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距離感
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翌日、レックスとネイサンが海外の資産家と商談に行っている間、ララは一緒についてきた御者と共に、海でデッサンをしていた。
本当は海だけの絵にしようかと思っていたが、砂浜で遊んでいた子ども達の笑い声が心地よく、『砂浜で遊ぶ子ども達と、後ろに広がる海』の絵にすることにした。海には今日1日しか滞在できないので、ララはこの光景を忘れないよう目に焼き付けた。
商談が無事に終わったレックスとネイサンは、一度部屋に戻り、本日の売り上げを数えていた。
「今日は結構売れたね!海外だと、国内の絵の流行とちょっと違うから、また研究しないと。」
「ああ、そうだな。」
「ところでレックス。今お屋敷に戻ってるんだろ?すぐまた出ると思ったのに、今回長くないか?それにアネッサがよりを戻そうって言ったのに断ったって聞いたよ。」
「········なんだよ。別に俺の勝手だろ?アネッサのやつ、好き勝手良い回ってるな。」
ネイサンは動かしていた手を止め、レックスをじっと見ながら言った。
「···········ララのせいだろ?」
「は?」
「ララが妹として屋敷に来てから、君は変わったんだよ。必ず屋敷に帰るようになったし、朝まで仲間と飲むこともほとんどなくなったし、美女と付き合うこともなくなった。なんだか君らしくない。」
「··········ララは関係ないだろ。ネイサン、おかしなこというなよ。」
「いいや、友人として言わせてくれ。あんなにかわいい妹が近くにいて、メロメロになるのは仕方ないさ。でも、ララは·······距離感がおかしいだろ?血が繋がってない、最近まで他人として暮らしていた男女が、同じベッドで寝るなんてありえないよ!」
「────お前は何も知らないだろ?ララは、幼い時に家族から愛情をもらわなかったんだ。やっとできた家族に甘えたい時期なんだよ。」
「そうか。だとしても、それはララの話だ。君は?彼女を完全に妹として見れるか?無理だろ。·········彼女は恋人にも結婚相手にもなれるわけじゃない。ララに恋したって、何も報われないし辛いだけだ。間違いが起きる前に、家を出て、君にふさわしい女性を探せよ!それが一番上手くいく。」
レックスは苛立った様子で鞄の蓋を勢いよく閉めた。
「───黙れネイサン!知ったような口を利くな。お節介もほどほどにしろよ!」
言い合いをした2人は、それから一言も口をきかなかった。
帰りの馬車の中、レックスとネイサンはそれぞれ窓の外ばかり見ていた。ララはチラチラと彼らを見ていたが一度も目が合わなかった。行きはあんなに楽しかったのに、帰りの居心地の悪さにララは戸惑っていた。
ネイサンとは途中で別れ、 ララは馬車の中で、レックスと2人きりになった。
今日の海での出来事を兄に話したかった。すごく楽しい遠出だったと兄に伝えたかった。しかし、考え事をしているようなレックスの表情を見ると、ララはどう話を切り出せば良いか分からず、ただ黙って兄の隣に移動し、静かに身を寄せた。
レックスは何も言わなかったが、おもむろにララの指と自分の指を絡ませ、掌が向かい合うようにして手を繋いできた。
世間では恋人同士がする手の繋ぎ方だが、ララはそんなことを知るはずもなく、兄から自分に触れてきてくれることが嬉しかった。ララが微笑んでいると、じっと見られているように感じ、隣に座っている兄を見上げた。
「···············?兄さん?」
レックスは、ララの頬にかかった髪を掬い上げ耳にかけた。この雰囲気をララは経験したことがないが、これから何をするのかはなんとなく分かる。王子様が、眠ってしまい目覚めない姫にするアレだ。
なぜ兄がアレをしようとしているのかララには分からないが、兄が望むことに応えてあげたいというのがララの本心だった。
ララがゆっくりと目を閉じると、しばらくの間があり、唇に軽く何かが触れた感触があった。兄が突然笑い出した為、ララはパチッと目を開けた。
「···········ララ!そういう時は断らないと。」
「──────え?」
「俺が何をしても受け入れるつもりか?それとも、誰にでもそうなのか?」
ララには兄がなぜ笑っているのか分からなかった。からかわれたのだろうか?
