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偽装
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ユリナはそういうと、素早く立ち上がり、部屋においてあった染色剤の赤色を髪の根元に塗り始めた。
「ち、ちょっとユリナ!何やってるの·····」
「こうすれば、私がイェリってことで相手も勘違いするはず。染めてるだろって言われたら、本当は地毛は違う色だけど、勇者様に選ばれたくて慌てて染めましたって言えばいい。別に咎められないわ!」
ユリナは髪染めが整うと、「今行きます!!」と大きな声を出し、戸口の方へ駆け出した。
心配なイェリは、影に隠れユリナの様子を伺っていた。
「おい、遅いぞ!いつまで待たせるんだ。」
「ごめんなさい!ちょっとおめかししてて!」
顎髭の生えた、恰幅のいい男はばからしいとでも言うように眉を潜めた。
「君は若く見えるぞ······何歳だ?」
「私はこう見えて二十八ですよ?童顔でしょ?」
ユリナはさも、『勇者様に選ばれてほしいが為に嘘をついている女』を演じていた。
「はぁ。君は明らかに違うな。もういい。無駄足だった。」
男は溜め息を付き、宿舎を去ろうとした。
ユリナもイェリもほっと胸を撫で下ろした時だった。集会所から早めに戻った女の一人が、「あれ?ユリナ何してるの?」と声をあげてしまった。
男はピタリと立ち止まり、ユリナをゆっくりと振り返った。
「ユリナ?君はイェリではないのか?」
ユリナは目を白黒させ、なんとか言い訳を探しているようだったが、嘘が露呈したことにより動揺を隠せなかった。
「い、い、い、いえ、あの、私は·········」
「私を騙そうとしたのか!?この不届き者!!何故だ!?理由を言え!!」
男の剣幕に驚き、男性が苦手なユリナは泣きそうになりながら震え出した。
「待ってください!!」
もはや隠れていることなどできなくなったイェリは、建物の影から飛び出しユリナを背中に隠し男に向き直った。
「私がイェリです。申し訳ございません。男性にじろじろと見られることが嫌だったので、私が彼女に代わりに行ってほしいとお願いしたのです。」
男はイェリを上から下までゆっくりと見ると、訝しげな様子で質問してきた。
「君は·······何歳だ?いつここへきた?」
「二十八です。三年前にここにやって来ました。」
もはや、嘘をつくことに意味はない。イェリは覚悟を決めた。
「勇者様が探しているのはおそらく私です。元々王宮で働いていました。勇者様とは知り合いです。」
イェリの言葉を聞いた瞬間、男の顔が驚愕と歓喜の表情で歪んだ。
「ま、ま、まさかこんなところで·······!そうでしたか!あなたが!」
男は小躍りでもしそうな勢いでその場を右往左往すると、イェリの腕を掴み、一緒に王宮へ来るよう懇願してきた。
「分かりました。行きます。ですが条件があります。この子も一緒に連れてきていいですか?そうでなければ行きません。」
イェリはユリナの腕を掴みそう言い切った。ずっと一緒にいると誓ったばかりだ。ユリナをここに残して去ることができなかった。
「その子を?うぅ···········まぁいいでしょう!あなたを無事に連れて来るよう言われてますからね。では、二人ともこちらへ。」
イェリがユリナを見ると、ユリナは感極まったような表情でイェリを見ていた。
「ごめん、ユリナ、私勝手に······」
「ううん!私あなたについて行くわどこまででも!」
二人は顔を見合わせて笑うと、手を繋いで王宮の馬車に乗った。兵士からは乱暴な扱いはされることはなく、丁重に扱われた。
王宮へ行く馬車の中で、イェリを見つけた顎髭が生えているドンパという男に尋ねてみた。
「あの、なぜ私を見つけてそんなに嬉しそうなのですか?」
「ああ!ここだけの話なんですがね、見事あなた本人を勇者様の前に連れてきた者には、一生遊んで暮らせる程の報奨が貰えることになっていたんですよ!!もちろん、あなたには傷一つ付けないこと前提でね。だから、あなたはいわば宝探しのお宝だったわけだ!!私がこの辺鄙な離島を割り当てられた時には、女神に見放されたかと思いましたよ。こんなところにお宝が眠っているわけがないってね·······なのに!あなたはここにいてくれた!!!ありがとう、あなたは私の女神だ!」
興奮するドンパをよそに、イェリとユリナは不快な表情をした。人をお宝と揶揄するとはなんと現金な男なのだろうか。
「では、なぜ勇者様は私を探すのでしょうか······私には理由が分からないのです。」
ドンパはキョトンとした顔をして答えた。
「それはもちろん、あなた様と再婚したいからでしょう。聖女様が亡くなったのは三ヶ月前ですが、お身体を崩されたのはもう二年以上も前になりますかねぇ。ご結婚してすぐだったと思いますよ。勇者様はそれは献身的に聖女様の側に寄り添っておられましたが、新婚の妻が寝たきりじゃあね、まぁ色々と、物足りなかったんじゃないんですか?」
ドンパの下卑た表情に、ユリアは小さくひっと悲鳴をあげた。
結婚してすぐに寝たきりだった?
