侍女と愛しの魔法使い【旧題:幼馴染の最強魔法使いは、「運命の番」を見つけたようです。邪魔者の私は消え去るとしましょう。】

きなこもち

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私と幼馴染の最強魔法使い~幼馴染に運命の恋人が現れた!?~

魔法塔~脱出劇のその後~

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 ナタリーとウィル(シェリーとレイ)の逃走の後、魔法界はちょっとした騒ぎになった。

 ナタリーだけなら、アッシュの横暴に耐えきれなくなった侍女が逃げ出した、という話で終わったのだが、問題はウィルである。

 水属性の貴族達からウィルは何の期待もされていなかった。

 しかし、逃走の過程において、かなり高度な、天才的な魔法使いでなければ成功し得ない魔術をいくつも使っていた、ということが判明した。

 ウィルの兄を持ち上げていた貴族達が、50年に一度現れる、水属性の上級魔法使いになれる素質がある天才は、兄ではなくウィルに他ならなかったと騒ぎだした。

 ウィルの両親、アンダーソン夫妻の落胆は激しく、ウィルの素質に全く気がつかなかったことを後悔していた。

 ウィルは人間界に逃げてしまっている。

 しかし、万が一戻ってきた暁には、罪には問わず、上級魔法使いへ推薦し、水属性派閥の権力を取り戻そうとする思惑が働いていた。


 ◇


 一方、大魔法使いアッシュは、ナタリーとウィルの捜索に躍起になっていた。

 魔法を使わず2人が生活しており、かつ魔力の痕跡も辿れないとなると、魔力を使って探し出すのは困難になる。

 魔法使いは強大な力を持つが、弱点はある。

 それは、人間に比べ、圧倒的に数が少ないということだった。

 人為的に探そうと、2人の顔に懸賞金を賭けることも考えたが、万が一、粗暴なゴロつきが、ナタリーを害することも考えられる。

 アッシュはその方法を実行することができなかった。

 また、ウィル・アンダーソンに関しては、アッシュ自身で手を下したかった。

 逃亡から3年間、あらゆる方法を試したが、2人について有力な情報は得られないままだった。

 ここまで捜索に時間がかかることを予想していなかったアッシュは、焦りばかりが強くなった。

 ◇

 その日、アッシュは聖女エステルを訪ねた。

 エステルは、3年前の予言を的中させ、人間界含む魔法界全体の危機を救ったとして、褒美を授かり、魔法界との連携が必要不可欠として、セントラルに移り住んでいた。

 アッシュの魔力の暴走が起きた際は、聖なる力をアッシュに与えることで、暴走を落ち着かせた。

 幾度にもわたる力の供給と、アッシュ自身の魔力の制御能力が高くなったことにより、アッシュの魔力の暴走は、ここ数年起きなくなっていた。

 エステルは、いつものようにアッシュの両手を取り、集中して聖なる力を分け与えた。

 魔力の暴走は起きていなかったが、しばらく期間が空いた為、調整として行った行為だった。

「大河、そろそろ魔力の暴走も起きなくなるわね。あなたに力を分け与えることが私の喜びだったのに、なんだか寂しいわ。」

 エステルはアッシュに言った。

 アッシュが記憶を取り戻してからというもの、エステルはアッシュとしてではなく、完全に大河として接していた。

「ああ、今まで世話をかけたな。」

 アッシュはぶっきらぼうに言った。


 3年前、ナタリーは、魔力の供給は『口付け』からするものだと思っていた。

 だが実際は、供給は体の一部分が触れ合えば行えるものであった。

 アッシュがナタリーに対して『夜の日課』を行っていたのは、単純にアッシュが、魔力の暴走を抑えるということを口実に、ナタリーに対して

「そうしたかった」

 からであった。口付けまでする必要は、そもそもなかったのである。

 また、当時アッシュの体は、魔力が大きすぎることでバランスを保つことが難しくなっていた。

 ナタリーに触れることで魔力の暴走を抑えている反面、アッシュの精神状態などから、ナタリーに触れることで闇の力が増大してしまうという、相反する現象が起きていた。

 だから、エステルを頼らざるを得なかった。

 ナタリーが自分からキスをしてきた日、アッシュは、ナタリーの突然の行動に、驚きと興奮を覚えた。

 理性を保つことが難しくなり、このまま触れ続ければまずいことになると判断したため、アッシュはナタリーを拒否したのだった。

 当時、闇の力がアッシュに悪影響を及ぼすのではないかと不安になっていたナタリーに、この事情を説明することができなかった。

 ◇

 エステルは、アッシュに聞いた。

「あれからどう? あなたの元侍女は見つかりそうなの?」

 アッシュは痛いところをつかれたように、眉間にシワを寄せながら、

「まだなにも。」

 と答えた。

 エステルはしばらく黙った後、おもむろに口を開いた。

「彼女の居場所なら、私分かるわ。」

 アッシュは、ゆっくりとエステルを見た。
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