すてられた令嬢は、傷心の魔法騎士に溺愛される

みみぢあん

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69話 義務 王太子クリストフside

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 アンバレに手渡された竜輝石りゅうきせきつえを、王太子クリストフは震える手でにぎりしめ… 顔は青ざめ強張こわばっていたが、騎士たちに次々と指示を出す。


「私とペイサージュ伯爵は、救援の騎士たちを連れて現地へ移動する」 
 まさか、こんなことになるとは、思いもしなかったが! だが、私も王家に生まれた者として、この身に流れる氷結の魔法使いの血にかけて、義務を果たさなければ!

 王太子クリストフの命令に、アンバレと騎士団本部で待機たいきしていた4人の騎士、王太子の護衛騎士3人がうなずく。

「聖女ブリュイはここで待機し、戻って来た負傷者の浄化を!」

「ふんっ…!」
 元通りに完治したアンバレの姿を見て、驚愕きょうがくしていた聖女ブリュイだが、その衝撃しょうげきが過ぎ去ると… 今度は子供のようにすねて押し黙り、クリストフの命令に対して反抗的に視線をそらした。

「ブリュイ!! お前はいつまで子供のように、我がままを言う気だ?! 聖なる力があっても、必要な時に使えなければ、お前から聖女の称号を取り上げても良いのだぞ?! 新たな聖女候補が見つかったからな!!」
 この非常時に、お前の機嫌取りなどしていられるか! こうなったら伯爵には悪いが… 気弱だろうが、心の病を抱えていようが、伯爵夫人を引っぱり出してやる!

「……っ!」
 クリストフにおどされ、聖女ブリュイは顔を真っ赤にする。

「ブリュイ、返事は?!」

「…はい、殿下」
 ブリュイは悔しそうに横を向く。

「王太子殿下…!」
 『聖女候補が見つかった』と聞き、アンバレは自分の妻のことだと読み取り、険しい表情でクリストフをにらむが… 非常時に議論することをひかえ、抗議の言葉を飲み込んだ。

 理性的なアンバレの態度に、内心でホッ… とクリストフは胸をなでおろす。
 これから強敵を相手に、命をかけて一緒に戦う仲間と、言い争いはしたくない。

 
「王太子殿下、私にも何かお手伝いさせてください!」
 アンバレと一緒に来た、王宮街神殿の神官長コンプレスが助力を申し出た。

 竜輝石りゅうきせきつえをアンバレに渡した後、イフリート出現の知らせを聞き、神官として自分も何か手伝えないかと、同行して来たのだ。

「それは助かる! 殿下、聖女殿だけでは負傷者全員の浄化をするのは、時間がかかり過ぎるので… 先に神官長殿に、大量の聖水を用意していただいて、聖女殿の補助を頼んではどうでしょうか?」
 
「それでしたら、聖女様ほどではありませんが、ジョファージュ地方出身の聖なる力を微力ながら宿やどす、神官がおります! 彼女が聖水で浄化をお手伝いすれば、より聖水の効果が出るでしょう!」
 ジョファージュ地方とは… 理由は解明されていないが、昔からソレイユのように聖なる力を持つ者が、多く誕生する地域である。

「それは心強い! 神官長殿、そのように頼む!」

「お任せください、殿下!」 
 神官長コンプレスは胸に手をあてうなずく。

「それと、王宮所属の治療師たちにも魔法騎士団の帰還きかんに備えて、救援を要請しておけ!」

「は… はい!」
 王太子の護衛の1人が魔力で伝言を書き、王宮へ赤い警告色の幻鳥げんちょうを飛ばそうとした時… 背後で急激に魔力が高まる気配を感じ振り向いた。

 魔法陣が光を放ち、転移魔法が発動する。


「誰かが帰って来る?! 殿下、カルムが先に、負傷者をこちらに送り返したのかも知れません!」
 
 地下施設内に転移魔法のまぶしい光があふれ、まぶたを閉じた次の瞬間……


 ドオオオオォォォ――――ンッ…!!!!!


 その場にいた全員が、世界の崩壊を連想させる轟音ごうおん衝撃しょうげきに襲われた。





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