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かわいい妹

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 ここ数週間、ララと一緒にいて分かったことがある。それは、ララ自身が何かを企み、屋敷に潜り込んだということはまずないということだ。万が一そうであったとしても、もはやアリソンとレックスはララに対して強い愛情を抱いており、嫌うことも見捨てることもできなかった。

 レックスが屋敷に帰れば、真っ先にララを探した。顔を見たかったし、『おかえりなさい!』と抱きついてくれるのが可愛かった。レックスの豹変ぶりはアリソンも呆れてしまえほどで、母娘の時間を堪能していたアリソンからすれば、レックスが邪魔だと感じるようになっていた。
「ねぇ。あなたいつまでここにいるつもりなの?また放浪の旅に出たら?」
「母さん、俺の家は元々ここだろ?そろそろ落ち着こうと思ってさ。」
 さらさら出ていく気のないレックスに嫌気が差したアリソンだったが、ララを受け入れてくれたことには感謝していた。やはり親子で通じるものがあるのか、元々いたかのようにララはこの家に馴染んでいた。

 この日はレックスは仕事が休みだったので、初めて3人で買い物に出掛けることにした。ララはドレスを買い揃えてる途中であったので、アリソンがララに新しいドレスを買ってあげたいと言い出したのだった。
「私、今まで買ってもらったもので十分です。そんなにたくさんあっても······」
 以前、いつも同じ簡易的なワンピースを来ていたララにとって、屋敷内でドレスで着飾るというのは違和感しかなかった。
「いや、買った方がいい。今日は俺が選ぶよ。」
「何を言ってるの?ララがドレスを選べないなら、私が選ぶに決まってるでしょう。」
「母さんはララを小さな女の子だと思ってるだろ?今持ってるドレスも、似合ってるけど年相応じゃないっていうか、淡い色とかフリフリしたやつばっかり。俺は他のも着てほしい。」
 親子の言い合いになり、ララは自分の服のことでケンカをするなど嬉しいなと思いながら笑っていた。
 端から見ると、髪の色が似ていることもあり、3人は本当の親子にしか見えなかった。衣装を選びに来た際、店員から
「娘さんはお母様やお兄様に似てお美しいですね。すごく素敵なご家族で羨ましいです。」と言われた。家族で外出すること、仲が良いと褒められることを夢にまで見たララにとっては、泣くほど嬉しい言葉だった。

 アリソンは淡いブルーのドレス、レックスは赤いドレスを選び、2つとも試着してみた。アリソンもレックスも、ララのドレス姿を見ると、「本当にかわいい」しか言葉が出ず、結果2着とも買うしかないと結論を出していた。
「あの·········私赤いドレスが欲しいです。1着で·······お願いします。」
 ララはどちらも気に入ったのだが、赤いドレスに黒い手袋をすると、なんだかツマグロヒョウモンみたいだなと思い、こちらの方が気に入ってしまった。
 ララが何かを選ぶことは珍しかったので、意見を尊重したいと今回は一着だけ買うことにした。
「このドレスなら大人っぽいし、今度の祝賀パーティーの時着ていけるんじゃない?私は王様の横に付くことになるから、レックスはララをエスコートしてあげてね。」
 パーティーという単語を聞いたララは、恐怖で身がすくんでしまった。
「パ、パーティー?それは、食事がたくさん出てきて、みんながお話したり、ダンスを踊ったりする·····あれのことですか?」
「そうよ!ララははじめてかしら。何も心配しなくていい。パーティー中はレックスに付いていればいいし、ダンスは少し練習しておけば適当で大丈夫よ。私も下手だし。」
 ララにはその『適当』が難しいのだ。何かをやらかす自分を想像してしまい、ララは顔が青くなっていると、レックスに手を握られた。
「ララ、大丈夫だよ。帰ってダンスの練習をしてみよう。誰でも初めては怖いさ。」
「·········はい、兄さん─────」
 幾分気分がマシになり、ドレスを買い終えたので店を出ようとしていた時だった。店内に入ってきた客を見て、ララは驚いてしまった。

 ダリアとディアンだ。

 ララはとっさにレックスの後ろに隠れ下を向いたが、アリソンが向こうに気づき、声をかけてしまった。
「ディアン王子!ダリア様、お久しぶりです。奇遇ですね。」
 ダリアはにこやかにアリソンに挨拶を還した後、後ろにいるレックスにも礼をし、後ろに隠れているララに気付き、一瞬顔が固まった。ダリアはそのままアリソンと雑談を始めた。ララには話しかけてくることはなく、ここではあえて無視すると決め込んだようだった。
 ディアンはレックスの方へ歩いてきた。お互い会うのは一年ぶりだったようで、久しぶりと言いながら儀礼的に握手をした。ララは、ディアンと会うのはファーレン家で連れ出された時以来だったので、何と言えば良いか分からず顔が見られなかった。兄弟で再会しているのに、自分は場違いな気がして気後れしたし、レックスがいる前でディアンにあの時のことを礼を言うのもなんだか変な感じがして躊躇われた。
「兄さん、ご結婚おめでとうございます。ダリア様のように美しく素晴らしい方に出会われて、本当に羨ましいです。」
 レックスはダリアのことをよく知らないが、儀礼的にこう言っておくのは普通だろう。好き勝手に恋愛をしているレックスが言うと嫌みに聞こえただろうか、などと考えていると、ディアンが口を開いた。
「レックス、ありがとう。元気そうで何よりだ。ところで········最近、離宮の方に帰ってるのか?しばらく外に出ていると聞いていたが───」
「はい。そろそろ落ち着こうと思いまして。少し前から屋敷に戻ってます。そうだ、今日はララも一緒にきていて───ララ、殿下にご挨拶は?」
 兄が妹に挨拶を促すような物言いに、ディアンは一瞬眉を寄せた。
「で、殿下·······お久しぶりです。────この前は、助けていただきありがとうございました。それと········その、ご結婚おめでとうございます。ずっと言えず、すみませんでした······!」
 あまりのララの動揺ぶりを、レックスは不審に思った。
「なんだよ。殿下だから緊張してるのか?高貴な人だけど、俺の兄上だし優しい方だから心配するな。─────お邪魔しました兄さん、それでは、ダリア様とごゆっくり!」
 2人でよろしくやれよというような意味を込めて、レックスは満面の笑みをディアンに向けると、ララの手を引いてディアンの横をすり抜けていった。すれ違いざま、ララとディアンは一瞬目があったが、ララはそのままレックスに連れられ店を出ていった。

 カランカランと扉が閉まり、ディアンは無表情で扉の方を見ていた。そして、ダリアが明らかに不機嫌そうにディアンに近付いてきた。
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