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企み
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ララが王宮に連れてこられてから2週間が経った。ララは、ディアンが仕事中は一緒に執務室に入れてもらい、静かに絵を描いたり、本を読んだりして過ごした。
時々執務室にやってくる、ディアン直属の女騎士ルビンは、ララを見て最初は驚いていた。「新婚なのにもう愛人ですか!?」と憤っていたが、ダリアの妹で訳ありということが分かると、ララの境遇に同情し、故郷に残してきた妹のようだと可愛がってくれた。空いた時間によく庭園に連れていってくれるので、ララはすぐにルビンが好きになった。
ディアンは相変わらず、ララに一線を越えるようなことはしてこなかったが、寝食は同じ部屋でしていた。
理由は、『子作りの為だけに連れてきた女』にディアンが手を出していないと万が一王妃やダリアが知れば、ララの身がどうなるか分かったものではないからだ。使用人達にも、ディアンとララは男女の関係だと思わせておいた方が、何かと都合が良かった。
仮初めの生活ではあったが、ディアンは生まれて初めて『幸せ』を感じた。
初めは緊張していたララだったが、段々とディアンに対して心を開くようになっていった。
ディアンの仕事中は、邪魔をしないようにララは大人しくしていた。
ディアンの「今日は終わりだ。」という言葉を合図に、ララはパァッと明るい表情になり、ディアンの手を取り「早く早く」と部屋に戻りたがるのが堪らなく可愛かった。
ララが楽しみにしているのは、部屋で食べる夕食と、ディアンから教えてもらったチェスをやることだった。ボードゲームは経験のないララだったが、何度かやるうちに仕方を覚え、2週間目にしてディアンと拮抗するほど実力をつけていた。
「···········おかしいな。自分でいうのもなんだが、僕チェスはあまり負けたことないんだけど。」
「───悔しいです·······でも次はディアンに勝てます!」
思わず「殿下」と呼ばずに名前を呼んでしまい、ララはあっと口を押さえた。
「いいよ。部屋にいる時は名前で呼んで。」
ディアンからこのように言われたので、ララははにかみながら名前で呼ぶようになった。
寝る時は、大きなベッドに体を離して寝た。夜は離れているのに、朝起きるとララはいつもディアンにくっついて寝ているので、なんだか猫のようだとディアンは余計にララが愛しくなった。
愛するララに中途半端に触れることは、歯止めが利かなくなりそうで怖かった。ララの髪や、唇や、身体に触れたいと思えば思うほど、初めて手に入れた穏やかで満たされた日常を壊すことが恐ろしく、ディアンはこの生殺しのような状態でも、好きな人の側にいられるのならば、『これ以上ない幸せである』と感じるようになっていた。
◇
それからしばらくして、ディアンは5日間の遠征に出発することとなった。
王家専属の騎士達と共に、訓練を兼ねて民間の暮らしを視察するという目的であった。騎士達は命を懸けて国や王族を守る為、王子とはいえど、騎士達からの信頼がなければ士気を下げることになってしまう。過酷な遠征ではあるが、王子としては行かなければならない重要な政務の一つだった。
「ララ、僕との約束覚えてる?」
「はい!覚えてます!」
今から遠征に出ようとするディアンは、見送るララと部屋にいた。
「ララの専属侍女と、僕の側近以外の人間に何を言われても付いていったら駄目だよ。あと、この別棟から出ないこと。」
「はい!分かってます!」
ララは自信満々に返事をしたが、ディアンは5日間も王宮を空けることが不安で仕方なかった。
「そうか·············じゃあ問題出すよ。ララが一人でいる時に、どこかの侍女が部屋にやってきて言いました。『ダリア様がララ様に会いたがってます。付いてきてください。』ララならどうする?」
「···········え、お姉さまが私に?うーんと·······大事な用かもしれないから会いたいけど、ここから出たらダメだし·······うーん。難しいです。」
ディアンは溜め息をついた。
「ララ、難しくないよ。知らない侍女の話は聞かなくていいし、ここから出ちゃいけないんだから、会いにもいかなくていい。『行きません。人を呼びます!』これでいい。」
「··········分かりました。気を付けます!」