イェリと会ったときは何の兆候もなかったのに、あれから一年後寝たきりになったというのか。
イェリは不可解な気持ちで馬車に揺られた。
懐かしい王宮が近付いてくると、イェリは過去の恐ろしさを思い出し、身を固くした。ルイスに会うのも三年ぶりだ。
どんな顔をして会えばいいのか分からなかった。
不安そうにイェリが俯いていると、ユリナがイェリの手を強く握り抱き締めてきた。
そのおかげで、イェリの心は幾分落ち着きを取り戻した。
「ち、ちょっとユリナ!何やってるの·····」
「こうすれば、私がイェリってことで相手も勘違いするはず。染めてるだろって言われたら、本当は地毛は違う色だけど、勇者様に選ばれたくて慌てて染めましたって言えばいい。別に咎められないわ!」
ユリナは髪染めが整うと、「今行きます!!」と大きな声を出し、戸口の方へ駆け出した。
心配なイェリは、影に隠れユリナの様子を伺っていた。
「おい、遅いぞ!いつまで待たせるんだ。」
「ごめんなさい!ちょっとおめかししてて!」
顎髭の生えた、恰幅のいい男はばからしいとでも言うように眉を潜めた。
「君は若く見えるぞ······何歳だ?」
「私はこう見えて二十八ですよ?童顔でしょ?」
ユリナはさも、『勇者様に選ばれてほしいが為に嘘をついている女』を演じていた。
「はぁ。君は明らかに違うな。もういい。無駄足だった。」
男は溜め息を付き、宿舎を去ろうとした。
ユリナもイェリもほっと胸を撫で下ろした時だった。集会所から早めに戻った女の一人が、「あれ?ユリナ何してるの?」と声をあげてしまった。
男はピタリと立ち止まり、ユリナをゆっくりと振り返った。
「ユリナ?君はイェリではないのか?」
ユリナは目を白黒させ、なんとか言い訳を探しているようだったが、嘘が露呈したことにより動揺を隠せなかった。
「い、い、い、いえ、あの、私は·········」
「私を騙そうとしたのか!?この不届き者!!何故だ!?理由を言え!!」
男の剣幕に驚き、男性が苦手なユリナは泣きそうになりながら震え出した。
「待ってください!!」
もはや隠れていることなどできなくなったイェリは、建物の影から飛び出しユリナを背中に隠し男に向き直った。
「私がイェリです。申し訳ございません。男性にじろじろと見られることが嫌だったので、私が彼女に代わりに行ってほしいとお願いしたのです。」
男はイェリを上から下までゆっくりと見ると、訝しげな様子で質問してきた。
「君は·······何歳だ?いつここへきた?」
「二十八です。三年前にここにやって来ました。」
もはや、嘘をつくことに意味はない。イェリは覚悟を決めた。
「勇者様が探しているのはおそらく私です。元々王宮で働いていました。勇者様とは知り合いです。」
イェリの言葉を聞いた瞬間、男の顔が驚愕と歓喜の表情で歪んだ。
「ま、ま、まさかこんなところで·······!そうでしたか!あなたが!」
男は小躍りでもしそうな勢いでその場を右往左往すると、イェリの腕を掴み、一緒に王宮へ来るよう懇願してきた。
「分かりました。行きます。ですが条件があります。この子も一緒に連れてきていいですか?そうでなければ行きません。」
イェリはユリナの腕を掴みそう言い切った。ずっと一緒にいると誓ったばかりだ。ユリナをここに残して去ることができなかった。
「その子を?うぅ···········まぁいいでしょう!あなたを無事に連れて来るよう言われてますからね。では、二人ともこちらへ。」
イェリがユリナを見ると、ユリナは感極まったような表情でイェリを見ていた。
「ごめん、ユリナ、私勝手に······」
「ううん!私あなたについて行くわどこまででも!」
二人は顔を見合わせて笑うと、手を繋いで王宮の馬車に乗った。兵士からは乱暴な扱いはされることはなく、丁重に扱われた。
王宮へ行く馬車の中で、イェリを見つけた顎髭が生えているドンパという男に尋ねてみた。
「あの、なぜ私を見つけてそんなに嬉しそうなのですか?」
「ああ!ここだけの話なんですがね、見事あなた本人を勇者様の前に連れてきた者には、一生遊んで暮らせる程の報奨が貰えることになっていたんですよ!!もちろん、あなたには傷一つ付けないこと前提でね。だから、あなたはいわば宝探しのお宝だったわけだ!!私がこの辺鄙な離島を割り当てられた時には、女神に見放されたかと思いましたよ。こんなところにお宝が眠っているわけがないってね·······なのに!あなたはここにいてくれた!!!ありがとう、あなたは私の女神だ!」
興奮するドンパをよそに、イェリとユリナは不快な表情をした。人をお宝と揶揄するとはなんと現金な男なのだろうか。
「では、なぜ勇者様は私を探すのでしょうか······私には理由が分からないのです。」
ドンパはキョトンとした顔をして答えた。
「それはもちろん、あなた様と再婚したいからでしょう。聖女様が亡くなったのは三ヶ月前ですが、お身体を崩されたのはもう二年以上も前になりますかねぇ。ご結婚してすぐだったと思いますよ。勇者様はそれは献身的に聖女様の側に寄り添っておられましたが、新婚の妻が寝たきりじゃあね、まぁ色々と、物足りなかったんじゃないんですか?」
ドンパの下卑た表情に、ユリアは小さくひっと悲鳴をあげた。
結婚してすぐに寝たきりだった?
イェリと会ったときは何の兆候もなかったのに、あれから一年後寝たきりになったというのか。
イェリは不可解な気持ちで馬車に揺られた。
懐かしい王宮が近付いてくると、イェリは過去の恐ろしさを思い出し、身を固くした。ルイスに会うのも三年ぶりだ。
どんな顔をして会えばいいのか分からなかった。
不安そうにイェリが俯いていると、ユリナがイェリの手を強く握り抱き締めてきた。
そのおかげで、イェリの心は幾分落ち着きを取り戻した。
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