【完結】勇者一行の後遺症~勇者に振られた薬師、騎士の治療担当になる~

きなこもち

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第一話 勇者の帰還

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「勇者一行の帰還だぞー!!!」
 外から地を這うような野太い男の叫び声が聞こえ、イェリはやりかけていた皿洗いの手を止め、バタバタと慌てて外に飛び出した。

 通りに面した建物の上階から、色とりどりの花びらが撒かれ、三年にも渡り魔王討伐の旅に出ていた勇者一行を人々が喜びと歓喜の笑顔で出迎えた。
 勇者一行の姿を一目見ようと、通りは多くの人で溢れ帰っていた。

 人々の期待が高まる中、遠くから馬に乗った勇者一行が現れた。人々に手を振りながら、ゆっくりとこちらに向かって闊歩してくる。イェリは、人混みの中からなんとか顔を出し、跳び跳ねながら、幼馴染みで勇者でもあるルイス・エヴァンの姿を三年ぶりに見た。
 イェリはこの三年間、毎日ルイスの無事を祈り、帰りを待ちわびていた。ただ無事に帰ってきて欲しい、イェリが望むのはただそれだけであった。

 三年ぶりに見たルイスは、以前の少年のようなあどけない面影は消え去り、精悍さと逞しさを併せ持つ、誰がどう見ても紛れもない『勇者』へと成長していた。
「ルイス·······!私よ!!!イェリよ!!··········おかえりルイス!!!」
 イェリはルイス達が無事戻ったことへの嬉しさで涙が溢れ、歓喜で胸が一杯になった。嬉しさの余り、幼馴染みの名を何度も叫んだが、人々の喜びの声に書き消され、ルイスはイェリに気が付くことはなかった。

 ルイスが目の前を通り過ぎてしまった為、イェリは残念そうに肩を落とした。しかしその後ろには、ルイスと共に魔王討伐の旅をした仲間達が続いた為、イェリは彼らに心の底からの感謝と尊敬の意を表し、ありったけの拍手を送りながら、英雄達をまじまじと目に焼き付けた。

 国を災いから救った清らかな聖女
 長髪で美麗な国一の魔法使い
 鍛えぬかれた逞しい体を持つ騎士

 皆、数々の困難を乗り越えた強者達だ。自信に満ち溢れ、笑顔で民衆に手を振る彼らはキラキラと輝いていた。
 彼らはイェリとは全く別世界を生きている、この国の希望の星だ。その中にルイスが含まれていることが、イェリには不思議な感じがした。

 幼馴染みであり、恋人でもあるルイスをこの三年間、ただひたすら待ち続けた。

 イェリは今年で二十五歳だ。
 世間では完全に『行き遅れた女』だが、イェリからすればそんなことはどうでも良かった。イェリにはルイスしかいない。幼い頃から共に育ってきたイェリとルイスは、家族のような友達のような関係でもあり、そして魂の繋がった恋人だった。

 勇者に選ばれたルイスが、魔王討伐の旅に出ることが決まった日、イェリは不安と寂しさで押し潰されそうになっていた。
「ルイス·······!!お願い行かないで!!私はあなたが勇者なんかじゃなくていい······!───死ぬかもしれないじゃない。あなたがいなくなったら、私は生きていけない。」
 イェリは悲しみの涙を流しながら、ルイスに抱き付き、討伐への旅を止めるよう懇願した。
 ルイスは神妙な顔をしていたが、イェリの顔を優しく持ち上げ、意思の強い目でイェリを諭した。
「イェリ。君を置いていくのを許して欲しい。でもこれは、僕に与えられた使命なんだ。やり遂げなきゃいけない。だから待ってて。」
「························!」
「必ず魔王を倒して君のところへ戻ってくるよ。そしたら僕達一緒になろう。死が二人を分かつまでずっと一緒だ。────愛してるイェリ。」
 ルイスは愛しそうにイェリをきつく抱き締めた。ルイスの意思は変わらない、そう悟ったイェリは、涙を堪えながらルイスの頬に触れた。
「───ルイス····約束よ。無事に生きて帰ってきて。破ったら許さない。」
ルイスは口を固く結び頷くと、ポケットから小さな箱を取り出し、中に入っていた指輪をそっとイェリの左手の薬指に嵌めた。
「─────ルイス、これ────」
「いつか渡そうと思ってたんだ。僕がいない間、イェリに他の男が近付いたらと思うと不安で。着けててくれる?」
イェリは涙を拭いながら顔を綻ばせた。
「私にはあなたしかいない。知ってるでしょ?·········嬉しい。ありがとうルイス。大切にする。」


 それが二人があの日した約束だった。
 無事に生きて帰り、ずっと一緒に暮らす。つまりは結婚するということだ。
 イェリはあの日の約束を胸に、この三年間、不安で眠れない夜を幾度も過ごし、今日という日を迎えることができた。

 (信じて待ってて良かった·······!!ルイスは約束通り、生きて帰ってきてくれたわ!)

 これからルイス一行は王宮へ行くはずだ。先程は気付かれることがなかったが、王宮へ行けば、ルイスと三年ぶりの対面が果たせるはずだ。
 イェリはドキドキしながら身支度をした。先程見た、まるで別世界の人のようなルイスの姿が少々不安にはなったが、イェリは薬指に嵌めた指輪を触り、気持ちを落ち着かせながら王宮へ向かう馬車へと乗り込んだ。
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