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母との別れ
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ディアンとイリオが離宮に到着し、屋敷の中に足を踏み入れた時には、屋敷内は不自然なほど静まり返っていた。
アリソンとララの姿がないので、使用人に2人の所在を聞くと、ララは突然やってきた王妃に連れていかれ、アリソンは心神喪失してしまい部屋で休んでいるという。
「くそ!間に合わなかった·······!!」
イリオは悔しそうに叫び、床を拳で叩いた。
ディアンは絶望的な気持ちのまま、アリソンの寝室を訪れた。
アリソンは眠っていたが、ディアンが近くに来るとゆっくりと目を開け、天井を見ていた。
「ディアン·······ごめんなさい。ララを守れなかった。娘を2人も捨てることになるなんて、私はきっと地獄に落ちるわね。」
「アリソン様のせいではありません········母を御しきれないのも、ララへの好意に気付かれてしまったのも、ダリアを愛せないのも、全部僕のせいです。」
「あなたが一番辛いのは分かってる。────でも、こうなった以上、ララを守れるのはディアン、あなたしかいない。······あの子を愛してあげてね。王様が私を愛してくれたように、寵愛は一番の武器になる。」
「───はい。ララを守ると約束します。」
アリソンは涙を流しながら、ディアンの手をきつく握りしめた。
◇
ララは、馬車の中で向かい合い、無表情でララをじっと観察するように眺めている王妃を上目遣いでチラリと見た。王妃と目が合ってしまい、ララはビクッと身を震わせた。
「本当に似ているわ。」
王妃が突然口を開いた。ダリアとララが似ているという意味だろうか。
「あなたは若い頃のアリソンみたい。善人で、臆病で、儚い。男はあなた達みたいなのが好きよ。私やダリアは、美しいとは言われても、一生をかけて愛するとは言われない。」
「は、はい··············」
ララは緊張して何も考えることができず、返事を返すのがやっとだった。
「アリソンは嘆いていたけど、あなたは恵まれてるわ。こんなに普通よりも劣っているのに、畏れ多くもこの国の王子に目をかけられ、王の子を産む機会を得られるんだからね。」
「は、はい··········」
「それに、相手は変態の年寄り貴族じゃなく、若く美しい私の息子よ。王子は優しいから、あなたをひどくは扱わないでしょう。私に感謝してほしいくらいだわ。」
「は、はい··········」
王妃は、侮蔑を含む眼差しでララを見ると、大きなため息をついた。
「こんな子に王子の心を奪われるとは、ダリアも情けないものね。」
ララが今の状況で理解できていることは、『王宮へ行き、もう離宮へは帰れない。』『ディアン王子の子を産むことが役目。』ということだけである。
王妃がやってきてアリソンに話し始めた内容は、ララには難しくて半分以上が分からなかった。ただ、王妃の脅すような口調と、アリソンの悲壮な表情を見ると、なにかただ事ではないことが起こっており、王妃のいう通りにしなければ、アリソンはひどい目に遭うということは理解できた。
『ディアン王子の子を産む』というのが、何をすればいいのか何となくは分かるが、はっきりとは分からなかった。子を作るのだから、この前兄から教えてもらった、虫でいう『交尾』なのだろうか。だとすれば、そもそもララはそれをしたことがないし、どうすればいいのかも、妻のダリアがいるにも関わらず、何故ララが選ばれたのかも分からない。ディアンを相手に無知をさらけ出すのは怖かったし、こんな自分の「裸」をディアンに見られると思うと恥ずかしすぎて死にたくなった。
王宮へ向かう馬車は止められない。何も分からない不安と恐怖で、ララは押し潰されそうになった。
アリソンとララの姿がないので、使用人に2人の所在を聞くと、ララは突然やってきた王妃に連れていかれ、アリソンは心神喪失してしまい部屋で休んでいるという。
「くそ!間に合わなかった·······!!」
イリオは悔しそうに叫び、床を拳で叩いた。
ディアンは絶望的な気持ちのまま、アリソンの寝室を訪れた。
アリソンは眠っていたが、ディアンが近くに来るとゆっくりと目を開け、天井を見ていた。
「ディアン·······ごめんなさい。ララを守れなかった。娘を2人も捨てることになるなんて、私はきっと地獄に落ちるわね。」
「アリソン様のせいではありません········母を御しきれないのも、ララへの好意に気付かれてしまったのも、ダリアを愛せないのも、全部僕のせいです。」
「あなたが一番辛いのは分かってる。────でも、こうなった以上、ララを守れるのはディアン、あなたしかいない。······あの子を愛してあげてね。王様が私を愛してくれたように、寵愛は一番の武器になる。」
「───はい。ララを守ると約束します。」
アリソンは涙を流しながら、ディアンの手をきつく握りしめた。
◇
ララは、馬車の中で向かい合い、無表情でララをじっと観察するように眺めている王妃を上目遣いでチラリと見た。王妃と目が合ってしまい、ララはビクッと身を震わせた。
「本当に似ているわ。」
王妃が突然口を開いた。ダリアとララが似ているという意味だろうか。
「あなたは若い頃のアリソンみたい。善人で、臆病で、儚い。男はあなた達みたいなのが好きよ。私やダリアは、美しいとは言われても、一生をかけて愛するとは言われない。」
「は、はい··············」
ララは緊張して何も考えることができず、返事を返すのがやっとだった。
「アリソンは嘆いていたけど、あなたは恵まれてるわ。こんなに普通よりも劣っているのに、畏れ多くもこの国の王子に目をかけられ、王の子を産む機会を得られるんだからね。」
「は、はい··········」
「それに、相手は変態の年寄り貴族じゃなく、若く美しい私の息子よ。王子は優しいから、あなたをひどくは扱わないでしょう。私に感謝してほしいくらいだわ。」
「は、はい··········」
王妃は、侮蔑を含む眼差しでララを見ると、大きなため息をついた。
「こんな子に王子の心を奪われるとは、ダリアも情けないものね。」
ララが今の状況で理解できていることは、『王宮へ行き、もう離宮へは帰れない。』『ディアン王子の子を産むことが役目。』ということだけである。
王妃がやってきてアリソンに話し始めた内容は、ララには難しくて半分以上が分からなかった。ただ、王妃の脅すような口調と、アリソンの悲壮な表情を見ると、なにかただ事ではないことが起こっており、王妃のいう通りにしなければ、アリソンはひどい目に遭うということは理解できた。
『ディアン王子の子を産む』というのが、何をすればいいのか何となくは分かるが、はっきりとは分からなかった。子を作るのだから、この前兄から教えてもらった、虫でいう『交尾』なのだろうか。だとすれば、そもそもララはそれをしたことがないし、どうすればいいのかも、妻のダリアがいるにも関わらず、何故ララが選ばれたのかも分からない。ディアンを相手に無知をさらけ出すのは怖かったし、こんな自分の「裸」をディアンに見られると思うと恥ずかしすぎて死にたくなった。
王宮へ向かう馬車は止められない。何も分からない不安と恐怖で、ララは押し潰されそうになった。
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