【完結】不出来令嬢は王子に愛される

きなこもち

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7年前

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 ララが玄関を開けると、そこに立っていたのは兄のレックスだった。いつものように、人好きのする笑顔を浮かべ、ララを抱き締めてきた。
「ララ!久しぶり!!」
「······兄さん!」
 玄関で兄妹が抱擁し合っていると、部屋の奥からディアンもやってきて呆れた声を出した。
「レックス。········3日前も家に来ただろ?全然久しぶりじゃない。」
「冷たいこと言うなよディアン。ライラは寝ちゃったか。残念だ。」
 ディアンの義理の弟であり、ララの義理の兄でもあるレックスは、7年経った今でも頻繁に家を訪ねてきた。仕事で外国に行った際、ララやライラに大量のお土産を買ってくるのだった。
「またこんなに買ってきて·········レックス、もういらないって言ってるだろ。」
「だって、兄さんはせっかく遠出しても、全然買ってやらないじゃん。代わりに俺が買ってるんだよ。」
 ディアンは家に物が増えることが嫌いな為、『お土産』はほとんど買わなかった。毎日ララが貰って帰ってくる『差し入れ』が増える一方だったからだ。

 ララは嬉しそうにレックスの手を取り、部屋の中に招き入れた。
 兄妹が仲良く談笑している光景を見ながら、ディアンは遠い目をして、7年前のことを思い出していた。



 〈7年前~王妃処刑の日 その後~〉

 王妃の処刑執行後、不正に加担していた貴族や重役達は捕らえられ、王宮内の勢力図には大きな変化があった。

 王妃の席が空席となった為、急遽ではあるが、第二側室のレスタが正室となり、イリオが第一王位継承者となった。
 ディアン専属の側近や騎士達は、ディアンの指示により、イリオ専属に配属を移管されることになった。反発する者も多かったが、イリオ側の関係者は排他的ではなかった為、時間と共にうまく共生していった。

 王妃処刑から一週間後、政務の引き継ぎを終えたディアンは、人知れず王宮から姿を消した。

 唯一、イリオには、王宮を去る直前に一声かけていた為、ディアンの捜索は行われなかった。
 継承権を降りたとは言っても、国で最も有力で高貴だった王子の居場所も分からぬということで、王宮内はその噂で持ちきりになったが、数ヵ月後には平穏を取り戻し、表立ってディアンの噂話をする者もいなくなった。

 ◇

 レックスに連れられ、海辺の町に引っ越してきたララは、徐々に普段通りの生活を取り戻していた。

 レックスは、ララにディアンが行方不明になったということは伝えなかった。
 ララは自身を責めてしまうようなところがあり、人一倍繊細だからだ。自分が関わった人々の不幸を受け入れるのは到底難しいだろうとレックスは考えていた。

 ララと2人きりの生活は、レックスからすれば幸せだったが辛くもあった。ララを妹として大切に思っていたが、一人の女性として愛していた。
「兄と妹」としての線を越えようと思えば、越えるタイミングは何度もあったかもしれないが、結局のところ、レックスはそれを行動に移さなかった。

 それは、兄ディアンへの負い目からであった。

 両親から愛され、好きな仕事をして好きに恋愛をする。それは、レックスにとっては当然のことであったが、ディアンにとっては全て手に入らないものだった。
 そして、ディアンの母は処刑され、地位を全て捨て、唯一愛した女性の元を去らざるを得ない人生になった。

『妹を守っている』という名目で、ララを自分の物にしようなどということはどうしてもできなかった。最愛の人の一番近くで生きることができる、これは何よりも恵まれたことだ。男女の恋愛や肉体関係だけが全てではない、以前のレックスからは想像もつかないが、そのように考えるようになっていた。

 レックスが仕事をしている間、ララは部屋にいることもあったが、すぐ近くの海辺で一日中過ごしていることもあった。
 仕事が終わり、レックスがララを呼びに行くと、ララはいつも浜辺に座って遠くの方を見ているのだ。

 まるで誰かを待っているかのように。

「ララ。帰ろう。」
 レックスが声をかけると、笑顔にはなるが、何故だかいつも名残惜しそうに家に帰るのだ。そんな生活が半年ほど続いた時のことである。

 その日、仕事仲間のネイサンが、興奮した様子でレックスに話しかけてきた。
「レックス!聞いてくれよ!事業も手を拡げてきたし、国外の客とも交渉ができる外交員を雇おうって話してただろ?それで、さっき面接に来た人達に会ってきたんだよ!」
「·····ああ。お前が採用担当だったっけ?どうだった?」
 採用はネイサンに任せており、さほど興味のなかったレックスだったが、ネイサンが聞いて欲しそうだったので一応尋ねた。
「それがさぁ、鼻持ちにならないやつばっかりでどうしようかと思ったんだ。『僕は有能です!』って感じの勘違い野郎ばっかりでさ。」
「はぁ?じゃあ雇わなきゃ良いだろ。勘違い野郎と仕事するのはごめんだよ。」
「まだ続きがあるんだ!······最後に面接した男性なんだけど、超絶有能だった!外国語が10か国話以上しゃべれるんだ。それに、若いのに話を聞き出すのが上手くて、押し付けがましい感じもしない。所作が上品で、何より顔が良い。外交員に顔は重要だろ!?」
 興奮気味のネイサンをよそに、レックスはいつもの疑り深さを発揮した。
「10か国語?英才教育でも受けなきゃ無理だろ。俺ですら5か国語だぞ?平民は自国の言葉しか学ばない。貴族がわざわざ民間の外交員に応募してくるわけないし······怪しさしかないぞ。」
「世の中には、君みたいな頭のおかしい物好きもいるんだよ!とにかく会ってみて!今事務所で待ってくれてる。名前は確か·····ビートル·····」
「ぶはっ!ビートル!?変な名前!」
 レックスは、胡散臭いものを聞いてしまったような気持ちで部屋に向かった。

 レックスが軽くドアをノックし扉を開けると、中で待っていた『ビートル』という男が椅子から立ち上がり、レックスの方を振り向いた。



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