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私と幼馴染の最強魔法使い~幼馴染に運命の恋人が現れた!?~

アッシュの願い

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 アッシュは、相変わらず他を圧倒するような威厳と、美しさを持っていた。

 射貫かれるような目でじっと見られ、ナタリーは金縛りのように動けなくなってしまった。

「ナタリー」

 アッシュは切なそうにナタリーの名を呼び、近付いてきたかと思うと、力強くアッシュに抱き寄せられた。

 アッシュの予想外の行動に、ナタリーは驚いてしまった。嫌みの1つでも言われるかと思っていた。

 しばらくギュッと抱き締められ、アッシュが口を開いた。

「すまなかった。ナタリー」

 今、アッシュは謝ったのだろうか?10年一緒にいたが、謝られたのは初めてだった。

「逃げ出したくなるほど、追い詰められていたと気づいてやれなかった。」

「お前がいなくなってから、俺は気が狂いそうだった。やっと会えた、ナタリー」

 こんな弱気なことを言うアッシュを見たのは初めてで、ナタリーはショックを受けていた。

 どんな理由があるにせよ、逃げ出したのはナタリーなのに、責めないのは変だ。

 ナタリーは、アッシュから体を離し、ずっと気になっていたことを聞いた。

「レイ····ウィルは?ウィルはどうなったの?」

 アッシュはピクッと反応し、一瞬冷たい目付きになった。

「殺した、といいたいところだが、自宅に軟禁されている。処分が下るのを待っている状態だ。」

 ナタリーはひとまず安心した。命はあると分かったからだった。

「アッシュ、ウィルを罰さないでください。私がどこかへ逃げたいと話したばっかりに、手を貸してくれただけなの。ウィルを罰するなら、私も罰して。」

 アッシュは目を細め、ため息をついた。

「俺の前で、奴をかばうのはやめてくれ。」

「近いうち、ウィルの処遇が決定するだろう。処罰を免れたとしても、もうナタリーは奴とは会えない。分かるな?」

 アッシュは諭すように言った。

 ウィルが処罰を免れるならばナタリーがそれ以上望むことはなかった。

 (大好きなレイとはもう会えない。私は会ってはいけない。私と関わると、レイは危険な目に合う。)

 (レイとシェリーの冒険は終わったんだ。)

 幸せな夢から覚めたようで、ナタリーは涙が止まらなかった。

 アッシュは、泣き崩れるナタリーを見て、何も言わなかったが、そっと背中をさすってくれた。


 アッシュは、ウィルが処罰を免れたとしても、野放しにしておくつもりはなかった。

 いずれ自分が手を下すつもりだが、まだ今は奴を生かしておいてもいい。

 悔しいことに、ナタリーの弱みはウィルだからだ。

 エステルと夫婦になった今、ナタリーを自分の側に置こうとすれば、ナタリーの性格上、それはできないと断られるだろう。

 以前のように、横暴に振る舞ってもナタリーが黙って側に居てくれる、とはアッシュは考えなくなっていた。

 ナタリー自身が望んで、アッシュの側にいるように仕向けなければならない。

 自分が、ナタリーに安らぎと平穏を与えることはできない。アッシュは自覚していた。

 幼少期より、人から嫌われ、疎まれ、他と比べ異質だった。魔力に目覚めてからも、畏怖の目で見られ、バケモノだと噂された。

 ナタリーは昔からアッシュと一緒に居てくれたが、自分が、ナタリーから愛される資格があるとは到底思えなかった。

 それでも、一緒にいたい。

 アッシュの願いは、ただそれだけであった。
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