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不思議な女の子
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自室で泥のように眠っていたレックスは、カーテンから差し込んだ朝の光で目が覚めた。目を開けると、不機嫌そうに腕を組んで立っている母のアリシアがいた。
「·········おはよう。母さん。」
「おはようじゃないわよ。突然真夜中に来て。どうせ、居候していた相手に追い出されたか、仲違いしたんでしょ?いつものことよ。」
さすが母親というべきか、察しの良さにレックスは苦笑した。
「───そういえば、昨日の子は誰だ?」
「後で紹介するわ。きちんと顔洗って着替えてきてよね。変なことは言わないこと。いいわね。」
すぐに答えない辺り、何か事情があるんだろう。不思議に思いながらも、支度をすませたレックスは食堂に顔を出した。
既にアリシアと少女はにこやかに談笑しながら朝食を取っていた。
「·······おはようございます。」
「あら。来たわね。ララ、紹介するわ、私の一人息子のレックスよ。あなたより2歳年上のお兄さんね。いつもは屋敷にいないんだけど、一時帰宅してる。変わり者だから、驚かせちゃうこともあると思うけど·······しばらく仲良くしてやって。」
ずいぶんな紹介だと思いながらも、レックスはにこやかに笑いながら「ララ、よろしく」と言い、手を差し出した。ララはきょとんとした顔をして、レックスの差し出された手を眺めていた。
「ララ、握手よ、握手。」
アリシアに促され、はっとしたララは慌ててレックスの片手を力強く両手で握り返した。この子は何かがおかしいと感じつつも、レックスは笑顔で乗り切った。
「えーっと········それで母さん、ララはどういう経緯でここに───」
「ああ!そうだったわね。話すと長くなるから簡単に説明するわね。」
アリシアが事情を説明している間、ララは全く話に入ってこず、食事に集中しているようで、丁寧にブドウの皮を剥いて食べていた。レックスは、自分のことを話している隣でこんなに真剣にブドウの皮を剥く人間を初めて見たので、母の話を聞きつつも、ララの様子を凝視してしまった。
「─────というわけなのよ。·······レックス、そんな怖い顔をしてララを見ないでくれる?」
「うん。大体分かった。母さん、ちょっと来てくれる?2人で話したいんだけど。」
ブドウに集中しているララを食堂に残し、レックスはアリシアを別室に連れ出した。
部屋に入るなり、レックスは真剣な顔をしてアリシアの手を取った。
「何よ。」
「母さん、悪かったよ。俺が屋敷を出ていって、そこまで追い詰められてると思わなかったんだ。さみしい思いをさせてごめん!」
「はぁ?」
「だって、赤の他人の子を自分の娘だと思い込んで強引に引き取って?家族ごっこをしてるなんて、頭がおかしいとしか思えないだろ?」
「········あなたはそう言うだろうと思ってた。端から見ておかしいのは承知の上よ。でも理屈じゃないの。これはお導きよ。失った娘が帰ってきたの。あなたには分からないわ。」
「母さんの娘さんなら俺も見たことあるけど········ララとは全く似てないよ。子どもの頃の姿と重ね合わせてるんだろ?彼女の境遇に同情してるのは分かるけど·····感情移入しすぎだ。目を覚まして。」
「レックス、悪いけど、私はララを一生見るつもりで引き取ったの。もう彼女は家族よ。あなたとは兄妹になる。仲良くできないなら、また屋敷を出たら?止めないわよ。」
「··························」
「それに、ララは赤の他人じゃない。ディアン王子の奥さんダリアの妹。つまり、ディアン王子はララの義兄でしょ?あなたとディアン王子は腹違いの兄弟なんだから、あなたとララも遠い親戚よ。」
ほぼ赤の他人だと思うのだが、今のアリシアには何をいっても効かないだろうとレックスは思った。また、情緒不安定な母が心配になり、自分が側で支えてやらなければという謎の使命感に囚われた。
「·········そうか。分かったよ。もう何も言わない。ララとは仲良くするよう努力する。それで、ララはその······18歳だよな?上手い言い方が見つからないんだけど、精神的な障害が────」
「本当に言い方に気を付けなさいよ。障害というより、少し幼いだけよ。大人が取るようなコミュニケーションがまだ上手く取れないだけ。でも繊細な子よ。人を見ていないようで、顔色や雰囲気を感じ取ってる。あなたが彼女を疑ったり、内心馬鹿にしていれば相手にも伝わるわ。くれぐれも気を付けてね。」
馬鹿にするつもりはないが、ララが無害を装って、娘を忘れられないアリシアの懐に入り込み、この屋敷を乗っ取ろうとしているのではないかという疑念は少なからずあった。ありとあらゆる方法で王族に近付こうとする輩はごまんといる。母には申し訳ないが、レックスはしばらくララを監視し、正体を暴いてやろうという心づもりでいた。
「·········おはよう。母さん。」
「おはようじゃないわよ。突然真夜中に来て。どうせ、居候していた相手に追い出されたか、仲違いしたんでしょ?いつものことよ。」
さすが母親というべきか、察しの良さにレックスは苦笑した。
「───そういえば、昨日の子は誰だ?」
「後で紹介するわ。きちんと顔洗って着替えてきてよね。変なことは言わないこと。いいわね。」
すぐに答えない辺り、何か事情があるんだろう。不思議に思いながらも、支度をすませたレックスは食堂に顔を出した。
既にアリシアと少女はにこやかに談笑しながら朝食を取っていた。
「·······おはようございます。」
「あら。来たわね。ララ、紹介するわ、私の一人息子のレックスよ。あなたより2歳年上のお兄さんね。いつもは屋敷にいないんだけど、一時帰宅してる。変わり者だから、驚かせちゃうこともあると思うけど·······しばらく仲良くしてやって。」
ずいぶんな紹介だと思いながらも、レックスはにこやかに笑いながら「ララ、よろしく」と言い、手を差し出した。ララはきょとんとした顔をして、レックスの差し出された手を眺めていた。
「ララ、握手よ、握手。」
アリシアに促され、はっとしたララは慌ててレックスの片手を力強く両手で握り返した。この子は何かがおかしいと感じつつも、レックスは笑顔で乗り切った。
「えーっと········それで母さん、ララはどういう経緯でここに───」
「ああ!そうだったわね。話すと長くなるから簡単に説明するわね。」
アリシアが事情を説明している間、ララは全く話に入ってこず、食事に集中しているようで、丁寧にブドウの皮を剥いて食べていた。レックスは、自分のことを話している隣でこんなに真剣にブドウの皮を剥く人間を初めて見たので、母の話を聞きつつも、ララの様子を凝視してしまった。
「─────というわけなのよ。·······レックス、そんな怖い顔をしてララを見ないでくれる?」
「うん。大体分かった。母さん、ちょっと来てくれる?2人で話したいんだけど。」
ブドウに集中しているララを食堂に残し、レックスはアリシアを別室に連れ出した。
部屋に入るなり、レックスは真剣な顔をしてアリシアの手を取った。
「何よ。」
「母さん、悪かったよ。俺が屋敷を出ていって、そこまで追い詰められてると思わなかったんだ。さみしい思いをさせてごめん!」
「はぁ?」
「だって、赤の他人の子を自分の娘だと思い込んで強引に引き取って?家族ごっこをしてるなんて、頭がおかしいとしか思えないだろ?」
「········あなたはそう言うだろうと思ってた。端から見ておかしいのは承知の上よ。でも理屈じゃないの。これはお導きよ。失った娘が帰ってきたの。あなたには分からないわ。」
「母さんの娘さんなら俺も見たことあるけど········ララとは全く似てないよ。子どもの頃の姿と重ね合わせてるんだろ?彼女の境遇に同情してるのは分かるけど·····感情移入しすぎだ。目を覚まして。」
「レックス、悪いけど、私はララを一生見るつもりで引き取ったの。もう彼女は家族よ。あなたとは兄妹になる。仲良くできないなら、また屋敷を出たら?止めないわよ。」
「··························」
「それに、ララは赤の他人じゃない。ディアン王子の奥さんダリアの妹。つまり、ディアン王子はララの義兄でしょ?あなたとディアン王子は腹違いの兄弟なんだから、あなたとララも遠い親戚よ。」
ほぼ赤の他人だと思うのだが、今のアリシアには何をいっても効かないだろうとレックスは思った。また、情緒不安定な母が心配になり、自分が側で支えてやらなければという謎の使命感に囚われた。
「·········そうか。分かったよ。もう何も言わない。ララとは仲良くするよう努力する。それで、ララはその······18歳だよな?上手い言い方が見つからないんだけど、精神的な障害が────」
「本当に言い方に気を付けなさいよ。障害というより、少し幼いだけよ。大人が取るようなコミュニケーションがまだ上手く取れないだけ。でも繊細な子よ。人を見ていないようで、顔色や雰囲気を感じ取ってる。あなたが彼女を疑ったり、内心馬鹿にしていれば相手にも伝わるわ。くれぐれも気を付けてね。」
馬鹿にするつもりはないが、ララが無害を装って、娘を忘れられないアリシアの懐に入り込み、この屋敷を乗っ取ろうとしているのではないかという疑念は少なからずあった。ありとあらゆる方法で王族に近付こうとする輩はごまんといる。母には申し訳ないが、レックスはしばらくララを監視し、正体を暴いてやろうという心づもりでいた。
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