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私と幼馴染の最強魔法使い~幼馴染に運命の恋人が現れた!?~

混乱

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 ナタリーとウィルが、広間から悲鳴が上がった方を見ると、人が血を流し倒れていた。それも1人ではなく、人混みの複数箇所で悲鳴や怒号が聞こえる。

 ウィルが持っていた魔道具から、ジークリートの叫び声が聞こえた。

「民衆の中にいた魔法使い複数名が、人間に攻撃魔法を使った!!理由は不明だが、先程の花火を見て誘発されたものと思われる····!全員直ちに、攻撃を始めた魔法使いの確保に向かえ!!」

 カイザー、イース、ウィルの3人は「了解」と答え、通信を切った。

 緊迫した様子に、ナタリーは動揺していた。

「何が起こってるの!?ウィル····」

「ナタリーは自分の部屋から出るな。防御魔法が張ってあるから安全だ。僕は広間に行かないと。」

 ウィルがすぐさま移動しようとしたので、ナタリーはウィルの腕を掴み懇願した。

「ウィル····無事でいて·····!」

 ウィルはナタリーを安心させるように、にっと笑って言った。

「ナタリー心配しないで。またすぐ会える。」

 ウィルはすぐにその場から広間へ飛び、ナタリーはウィルから言われた通り、すぐに自室にこもった。ウィルやアッシュ、他の全員の無事を祈ることしかできなかった。


 ◇


 広間では、地獄のような光景が広がっていた。魔法使い数人が、周囲にいた人間に対して手当たり次第攻撃魔法を使った為、死者数人、負傷者は数十人に及んでいた。

 攻撃魔法を使った魔法使いは、全員が魔力が弱い者であった。すぐにかけつけた上級魔法使い達に攻撃を封じられ、捕獲されたが、全員がその時の記憶がなく、誰がどのようにして、魔法使い達に、人間を攻撃するよう仕向けたのかは分からずじまいだった。

 その日、人間界の新聞では一面にこのように報じられた。

『建国記念日、魔法使いが魔力のない人間を襲い、死傷者多数。魔法使い達の人間に対する宣戦布告か。』

 記事の中には、『魔法界トップである大魔法使いアッシュが、反乱を先導した』と報じるものもあり、この事件をきっかけに、人間達の憎悪、未知の力に対する恐怖が、魔法使い全体、引いては大魔法使いアッシュへ向くこととなった。

 人間達が徒党を組み、また集団で、魔法使いを襲うという事件も頻発し始めた。

 魔法使いからすれば、攻撃をすれば完全に人間への反乱ととられる為、手も足も出せないような状況に陥っていた。

 ◇

 セントラル内では、連日今後の対応について審議が行われていた。

「闇の魔法使いの狙いはこれだったんです!自分では手を下さず、人間が我々に対して抱いている恐怖心を煽り、人間と魔法使いの間で保っていた秩序を崩した····!」

 ジークリートは悔しそうに叫んだ。

 イースは半ば諦めたような表情で呟いた。

「魔法使いは人間を守る存在ではなく、脅かす存在になった。魔女狩りでも始まるんですかねぇ····」

 そして、カイザーは覚悟を決めた表情で発言した。

「もし、人間界の軍隊が魔法界を滅ぼすために向かってきた場合、我々に残された選択肢は2つです。やるか、やられるか。」

 カイザーの発言に、その場にいた全員が目を見張った。

「カイザー!何を言う!歴史を繰り返すというのか。戦争でも始めるつもりか!?」

「ではどうするんだ!?火が着いてしまった憎悪は、話し合いでは消えはしないぞ。」

 カイザーの反論に、ジークリートもイースも言葉を失った。

 その時、黙っていたアッシュが口を開いた。

「お前はどう思う?ウィル・アンダーソン」

 ウィルは少し間を置き、淡々と答えた。

「魔法使い達は、解散すべきです。」

 その場にいた全員が、ウィルの発言の真意が分からなかった。

「今は何をしたところで、魔法使いの状況は悪くなるだけ。戦いを始めたとしても、多勢に無勢です。長期的な戦争になった場合、魔法界が生き残れる道は少ないと思います。魔法使いだということを隠し、人間界に溶け込む。自分の身は各々が自分で守るしかありません。生きていれば、いつの日か活路は見いだせるはず。」

 ウィルの主張を聞いたアッシュは、強い目つきで全員に言った。

「····俺も、ウィルと同意見だ。魔法使い全員に周知しろ。人間達が軍を率いて攻めてきた場合に備え、逃げる準備をしておけとな。身の安全は保証できない。ただ生き残れ、そう伝えてくれ。」



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