かずに離宮へ向かった。

 ウィルは離宮のギースの元を訪ね、カイザーを呼び出した。
「話しとは何だウィル?」
「カイザーに聞きたいことがあって来た。あなたは、ただの側近で満足か?王配になりたくはないか?」
「────?王配になるのはお前だろう?俺はこの国を統治できるのならば、願ってもない話だが·······王女はお前以外は認めないだろう。」
 カイザーはセントラルにいる時から、ウィルとは正反対で野心の強い男だった。個々よりも、大義を成すこと、魔法使いであることに誇りを持っているとウィルは知っていた。

 ウィルが考えた『唯一の方法』をカイザーに話すと、カイザーはさも面白くて堪らないというような顔をして、ニヤリとした。
「その話乗った。それくらいでなきゃ、俺はやりがいがなかったんだ。あの鼻持ちならない王女なんぞ只の小娘だ。一度手綱を握ってしまえば恐れるに足りない。では、手はず通りに。頼んだぞウィル。」

 これで協力者は得られた。あとは、王女との結婚式を待つだけだ。
 ここを出たとして、ナタリーがどこにいるのか探し当てるのも簡単ではない。
 とにかく今は、この計画を成功させることに集中しよう。そう心に決めたウィルであった。
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