上 下
32 / 50

母との別れ

しおりを挟む
 ディアンとイリオが離宮に到着し、屋敷の中に足を踏み入れた時には、屋敷内は不自然なほど静まり返っていた。

 アリソンとララの姿がないので、使用人に2人の所在を聞くと、ララは突然やってきた王妃に連れていかれ、アリソンは心神喪失してしまい部屋で休んでいるという。

「くそ!間に合わなかった·······!!」
 イリオは悔しそうに叫び、床を拳で叩いた。
 ディアンは絶望的な気持ちのまま、アリソンの寝室を訪れた。
 アリソンは眠っていたが、ディアンが近くに来るとゆっくりと目を開け、天井を見ていた。
「ディアン·······ごめんなさい。ララを守れなかった。娘を2人も捨てることになるなんて、私はきっと地獄に落ちるわね。」
「アリソン様のせいではありません········母を御しきれないのも、ララへの好意に気付かれてしまったのも、ダリアを愛せないのも、全部僕のせいです。」
「あなたが一番辛いのは分かってる。────でも、こうなった以上、ララを守れるのはディアン、あなたしかいない。······あの子を愛してあげてね。王様が私を愛してくれたように、寵愛は一番の武器になる。」
「───はい。ララを守ると約束します。」
 アリソンは涙を流しながら、ディアンの手をきつく握りしめた。

 ◇

 ララは、馬車の中で向かい合い、無表情でララをじっと観察するように眺めている王妃を上目遣いでチラリと見た。王妃と目が合ってしまい、ララはビクッと身を震わせた。
「本当に似ているわ。」
 王妃が突然口を開いた。ダリアとララが似ているという意味だろうか。
「あなたは若い頃のアリソンみたい。善人で、臆病で、儚い。男はあなた達みたいなのが好きよ。私やダリアは、美しいとは言われても、一生をかけて愛するとは言われない。」
「は、はい··············」
 ララは緊張して何も考えることができず、返事を返すのがやっとだった。
「アリソンは嘆いていたけど、あなたは恵まれてるわ。こんなに普通よりも劣っているのに、畏れ多くもこの国の王子に目をかけられ、王の子を産む機会を得られるんだからね。」
「は、はい··········」
「それに、相手は変態の年寄り貴族じゃなく、若く美しい私の息子よ。王子は優しいから、あなたをひどくは扱わないでしょう。私に感謝してほしいくらいだわ。」
「は、はい··········」
 王妃は、侮蔑を含む眼差しでララを見ると、大きなため息をついた。
「こんな子に王子の心を奪われるとは、ダリアも情けないものね。」

 ララが今の状況で理解できていることは、『王宮へ行き、もう離宮へは帰れない。』『ディアン王子の子を産むことが役目。』ということだけである。
王妃がやってきてアリソンに話し始めた内容は、ララには難しくて半分以上が分からなかった。ただ、王妃の脅すような口調と、アリソンの悲壮な表情を見ると、なにかただ事ではないことが起こっており、王妃のいう通りにしなければ、アリソンはひどい目に遭うということは理解できた。
『ディアン王子の子を産む』というのが、何をすればいいのか何となくは分かるが、はっきりとは分からなかった。子を作るのだから、この前兄から教えてもらった、虫でいう『交尾』なのだろうか。だとすれば、そもそもララはそれをしたことがないし、どうすればいいのかも、妻のダリアがいるにも関わらず、何故ララが選ばれたのかも分からない。ディアンを相手に無知をさらけ出すのは怖かったし、こんな自分の「裸」をディアンに見られると思うと恥ずかしすぎて死にたくなった。

 王宮へ向かう馬車は止められない。何も分からない不安と恐怖で、ララは押し潰されそうになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

[完]僕の前から、君が消えた

小葉石
恋愛
『あなたの残りの時間、全てください』 余命宣告を受けた僕に殊勝にもそんな事を言っていた彼女が突然消えた…それは事故で一瞬で終わってしまったと後から聞いた。 残りの人生彼女とはどう向き合おうかと、悩みに悩んでいた僕にとっては彼女が消えた事実さえ上手く処理出来ないでいる。  そんな彼女が、僕を迎えにくるなんて…… *ホラーではありません。現代が舞台ですが、ファンタジー色強めだと思います。

溺愛される妻が記憶喪失になるとこうなる

田尾風香
恋愛
***2022/6/21、書き換えました。 お茶会で紅茶を飲んだ途端に頭に痛みを感じて倒れて、次に目を覚ましたら、目の前にイケメンがいました。 「あの、どちら様でしょうか?」 「俺と君は小さい頃からずっと一緒で、幼い頃からの婚約者で、例え死んでも一緒にいようと誓い合って……!」 「旦那様、奥様に記憶がないのをいいことに、嘘を教えませんように」 溺愛される妻は、果たして記憶を取り戻すことができるのか。 ギャグを書いたことはありませんが、ギャグっぽいお話しです。会話が多め。R18ではありませんが、行為後の話がありますので、ご注意下さい。

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

男装の公爵令嬢ドレスを着る

おみなしづき
恋愛
父親は、公爵で騎士団長。 双子の兄も父親の騎士団に所属した。 そんな家族の末っ子として産まれたアデルが、幼い頃から騎士を目指すのは自然な事だった。 男装をして、口調も父や兄達と同じく男勝り。 けれど、そんな彼女でも婚約者がいた。 「アデル……ローマン殿下に婚約を破棄された。どうしてだ?」 「ローマン殿下には心に決めた方がいるからです」 父も兄達も殺気立ったけれど、アデルはローマンに全く未練はなかった。 すると、婚約破棄を待っていたかのようにアデルに婚約を申し込む手紙が届いて……。 ※暴力的描写もたまに出ます。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

半日だけの…。貴方が私を忘れても

アズやっこ
恋愛
貴方が私を忘れても私が貴方の分まで覚えてる。 今の貴方が私を愛していなくても、 騎士ではなくても、 足が動かなくて車椅子生活になっても、 騎士だった貴方の姿を、 優しい貴方を、 私を愛してくれた事を、 例え貴方が記憶を失っても私だけは覚えてる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるゆる設定です。  ❈ 男性は記憶がなくなり忘れます。  ❈ 車椅子生活です。

処理中です...