9 / 50
目覚めたララ
しおりを挟む
ララが目を覚ますと、見慣れぬ天井に、大きなふかふかのベッドの中にいた。横を見ると、ララの母親と同年代くらいの美しい金髪の女性が、ララの手を握ったままベッドに突っ伏して寝ていた。
ララはひどく驚き戸惑ったが、この女性とディアン王子が屋敷に来たことを思い出した。ふらついたララを運び、馬車に乗せてくれたところまでは覚えている。きっとこの女性は自分を助けてくれたのだろう。ひどく申し訳なくなり、謝りたかったが、ぐっすり寝ている女性を起こすのも悪い気がして、ララは途方に暮れていた。
そうしていると、すぐに女性が目を覚まし、ララと目が合った。
「───ララ。気が付いたのね。初めまして。私は王の側室のアリソンよ。ここは私が暮らしている離宮よ。あなた、まともに食べていなかったでしょう?痩せて、フラフラだったからここに連れてきたの。とりあえず何か食べましょ!ちょっと待ってて。」
アリソンから状況を説明されたが、ララは一部しか理解できなかった。とにかく自分はいい人に助けられ、今から食事を出してくれるというのだ。
ダリアが出ていき、両親が屋敷を開けるようになってからは、元々ララを軽んじていた使用人達が、ララに対して食事を出すということをしなくなり、仕方なく厨房に置いてあるパンをこっそり盗んで食べるという生活をしていた。常に空腹で、体調が悪かったのは事実だった。
出された料理はそれはそれは美味しそうで、食べきれないほどの量だった。ずいぶんまともに食事を取っていなかったこともあり、胃が急にはうけつけず、ララはまずスープだけをいただいた。
「うわぁ·····このスープ、本当に美味しいです!今まで食べたことがないくらい、本当に美味しいです。」
スープ一つで感激したララを見て、アリソンは危うく涙が出そうになってしまった。きっとまともな生活を送っていなかったのだろう。貴族令嬢であるのに、姉は王子に嫁ぎ、方や妹は、両親や使用人にすらまともな扱いを受けていなかったとは、なんとも酷い話だった。
「ゆっくり食べてね。食べれるものだけ。残してもいいのよ。」
「いえ、残すだなんて······でも、一度に食べれそうにないので、良かったら後でいただいてもいいですか?それか、持ち帰ってもいいですか?」
恥ずかしそうにしているララの肩をそっと掴むと、アリソンはララの顔を覗き込んでこう言った。
「ララ、あなたはもうファーレン家には帰らなくていい。食事もさせてもらえないなんて異常よ。この屋敷で私と暮らしましょう。」
突然のアリソンの申し出に、ララは状況が飲み込めず目を白黒させた。
「えっと········奥様は·······側室?の方ですよね?なぜ私を、その······助けようとしてくださるのですか?それに、両親は悪くないんです。私は何の役にも立たないので、屋敷にいさせてもらえるだけでもありがたいです。」
「あなたを助けたいのは、私がそうしたいからよ。何を言ってるんだと思うでしょうけど、初めてあなたを見たときから、あなたのことを自分の娘としか思えないの。私を哀れだと思ってくれていいわ。でも、あなたの両親の元へは返せない。あそこよりはここの方がマシなはずよ。少なくとも食事には困らない。」
ララは、今にも泣き出しそうなこのアリソンという女性が可哀想になってしまった。この素敵な女性の娘もまた、さぞ素敵なんだろう。ララとはかけ離れているのに、何故かララと娘を重ね合わせているのだ。ララの境遇など同情してもらう義理はないのに、何故だかアリソンはララに対して特別な感情を抱いている。
「あの········私のこと心配してくださって、ありがとうございます。でしたら、その、奥様が私を手放したくなったら·······そうしてください。それまでお世話になってもいいですか?本当に私は何の役にも立ちませんが────」
アリソンは、自分を否定する言葉を続けようとするララを強く抱き締めた。
「あなたは、この屋敷でただ私と普通の娘のように過ごしてくれるだけでいいの。それがあなたの役割よ。一緒に食事をして、お話をして、お出掛けをしましょう。あなたにしかできないことよ。お願いできるかしら?」
「────えっと······はい。しかし、両親がもしかしたら怒るかもしれません。私が勝手に出ていったから········屋敷から出ないよう言われてたんです。」
ララは両親の報復を恐れているようだった。連れ戻された後、酷い目に合わされることを心配しているのだろう。
「ララ、安心して。何も心配しなくていい。これまで辛かったわね。」
ララはアリソンの言葉を完全に信用できないようだった。幼い頃から刷り込まれた両親の洗脳は解けないのだろう。時間がかかることを覚悟したアリソンは、少しずつでもララがこの屋敷に慣れ、安心できる場所になればいいと願った。
その日、ララは残りの食事を時間をかけて平らげ、ゆっくりとお風呂に浸かったあと、アリソンが用意してくれた綺麗なドレスを着させられ、屋敷内を案内された。
離宮の使用人達は皆いい人ばかりで、少し変わった雰囲気のララを馬鹿にする様子はなく、皆歓迎してくれた。
その日の夜、案の定、ララを連れ出されたと知ったファーレン夫妻がアリソンを訪ねてきた。
ララはひどく驚き戸惑ったが、この女性とディアン王子が屋敷に来たことを思い出した。ふらついたララを運び、馬車に乗せてくれたところまでは覚えている。きっとこの女性は自分を助けてくれたのだろう。ひどく申し訳なくなり、謝りたかったが、ぐっすり寝ている女性を起こすのも悪い気がして、ララは途方に暮れていた。
そうしていると、すぐに女性が目を覚まし、ララと目が合った。
