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【レックスside】消えた妹2

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 レックスが王宮に来たのは、祝賀祭のパーティーの時以来だった。あの時はララと気まずい雰囲気になってしまい、パーティーに来るまで気が重かった。
 しかし、今のレックスの心境と比べれば、あの時はまだ笑えるくらいかわいい悩みだった。

 王宮に向かう馬車の中で何度も考えた。
 2週間前に王宮に連れてこられたということは、既にディアンとララは『子を作る為の行為』をしているだろう。

 ララの初恋である、完璧な王子ディアンから身も心も愛されれば、ララは今や、レックスのことなど思い出しもしないかもしれない。
 ララから『誘われた』大雨の夜に、大切にしたいからなどと清純ぶったことを言わずに、感情に従って抱いておけば良かったのだ。責任を取るとでもなんでも言ってさっさと結婚しておけば、王妃に目をつけられることも、ララをディアンに捧げることもなかった。
 (俺は機会を逃したんだ·······)
 レックスは、不甲斐ない自分が嫌いになりそうだった。

 王宮に付いたレックスは、ディアンの居場所を王宮内の騎士に聞いた。レックスのことを知らない者はいなかった為、ディアンの居場所はすんなりと突き止めることができた。少し前に、執務室を本宮から別棟に移したと聞いたので、おそらくララを王妃やダリアから離すためだろうとレックスは予想した。
「でも、ディアン殿下は今、騎士達と一緒に遠征中ですよ。いらっしゃらないかと思います。」
 ということは、ララだけ別棟に残されている可能性が高い。レックスは足早に別棟に向かった。

 別棟には、入口近くにディアンの側近2人が見張りをしていたのでレックスは声をかけた。
「ディアン王子は不在か?俺は王子の弟だ。髪が栗色で巻き毛の女の子がここにいるだろ?その子と話したい。」
 王子の不在中、護衛するためにも、側近達はララの存在を知っている可能性が高い。ララの居場所は分からなかったが、さもここにいることを知っているかのような口ぶりでかまをかけてみた。
 側近達は顔を見合わせ、対応に困っている様子だった。
「俺のこと知ってるだろ?側室の息子レックスだ。なんなら君達も同席していいから、その子と会わせてくれ。同じ屋敷で暮らしてた家族なんだ。突然会えなくなったから心配で来た。元気にしてるか確認したいんだ。」
 側近の一人が、レックスは嘘は言っていないと判断したのか口を開いた。
「ララ様は元気でいらっしゃいます。私は昨日の夕方、お部屋で本を読まれていたのを確認しました。本日は、お疲れなのか朝から部屋で休んでいらっしゃると聞いております。」
「休んでる?寝てるってことか?」
「はい。さようでございます。」
 今はもう昼の3時だ。朝から昼まで疲れて寝るなど、ララがそうしているのをレックスは見たことがなかった。そもそも、ララは『お昼に寝るのはもったいないし、夜寝れなくなるのが怖いから』という理由で、昼寝は絶対にしたがらなかった。何かおかしいと思い、レックスは側近を問い詰めた。
「寝てるのを見た者は?」
「ララ様の専属侍女です。」
「その侍女はどこにいる?」
 側近達は辺りを見回したり、屋敷内の使用人に確認していた。
「···········侍女は───今朝から誰も姿を見てないと·········」
「姿を見てない?ララの専属侍女をか?あり得ないだろ。」
「························」
 側近達の顔に焦りの色が見えたレックスは苛立ち、憤然といい放った。
「おい。もしララが部屋からいなくなってたとしたら、お前達、任を解かれるくらいじゃ済まないからな。言葉通り首が飛ぶぞ。分かったら、さっさとララが部屋にいるか確認しろ!俺も行く。」
 青ざめた側近はすぐにレックスを連れ、ララの部屋へ向かった。部屋は中から鍵がかかっており、ノックをするがララの応答はない。
 すぐに侍従がマスターキーを持ってきて、部屋の鍵を開けた。
「········ララ?いるのか?」
 部屋は真っ暗でシーンとしている。中央のベッドが毛布で膨らんでいるのを見て、レックスはゆっくりと近付いた。
「ララ?」
 毛布をバッとめくると、中には枕があるだけだった。

 ララは部屋にいなかった。

 側近や侍従は大慌てで、ララが屋敷内のどこかにいないか探し始めた。

 レックスの嫌な予感が当たってしまった。今さら屋敷内を探したところで意味はない。ララを見たという侍女が姿を消し、わざわざマスターキーを使って部屋に鍵をかけ、部屋で寝ているように細工までしていたのだ。
 王や王子が不在の隙に、寵愛を受けていた女が何者かに狙われるというのは、王室では珍しくないことであった。

 レックスは頭を抱えながら、ふらふらと外に出た。とにかく一刻も早くディアンに知らせ、ララの行方を探すしかない。そう考えていると、別の場所でも何やら騎士や侍従達が大慌てで王宮内を走り回っていた。気になったレックスは、騎士の一人を掴まえ尋ねた。
「一体どうしたんだ?」
 騎士の制服を見ると、イリオ王子の専属騎士であった。
「あなたは······レックス王子····!じ、実は、イリオ殿下が──今朝から姿を消してしまいまして·····王宮内のどこを探してもいないのです!」
 ララに続いてイリオも姿を消した?偶然だとは考えにくいから、イリオがララを連れだしたか、イリオとララは同時に何らかに巻き込まれたかのどちらかである。
 レックスが何か手懸かりがないか、屋敷の周りを念入りに確認していると、裏口近くに馬車の車輪の跡がついていることに気がついた。車輪の跡はいくつもあり、普段からここを通用口として使っているのだろう。何らおかしいことはなかった。

 しかし、車輪の他に、何か細い縄のようなものを垂らした跡があった。跡はずっと先まで続いていて、何かを垂らしたまま馬車が走り去った可能性が高い。

 この跡の先に、ララの手懸かりがあることを祈るしかない。レックスはすぐにイリオの騎士達を呼び、イリオ探しに同行することにした。
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