ディアンはララの両腕を掴むと、急にガバッと抱き締めてきた。ディアンに抱き締められたのは初夜以来のことであったので、ララはひどく驚いてしまった。
「はぁ········本当に行きたくない。毎年平気だったのに。ララとずっと一緒にいたいよ。」
ギュッとディアンから力を込めて抱き締められた。『ずっと一緒にいたい』と誰かから言われたのは初めてで、ララはドキドキが収まらなくなった。
すると、後ろから呆れた声で女騎士のルビンが声を上げた。
「なかなか降りてこないと思ったら······何いちゃついてるんですか。殿下、早くしないと。みんな待ってますよ。」
名残惜しそうなディアンであったが、渋々ララを解放し、ルビンと共に遠征に旅立っていった。
◇
それから、ララはディアンのいいつけを守り、何事もなく過ごした。
事件が起こったのは、ディアンが旅立ってから3日目の朝のことだった。
ララの専属侍女リサが、血相を変えて部屋に入ってきたかと思うと、突然ララの両腕を掴んだ。
「ララ様·········!落ち着いて聞いてください────」
「リサ、どうしたの?」
「で、殿下が··········ディアン殿下が、任務中に落馬し、意識不明の重体です!!」
ララは一瞬何を言われているのか分からず、ポカンとしていた。しかし、『落馬』『意識不明の重体』はとんでもないことだと分かり、ひどく焦り始めた。
「え·······殿下が!?········殿下の命が危ないということですか!?そんな────リサ、私はどうしたら········」
「ララ様。落ち着いてください。殿下はまだ息はありますが、王宮に帰るまでもたないかもしれません。───ララ様、殿下の遠征先までお連れします!!最後にララ様のお顔を見せてあげてください·······!」
最後だなどとは到底信じられなかったが、とにかくディアンに会いたい一心で、ララはリサの言葉を了承した。
「分かりました!どうか私を連れていってください·······!」
ララは急いで、別棟の一階に降り、リサの言われるがまま裏口に待たせてある馬車に乗り込もうとした。
ララは出口から外に出たが、侍女のリサが付いてくる様子がない。ただ黙ってララを見て、外には出ず屋敷の中で佇んでいた。
「リ、リサ?一緒に来てくれないんですか?そこで何を·········」
「ごめんなさいララ様。」
リサの頬から涙が流れると同時に、ララは何者かにより口と鼻を塞がれ、気を失った。
時々執務室にやってくる、ディアン直属の女騎士ルビンは、ララを見て最初は驚いていた。「新婚なのにもう愛人ですか!?」と憤っていたが、ダリアの妹で訳ありということが分かると、ララの境遇に同情し、故郷に残してきた妹のようだと可愛がってくれた。空いた時間によく庭園に連れていってくれるので、ララはすぐにルビンが好きになった。
ディアンは相変わらず、ララに一線を越えるようなことはしてこなかったが、寝食は同じ部屋でしていた。
理由は、『子作りの為だけに連れてきた女』にディアンが手を出していないと万が一王妃やダリアが知れば、ララの身がどうなるか分かったものではないからだ。使用人達にも、ディアンとララは男女の関係だと思わせておいた方が、何かと都合が良かった。
仮初めの生活ではあったが、ディアンは生まれて初めて『幸せ』を感じた。
初めは緊張していたララだったが、段々とディアンに対して心を開くようになっていった。
ディアンの仕事中は、邪魔をしないようにララは大人しくしていた。
ディアンの「今日は終わりだ。」という言葉を合図に、ララはパァッと明るい表情になり、ディアンの手を取り「早く早く」と部屋に戻りたがるのが堪らなく可愛かった。
ララが楽しみにしているのは、部屋で食べる夕食と、ディアンから教えてもらったチェスをやることだった。ボードゲームは経験のないララだったが、何度かやるうちに仕方を覚え、2週間目にしてディアンと拮抗するほど実力をつけていた。
「···········おかしいな。自分でいうのもなんだが、僕チェスはあまり負けたことないんだけど。」
「───悔しいです·······でも次はディアンに勝てます!」
思わず「殿下」と呼ばずに名前を呼んでしまい、ララはあっと口を押さえた。
「いいよ。部屋にいる時は名前で呼んで。」
ディアンからこのように言われたので、ララははにかみながら名前で呼ぶようになった。
寝る時は、大きなベッドに体を離して寝た。夜は離れているのに、朝起きるとララはいつもディアンにくっついて寝ているので、なんだか猫のようだとディアンは余計にララが愛しくなった。
愛するララに中途半端に触れることは、歯止めが利かなくなりそうで怖かった。ララの髪や、唇や、身体に触れたいと思えば思うほど、初めて手に入れた穏やかで満たされた日常を壊すことが恐ろしく、ディアンはこの生殺しのような状態でも、好きな人の側にいられるのならば、『これ以上ない幸せである』と感じるようになっていた。
◇
それからしばらくして、ディアンは5日間の遠征に出発することとなった。
王家専属の騎士達と共に、訓練を兼ねて民間の暮らしを視察するという目的であった。騎士達は命を懸けて国や王族を守る為、王子とはいえど、騎士達からの信頼がなければ士気を下げることになってしまう。過酷な遠征ではあるが、王子としては行かなければならない重要な政務の一つだった。
「ララ、僕との約束覚えてる?」
「はい!覚えてます!」
今から遠征に出ようとするディアンは、見送るララと部屋にいた。
「ララの専属侍女と、僕の側近以外の人間に何を言われても付いていったら駄目だよ。あと、この別棟から出ないこと。」
「はい!分かってます!」
ララは自信満々に返事をしたが、ディアンは5日間も王宮を空けることが不安で仕方なかった。
「そうか·············じゃあ問題出すよ。ララが一人でいる時に、どこかの侍女が部屋にやってきて言いました。『ダリア様がララ様に会いたがってます。付いてきてください。』ララならどうする?」
「···········え、お姉さまが私に?うーんと·······大事な用かもしれないから会いたいけど、ここから出たらダメだし·······うーん。難しいです。」
ディアンは溜め息をついた。
「ララ、難しくないよ。知らない侍女の話は聞かなくていいし、ここから出ちゃいけないんだから、会いにもいかなくていい。『行きません。人を呼びます!』これでいい。」
「··········分かりました。気を付けます!」
ディアンはララの両腕を掴むと、急にガバッと抱き締めてきた。ディアンに抱き締められたのは初夜以来のことであったので、ララはひどく驚いてしまった。
「はぁ········本当に行きたくない。毎年平気だったのに。ララとずっと一緒にいたいよ。」
ギュッとディアンから力を込めて抱き締められた。『ずっと一緒にいたい』と誰かから言われたのは初めてで、ララはドキドキが収まらなくなった。
すると、後ろから呆れた声で女騎士のルビンが声を上げた。
「なかなか降りてこないと思ったら······何いちゃついてるんですか。殿下、早くしないと。みんな待ってますよ。」
名残惜しそうなディアンであったが、渋々ララを解放し、ルビンと共に遠征に旅立っていった。
◇
それから、ララはディアンのいいつけを守り、何事もなく過ごした。
事件が起こったのは、ディアンが旅立ってから3日目の朝のことだった。
ララの専属侍女リサが、血相を変えて部屋に入ってきたかと思うと、突然ララの両腕を掴んだ。
「ララ様·········!落ち着いて聞いてください────」
「リサ、どうしたの?」
「で、殿下が··········ディアン殿下が、任務中に落馬し、意識不明の重体です!!」
ララは一瞬何を言われているのか分からず、ポカンとしていた。しかし、『落馬』『意識不明の重体』はとんでもないことだと分かり、ひどく焦り始めた。
「え·······殿下が!?········殿下の命が危ないということですか!?そんな────リサ、私はどうしたら········」
「ララ様。落ち着いてください。殿下はまだ息はありますが、王宮に帰るまでもたないかもしれません。───ララ様、殿下の遠征先までお連れします!!最後にララ様のお顔を見せてあげてください·······!」
最後だなどとは到底信じられなかったが、とにかくディアンに会いたい一心で、ララはリサの言葉を了承した。
「分かりました!どうか私を連れていってください·······!」
ララは急いで、別棟の一階に降り、リサの言われるがまま裏口に待たせてある馬車に乗り込もうとした。
ララは出口から外に出たが、侍女のリサが付いてくる様子がない。ただ黙ってララを見て、外には出ず屋敷の中で佇んでいた。
「リ、リサ?一緒に来てくれないんですか?そこで何を·········」
「ごめんなさいララ様。」
リサの頬から涙が流れると同時に、ララは何者かにより口と鼻を塞がれ、気を失った。
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