上 下
81 / 121
私と最愛の魔法使い~王女様、私の夫に惚れられても困ります!~

ウィルの予感

しおりを挟む
 ウィルは自室で、ナタリーのことを考えていた。
 魔法使い達が逃げ出してから一週間が経つ。アッシュが助けたのだろうから、きっとナタリーは今もアッシュと一緒にいるだろう。アッシュの助けがなければ、今頃彼女は殺されていたかもしれない。想像するだけでゾッとし、何もできなかった弱い自分が恨めしかった。

 ナタリーとセントラルを逃げ出す以前から、ナタリーがアッシュに対して恋心を抱いているというのは薄々気付いていた。あんなに近い関係だったにも拘らず、逃げ出すという選択をしたということは、ウィルの知らない、ただの幼馴染や主従関係以上の何かがあったのだろう。
 アッシュが姿を消してからは、ナタリーは夜な夜な声を殺して泣いていた。しかし、アッシュは消え、以前もそしてこの先も、ナタリーの側にいるのはウィルだった。ナタリーとアッシュ、2人の縁が交わることはもうないと安心していた。

 しかし今はどうだ?
 ナタリーの絶対絶命のピンチに駆けつけたのはアッシュで、魔法使い達を救い出したのも彼だ。
 ウィルはナタリーとは二週間以上まともに話しもできておらず、しかもウィルを気に入っている王女にイビられた挙げ句、差し向けた近衛兵に乱暴までされかけた。
 王女と婚姻すると公に公表されている男を、ナタリーは無条件に待つだろうか?
 アッシュがナタリーに執着し、愛していることは疑いようのない事実だ。
 ナタリーの命を救ってくれ、彼女を健気に愛してくれる強く美しい魔法使いに心を奪われるのはごく自然な気がして、ウィルはいても立ってもいられなくなった。

 アラン王子やカイザーから話された、『魔法使い全体が生き残るために、このまま王女と結婚して欲しい』ということについて、ウィルなりにも考えてはみた。
 (カイザーの言っていることは理解できる。だれかが王配につくのが最善の手だということも······しかし、僕には大義がない。僕はあの夜、ナタリーを逃がすためなら、他の魔法使い達が殺されようが構わないと本気で思った。そんな奴が、大勢の人間達の上に立つのにふさわしくない。)
 ウィルにとって、自分の居場所はナタリーの側以外には考えられなかった。
 (もしナタリーが僕を待ってなくても·····それでも君と一緒にいたい。僕は浅ましい人間だ。)

 ウィルが思うに、王女から逃れ、かつ魔法使い達の立場を固める方法は一つある。しかし、それは一人では絶対に成功し得ないもので、『ある人』に話を持ち掛ける必要があった。
 ナタリーや、『赤い塔』に囚われの魔法使い達が逃げたことで人質の心配がなくなり、ウィルは王女の顔色を伺い行動することをやめていた。
 (僕達がいなくなって困るのは王女だ。この首輪もいざというときにしか使えない。)
 ウィルが堂々と部屋を出た際、王女に気付かれ呼び止められたが、聞こえないことにして振り向かずに離宮へ向かった。

 ウィルは離宮のギースの元を訪ね、カイザーを呼び出した。
「話しとは何だウィル?」
「カイザーに聞きたいことがあって来た。あなたは、ただの側近で満足か?王配になりたくはないか?」
「────?王配になるのはお前だろう?俺はこの国を統治できるのならば、願ってもない話だが·······王女はお前以外は認めないだろう。」
 カイザーはセントラルにいる時から、ウィルとは正反対で野心の強い男だった。個々よりも、大義を成すこと、魔法使いであることに誇りを持っているとウィルは知っていた。

 ウィルが考えた『唯一の方法』をカイザーに話すと、カイザーはさも面白くて堪らないというような顔をして、ニヤリとした。
「その話乗った。それくらいでなきゃ、俺はやりがいがなかったんだ。あの鼻持ちならない王女なんぞ只の小娘だ。一度手綱を握ってしまえば恐れるに足りない。では、手はず通りに。頼んだぞウィル。」

 これで協力者は得られた。あとは、王女との結婚式を待つだけだ。
 ここを出たとして、ナタリーがどこにいるのか探し当てるのも簡単ではない。
 とにかく今は、この計画を成功させることに集中しよう。そう心に決めたウィルであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【完結】不出来令嬢は王子に愛される

きなこもち
恋愛
『ララが綺麗なことは僕だけが知ってればいい。何者でもない僕を見てくれるのは、君以外いないよ。』 姉の婚約者、ディアンの言葉は、ララの心の奥底に沈み込んだ。その時から、分不相応にも彼に恋してしまった──── ◇ 有力貴族の次女、ララ・ファーレンは、人と少し違っていた。勉強や運動、何をやっても上手く行かず、同年代の友達もいなかった。両親や姉からは『恥さらし』と罵られ、屋敷から出ることを禁止されていた。 ララの唯一の心の拠り所は、時折屋敷を訪れる、姉ダリアの婚約者、ディアンと遊ぶことだった。ディアンとララはお互いに心を通わせるが、「王子」と「恥さらし令嬢」との恋は上手くいくはずもなく、姉ダリアとディアンの結婚式の日を迎えてしまう······

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...