「───ララ。気が付いたのね。初めまして。私は王の側室のアリソンよ。ここは私が暮らしている離宮よ。あなた、まともに食べていなかったでしょう?痩せて、フラフラだったからここに連れてきたの。とりあえず何か食べましょ!ちょっと待ってて。」
アリソンから状況を説明されたが、ララは一部しか理解できなかった。とにかく自分はいい人に助けられ、今から食事を出してくれるというのだ。
ダリアが出ていき、両親が屋敷を開けるようになってからは、元々ララを軽んじていた使用人達が、ララに対して食事を出すということをしなくなり、仕方なく厨房に置いてあるパンをこっそり盗んで食べるという生活をしていた。常に空腹で、体調が悪かったのは事実だった。
出された料理はそれはそれは美味しそうで、食べきれないほどの量だった。ずいぶんまともに食事を取っていなかったこともあり、胃が急にはうけつけず、ララはまずスープだけをいただいた。
「うわぁ·····このスープ、本当に美味しいです!今まで食べたことがないくらい、本当に美味しいです。」
スープ一つで感激したララを見て、アリソンは危うく涙が出そうになってしまった。きっとまともな生活を送っていなかったのだろう。貴族令嬢であるのに、姉は王子に嫁ぎ、方や妹は、両親や使用人にすらまともな扱いを受けていなかったとは、なんとも酷い話だった。
「ゆっくり食べてね。食べれるものだけ。残してもいいのよ。」
「いえ、残すだなんて······でも、一度に食べれそうにないので、良かったら後でいただいてもいいですか?それか、持ち帰ってもいいですか?」
恥ずかしそうにしているララの肩をそっと掴むと、アリソンはララの顔を覗き込んでこう言った。
「ララ、あなたはもうファーレン家には帰らなくていい。食事もさせてもらえないなんて異常よ。この屋敷で私と暮らしましょう。」
突然のアリソンの申し出に、ララは状況が飲み込めず目を白黒させた。
「えっと········奥様は·······側室?の方ですよね?なぜ私を、その······助けようとしてくださるのですか?それに、両親は悪くないんです。私は何の役にも立たないので、屋敷にいさせてもらえるだけでもありがたいです。」
「あなたを助けたいのは、私がそうしたいからよ。何を言ってるんだと思うでしょうけど、初めてあなたを見たときから、あなたのことを自分の娘としか思えないの。私を哀れだと思ってくれていいわ。でも、あなたの両親の元へは返せない。あそこよりはここの方がマシなはずよ。少なくとも食事には困らない。」
ララは、今にも泣き出しそうなこのアリソンという女性が可哀想になってしまった。この素敵な女性の娘もまた、さぞ素敵なんだろう。ララとはかけ離れているのに、何故かララと娘を重ね合わせているのだ。ララの境遇など同情してもらう義理はないのに、何故だかアリソンはララに対して特別な感情を抱いている。
「あの········私のこと心配してくださって、ありがとうございます。でしたら、その、奥様が私を手放したくなったら·······そうしてください。それまでお世話になってもいいですか?本当に私は何の役にも立ちませんが────」
アリソンは、自分を否定する言葉を続けようとするララを強く抱き締めた。
「あなたは、この屋敷でただ私と普通の娘のように過ごしてくれるだけでいいの。それがあなたの役割よ。一緒に食事をして、お話をして、お出掛けをしましょう。あなたにしかできないことよ。お願いできるかしら?」
「────えっと······はい。しかし、両親がもしかしたら怒るかもしれません。私が勝手に出ていったから········屋敷から出ないよう言われてたんです。」
ララは両親の報復を恐れているようだった。連れ戻された後、酷い目に合わされることを心配しているのだろう。
「ララ、安心して。何も心配しなくていい。これまで辛かったわね。」
ララはアリソンの言葉を完全に信用できないようだった。幼い頃から刷り込まれた両親の洗脳は解けないのだろう。時間がかかることを覚悟したアリソンは、少しずつでもララがこの屋敷に慣れ、安心できる場所になればいいと願った。
その日、ララは残りの食事を時間をかけて平らげ、ゆっくりとお風呂に浸かったあと、アリソンが用意してくれた綺麗なドレスを着させられ、屋敷内を案内された。
離宮の使用人達は皆いい人ばかりで、少し変わった雰囲気のララを馬鹿にする様子はなく、皆歓迎してくれた。
その日の夜、案の定、ララを連れ出されたと知ったファーレン夫妻がアリソンを訪ねてきた。
197
お気に入りに追加
428
あなたにおすすめの小説
踏み台令嬢はへこたれない
三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります
みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」
私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。
聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?
私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。
だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。
こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。
私は誰にも愛されていないのだから。
なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。
灰色の魔女の死という、極上の舞台をー
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる