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初めての夜

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 王宮に到着すると、ララは何人ものメイドに囲まれ、入浴をさせられ、身体や髪、爪の先まで念入りに磨かれた。次に、椅子に座らせられ、『男女の営み』についての知識を教えられた。王子には何があっても、『爪を立てるな』『痛いなどと言うな』など、禁止事項をいくつも音読させられた。

 ララは初めて聞くことばかりで、突然このようなことをディアンとしろと言われても、無理だとしか思えなかった。
 そもそも、ディアンがララとこのようなことをしたいと思うはずがない。
 レックスでさえ、ララとはできないと言ったし、ライラも結婚まではしては駄目だと言っていた。

 訳が分からないまま時間が経ち、夜になった。見たこともないような薄い生地の、まるで下着のような白い夜着を着ろと言われたので拒否すると、メイドは忌々しそうな顔をして、「あなたがどう思うかは関係ない。王妃様の命令だ。命が惜しくなければ着ろ」と言われ、渋々命令に従った。

 小さな灯りがつけられただけの暗い部屋の中、広い広いベッドの端にちょこんと座り、ララはディアンが来るのを待った。ドアの外には屈強そうな大柄の男性が2人おり、ララはどうも落ち着かなかった。

 こんな時、お母様や兄さんがいれば、
「大丈夫だよララ、怖くないよ。」と抱き締めてくれるのにと心細さで泣きそうになった。
 ドアをノックする音がしたので、ララは勢いよくベッドから立ち上がった。
「は、はい!」
 ドアから入ってきたのはディアンだった。神妙な顔をして、ゆっくりとララの方へ近付いてきた。ディアンはガウンを着ていて、いつも整えられた髪は、自然な形で下ろされていた。普段とは違う雰囲気にララはドキドキし、自分のあられもない格好を思い出した。とてもじゃないが、恥ずかしくて目をあわせられなかった。
「·················ララ。」
「で、殿下·······!すみません、私などが来てしまいまして───何かの間違いかと思うのですが、よく分からず─────」
「間違いじゃないよ。··········本当にすまない。何も分からず連れてこられ、怖かっただろう。」
 ディアンは元気がなく、ひどく辛そうに見えた。ララはその様子が気になり、ディアンの顔を覗き込んだ。
「殿下は何故、悲しそうなのですか?もしかして········私がこんなところで待っているのが嫌でしたか?───さっき、『男女の行為』を教えられたんですが········私となんてできないでしょう?無理をされないでください。私、帰りましょうか?」
「いや········違うんだララ。自分が嫌で落ち込んでる。君をこんなところに───こんなことを望んでいた訳じゃないんだ。君を屋敷に返してあげたいのに、そうする方法がない。」
 よく分からないが、ディアンは間違いなく苦しんでいる。ララは、少しでも彼の苦しみを楽にしてあげたいと思ってしまった。
「殿下、こっちへ。」
 ララはディアンの手を取ると、ベッドに座らせ、両手を握った。
「私は大丈夫です。苦しまないでください。それに·····さっきまで心細かったんですが、殿下が来てくれたおかげで怖くなくなりました。」
 ララが微笑むと、ディアンが一瞬泣きそうになった気がしてララは余計に不安になった。
 ララはそのままディアンを抱き締め、背中を優しくさすった。母や兄がそうしてくれたように。
「怖かったんですね·····大丈夫ですよ。私がついてます。」
 ディアンはしばらくされるがままになっていたが、しばらくすると体を離し、ララに真剣に話しかけてきた。
「ララ。君がここに連れてこられたのは、僕との子を作るためだ。子を作るっていうのは········分かる?『男女の行為』を、僕と君とでするってこと。」
「はい。分かります。」
「ララにとっては、すごく·······嫌な行為だと思うし、僕も無理やりなんてしたくないんだけど、『しない』っていうのはできないんだ。この辺りは説明すると複雑なんだけど───」
「殿下。私分かります。私の役割は、『殿下との子を作ること』です。嫌だとか、したくないと思ってません。でも·······自信はありません。私は経験がないし、こんなだから失礼をするかもしれません。汚いものを見せるかもしれませんが、それでも良ければ·········」
 本当は自分に自信がなくてたまらないことを隠し、気を張っていた。ディアンに本音を伝えたことで緊張の糸が解け、ララは急に泣き出してしまった。
「ララ!無理させてごめんよ。ララは汚くなんかない、すごく綺麗だよ。」
 ディアンは慌ててララを慰め、今度はララの背中を擦ってきた。なんだか、昔もこんなふうに慰められたことがあったなと思い出し、ララは少し笑ってしまった。
「どうして笑ったの?」
「いえ······殿下は、昔も今もお優しいなと思って。私に優しくしてくれた初めての人は殿下です。」
 ディアンは優しい目をしてララの頭を撫でた。
「ララ。嫌だったら、言って欲しい。メイド達に色々と注意を受けたかも知れないけどそれも忘れて。痛かったら痛いって言って。優しくするよ················体に触れてもいい?」
「はい········」
 ララは分かっていた。もう母のアリソンとも、兄のレックスとも、橋の下の友達ライラとも会えないということを。
 ララは与えられた『役割』を果たすが、王妃の言う通り、相手がディアンで本当に良かったと思った。優しい、初恋の人。

 ディアンと唇を重ねながら、淡い想いを抱いていた、兄レックスの顔が浮かんだ。兄はきっと、アネッサのような美女と共に、商売をしながら世界中を飛び回るだろう。ララのことはそのうち忘れるだろうが、寂しいような、早く忘れて欲しいような、どうしようもなく切ない気持ちになった。
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