「笑わないでください兄さん·········」
「────ネイサンのいう通りだ。確かにしんどいな。」
レックスは繋いでいた手をほどくと、ララの頭を優しく撫でた。
「俺はお前の·········いい兄でいようと思う。この先ずっとだ。」
ララは、なぜレックスが突然こんなことを言い出すのか理解できなかった。何かを決心したような、どこかで自分と一線を引いたような思いがした。ララは一抹の不安を覚えた。
「············兄さ───」
「ララ、海の絵ができたら、一度俺に預けてくれないか?完成、楽しみにしてるよ。」
レックスはそういうと、窓際に肘をついて、再び外の景色を眺めはじめた。
ララはなんとなく、兄に話しかけるなと言われている気がして、到着まで一言も話しかけることができなかった。
兄の表情を何度も見たが、口元は手で隠れ、目線は窓の外を見ていた。兄が今どんな気持ちでいるのか、ララには全く想像できなかった。
本当は海だけの絵にしようかと思っていたが、砂浜で遊んでいた子ども達の笑い声が心地よく、『砂浜で遊ぶ子ども達と、後ろに広がる海』の絵にすることにした。海には今日1日しか滞在できないので、ララはこの光景を忘れないよう目に焼き付けた。
商談が無事に終わったレックスとネイサンは、一度部屋に戻り、本日の売り上げを数えていた。
「今日は結構売れたね!海外だと、国内の絵の流行とちょっと違うから、また研究しないと。」
「ああ、そうだな。」
「ところでレックス。今お屋敷に戻ってるんだろ?すぐまた出ると思ったのに、今回長くないか?それにアネッサがよりを戻そうって言ったのに断ったって聞いたよ。」
「········なんだよ。別に俺の勝手だろ?アネッサのやつ、好き勝手良い回ってるな。」
ネイサンは動かしていた手を止め、レックスをじっと見ながら言った。
「···········ララのせいだろ?」
「は?」
「ララが妹として屋敷に来てから、君は変わったんだよ。必ず屋敷に帰るようになったし、朝まで仲間と飲むこともほとんどなくなったし、美女と付き合うこともなくなった。なんだか君らしくない。」
「··········ララは関係ないだろ。ネイサン、おかしなこというなよ。」
「いいや、友人として言わせてくれ。あんなにかわいい妹が近くにいて、メロメロになるのは仕方ないさ。でも、ララは·······距離感がおかしいだろ?血が繋がってない、最近まで他人として暮らしていた男女が、同じベッドで寝るなんてありえないよ!」
「────お前は何も知らないだろ?ララは、幼い時に家族から愛情をもらわなかったんだ。やっとできた家族に甘えたい時期なんだよ。」
「そうか。だとしても、それはララの話だ。君は?彼女を完全に妹として見れるか?無理だろ。·········彼女は恋人にも結婚相手にもなれるわけじゃない。ララに恋したって、何も報われないし辛いだけだ。間違いが起きる前に、家を出て、君にふさわしい女性を探せよ!それが一番上手くいく。」
レックスは苛立った様子で鞄の蓋を勢いよく閉めた。
「───黙れネイサン!知ったような口を利くな。お節介もほどほどにしろよ!」
言い合いをした2人は、それから一言も口をきかなかった。
帰りの馬車の中、レックスとネイサンはそれぞれ窓の外ばかり見ていた。ララはチラチラと彼らを見ていたが一度も目が合わなかった。行きはあんなに楽しかったのに、帰りの居心地の悪さにララは戸惑っていた。
ネイサンとは途中で別れ、 ララは馬車の中で、レックスと2人きりになった。
今日の海での出来事を兄に話したかった。すごく楽しい遠出だったと兄に伝えたかった。しかし、考え事をしているようなレックスの表情を見ると、ララはどう話を切り出せば良いか分からず、ただ黙って兄の隣に移動し、静かに身を寄せた。
レックスは何も言わなかったが、おもむろにララの指と自分の指を絡ませ、掌が向かい合うようにして手を繋いできた。
世間では恋人同士がする手の繋ぎ方だが、ララはそんなことを知るはずもなく、兄から自分に触れてきてくれることが嬉しかった。ララが微笑んでいると、じっと見られているように感じ、隣に座っている兄を見上げた。
「···············?兄さん?」
レックスは、ララの頬にかかった髪を掬い上げ耳にかけた。この雰囲気をララは経験したことがないが、これから何をするのかはなんとなく分かる。王子様が、眠ってしまい目覚めない姫にするアレだ。
なぜ兄がアレをしようとしているのかララには分からないが、兄が望むことに応えてあげたいというのがララの本心だった。
ララがゆっくりと目を閉じると、しばらくの間があり、唇に軽く何かが触れた感触があった。兄が突然笑い出した為、ララはパチッと目を開けた。
「···········ララ!そういう時は断らないと。」
「──────え?」
「俺が何をしても受け入れるつもりか?それとも、誰にでもそうなのか?」
ララには兄がなぜ笑っているのか分からなかった。からかわれたのだろうか?
「笑わないでください兄さん·········」
「────ネイサンのいう通りだ。確かにしんどいな。」
レックスは繋いでいた手をほどくと、ララの頭を優しく撫でた。
「俺はお前の·········いい兄でいようと思う。この先ずっとだ。」
ララは、なぜレックスが突然こんなことを言い出すのか理解できなかった。何かを決心したような、どこかで自分と一線を引いたような思いがした。ララは一抹の不安を覚えた。
「············兄さ───」
「ララ、海の絵ができたら、一度俺に預けてくれないか?完成、楽しみにしてるよ。」
レックスはそういうと、窓際に肘をついて、再び外の景色を眺めはじめた。
ララはなんとなく、兄に話しかけるなと言われている気がして、到着まで一言も話しかけることができなかった。
兄の表情を何度も見たが、口元は手で隠れ、目線は窓の外を見ていた。兄が今どんな気持ちでいるのか、ララには全く想像できなかった。
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