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私と最愛の魔法使い~王女様、私の夫に惚れられても困ります!~

傷ついた獲物

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 幼い頃、似たような場面に遭遇したことがある。アッシュとナタリーが誘拐され、地下に閉じ込められた時、男達から欲望の対象とされ、もう諦めかけた。あの時はどうなったんだっけ?確か······アッシュが魔力に目覚め······気づいたら男が後ろに吹っ飛ばされていた。

 ナタリーは床に押さえ付けられ、下から男達の醜悪な顔を見ていた。興奮した荒い息遣いがひどく気持ち悪い。こんなやつらも王女も、消えてしまえばいいのだ。私が何をした?ナタリーは力のない自分への不甲斐なさと悔しさで、目の端から涙が流れ落ちた。
 (助けて·······助けてアッシュ。)
 こんな時にだけ、今はいない、消えてしまった幼馴染に助けを求めるのか。ナタリーは自虐的に、自分は都合のいい人間だなとどこか冷静に考えながら、男達の腕を掴む自分の手の力が弱まるのを感じた。ナタリーだって、痛いのは嫌だ。
「そうだ。大人しくすれば可愛がってやる。楽しもうぜ。」
 男の下卑た声が聞こえ、ナタリーは諦めたように目を閉じた。
 (お願い、早く終わって。)
 そう思った時、ナタリーの上にまたがっていた男が、突然真っ赤な炎に包まれた。
「········!?」
 ナタリーも、炎に包まれた近衛兵も、何が起こったのか分からなかった。ナタリーは慌てて近衛兵の下から抜け出し、炎が燃え移らないよう距離を取った。
 炎に包まれた男は、叫びながらのたうち周り、3階の窓ガラスから身を投げた。
 ガラスが割れるすごい音と、男の断末魔で、離宮や本宮から何事かと人が集まってきた。
「お!お前·······魔法を使ったのか!?」
 もう一人の近衛兵が、恐怖の目でナタリーを見て叫んだ。
「ち、違うわ!私じゃない····!!」
 ナタリーではないはずだ。しかし、先ほど突然炎に包まれたのは、ナタリー以外の仕業とは考えにくい。ナタリー自身も何が起こっているのか分からなかった。

 ◇

 イースに話があると呼ばれたウィルは、庭園を来ていた。
「お前、王女様から気に入られているからって調子に乗るなよ。」
「······あぁ、お前が本当は王配になりたかったんだろう?そんなになりたかったら、喜んで変わってやるよ。それで、話って何だ?さっさとしてくれ。」

 その時、離宮の方から何かが割れる音と、男の苦しむような不気味な声が聞こえた。人々が起き出し、騒ぎになっている。
 ウィルは嫌な予感がし、イースを無視して全速力で離宮へ走った。
 離宮にたどり着いたウィルが見たのは、信じられない光景だった。

 3階の割れた窓、地面に散らばった破片、そして、性別も分からなくなった黒焦げの死体。
 窓が割れた3階の部屋まで走ると、部屋の中にいたのはナタリーだった。衣服の前がはだけ、乱れている。何をされようとしていたかは一目瞭然だった。近衛兵達が、ナタリーを取り囲むように警戒しているが、ナタリーが魔法で近衛兵を攻撃したと思われているため、迂闊に近寄れないようだった。
 ウィルが魔法使いだと分かると、近衛兵達は一歩下がって、ウィルに道を開けた。

「·····ナタリー」
「ウィル───私、違うのよ!あの人を殺すつもりはなかったの!ただ、やめて欲しくて····消えて欲しいと願ったら、突然燃え始めたの───」
 ナタリーは動揺していた。まるで檻から逃げ出し、人間たちから追い詰められた動物のように怯えていた。
「ナタリー、大丈夫だよ。おいで。」
 ウィルの優しい声を聞いたナタリーは、フラフラと歩きだした後、ウィルに抱き止められ、床に倒れ込んだ。
「ごめんよナタリー。僕は役立たずだ·····」
 ウィルは悲痛な面持ちでナタリーを抱き締めた。
「あぁ···ウィル、私どうしたらいい?人を殺してしまった!きっと私も殺されるわ。ケイリーも誰も助けられなかった──あなたと離れ離れのまま、こんなところで死にたくない····!」
 ナタリーは泣きながら、ウィルにすがりついた。ウィルは愛おしそうにナタリーを抱き締め、囁いた。
「ナタリー、もう離れないよ。僕たちはずっと一緒だ。」
 ウィルはナタリーの手を握りしめ、覚悟を決めた。もはや、囚われた魔法使いの救出も作戦もどうでもいい。最悪、ウィル自身が魔力を奪われ死んだとしても構わなかった。この場所からナタリーを連れ出そう。そう決心し、移動魔法で『飛ぼう』とした時だった。

 背後から近寄ったイースによって、ウィルは瞬時に催眠魔法をかけられ、意識を失った。

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