侍女と愛しの魔法使い【旧題:幼馴染の最強魔法使いは、「運命の番」を見つけたようです。邪魔者の私は消え去るとしましょう。】

私と最愛の魔法使い～王女様、私の夫に惚れられても困ります！～

それぞれの目論み

　ドアから出てきてのは、第一王子アランと侍従のギース、そして驚くことに、カイザーとエステルまでいる。
「なぜあなたが·····それに、カイザーと聖女様？？なぜ王宮に····」
「黙っていてすまなかったウィル。実は、俺とエステル様は、お前やジークリートがここに連れてこられるよりも前に、俺たち自らアラン殿下に接触し、匿ってもらっていたんだ。」
「あのような形で苦渋を舐めさせられて、私たちが黙っているわけにはいかなかったわ。だからといって、人間と戦争をしたいわけじゃない。人間界を統制しているのは王室よ。この魔女狩りのような体制を変えるには、王室に接触し、協力を得るしかなかった。」
　ウィルは今まで得た情報から、アラン王子は幼い気質があり、王室からはつまはじきにされていると知っていた。しかし、今ウィルの目の前にいるアラン王子は、聡明で堂々とした立派な王位継承者に見える。
「では、アラン殿下は、魔法使いの協力者になってくれる方ということですか？今まで、王女を欺くため、演技をしていたと？」
　アラン王子は力強い目でウィルを見た。
「始めましてウィル。ナタリーの夫だね？ナタリーには世話になったよ。昨夜は予想外のことで私も打つ手を考えあぐねていたが、誰かが先に動いてくれたようで安心した。」
　そこからは、ギースがアラン王子について話し始めた。
「アラン殿下は元々ひどく賢い方なのだ。しかし、第一王子に産まれたにも関わらず、王女を担ぎ上げる勢力が強くてな。殿下の側近も間者だらけ、常に命を狙われるような状況だった。だから、殿下は皆の前で幼いように振るうことで、王女の目を他に向けさせ、また間者をあぶり出すことが容易になったんだ。」
「私は、王女の弱点を知り、実権を握らせないよう時期を見計らっていたんだ。そんな時、魔法使いを巻き込んだいざこざが起きた。おまけにアレクシア王女は魔法使いを捕まえ、自分の野望を叶えようとしていると知った。君たちには悪いが、様子を見て、利用させてもらおうと考えたんだ。」
「俺たちは王女ではなくアラン殿下についた。殿下がこの国の王にふさわしい方だからだ。王女の好き勝手にはさせない。」
　そこまで聞いたウィルは、なぜ王子やカイザー達が、ウィルに接触してきたか想像できる気がした。

「頼みたいこと」があるからだ。

　王女を失脚させたい王子
　魔法使いを救いたいカイザーとエステル
　王女に見初められたウィル

　これらのことを繋ぎ合わせると、ウィルが彼らに望まれていることは一つしかない。

「僕へ話があるといいましたね。伺ってもいいでしょうか？」
「········ウィル、アレクシア王女の夫となり、王女の実権を奪って欲しい。全魔法使いへの迫害を止められるのは、王女の夫となる資格があるお前しかいないんだ。」
　カイザーの言葉を聞き、ウィルは、あぁ、戻れないところまできてしまったと感じていた。もう僕は巻き込まれたんじゃなく、当事者になった。

　ナタリーと森に遊びに行ったあの日に戻れるなら、ナタリーに泣いてすがられても、倒れている王女を助けないのに。それどころか、息がある王女の首に手を掛け、ウィルは迷いなく息の根を止めたことだろう。

　戻れない過去に思いを馳せながら、ウィルは最後に抱き締めたナタリーの体温を恋しく思った。