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68話 運命 アンバレside
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竜輝石の杖を持ったアンバレと、王宮街神殿の神官長コンプレスは、騎士団の地下に設置された、転移魔法陣前で待機していた王太子クリストフと聖女ブリュイたちと合流した。
「お待たせしました、クリストフ殿下!」
「来たか、ペイサージュ伯爵… 騎士団を辞めた後まで、呼び出してすまない!」
普段なら考えられないほど、王太子はひどく弱気な態度だった。
コカトリスだけでもじゅうぶん脅威を感じる魔獣だが… 出会えば騎士団の全滅を避けられないと言われる、イフリートが出現したのだから、当然の態度ともいえる。
「……っ?!」
王太子の背後で聖女ブリュイが、ハッ… と息をのみ、アンバレを見て顔を強張らせた。
アンバレの顔から魔獣の呪毒に侵された穢れた傷痕は綺麗に浄化され、治癒されていることに聖女ブリュイもさすがに気付いたのだろう。
「お久しぶりです、聖女殿」
私の浄化を拒否したことで、自分の価値を大きく下げたことに、ようやく気付いたようだな?
アンバレは冷ややかな視線をチラリッ… と聖女に向けた。
「ペイサージュ伯爵様、なぜ傷の… 呪毒の浄化がされているの?!」
『私を愛してくれなければ、ケガの浄化はしません!』と呪毒に苦しむアンバレを脅し、放置した聖女は驚愕し… 青い顔で沈黙する。
この場にいる全員が、アンバレが受けた残酷な仕打ちを知っていたため、聖女ブリュイに冷たい視線を向けていた。
「聖女殿のお力をお借りしなくても… この通り私は、愛する妻の献身的な看護と真の愛情で、呪毒の穢れは浄化されました」
ソレイユを聖女として、王家に差し出す気など無いが… この性悪女が、自分に代わる聖女が他にもいると危機感を持てば、恐らく今後は浄化の依頼を拒むことはなくなるだろう。
「そ… そんなこと、ありえないわ?! あんなに強い呪毒が…」
「……」
今はこんな性悪聖女に、貴重な時間を使って、相手などしていられない!
動揺する聖女を無視して、アンバレは王太子クリストフに向き直る。
「王太子殿下、イフリートが出現したことは聞きました?」
「今、聞いた! まったく、コカトリスの次はイフリートとはな…! 今すぐ対策を練らなければならない! …だが対策と言っても、今のところ私たちは一方的に蹂躙されても、イフリートが消えるのを待つ以外、何も出来ないのが現状だ!」
イライラと王太子は頭をかきながら、アンバレに珍しく愚痴をこぼした。
「ですが、殿下… 過去の記録では確かにイフリートを撃退することができませんでしたが、今回はコレがありますから!」
アンバレはコンプレスから借りた、竜輝石の杖を王太子に手渡す。
「なるほど… この竜輝石の杖か! 杖からとてつもなく大きな魔力を感じる! 確かにコレがあれば、心強いことだが…」
王太子クリストフはアンバレから杖を受け取り、緊張した表情でゴクリッ… とつばを飲み込む。
普通なら王太子は後方支援はするが、危険な魔獣退治に直接、参加することはない。
だが、アンバレはあえてイフリートとの戦いに参加して欲しいと、杖を渡すことで王太子クリストフに伝えたのだ。
「恐らくこのイフリートとの戦いには、殿下のお力が1番、必要になります!」
聖女エクレラージュの導きか、それとも女神ルージュの導きかはわからないが… 私には運命としか思えない!
カルムと一緒に探し出した、騎士団の古い調査記録の内容がアンバレの脳裏に浮かぶ。
王太子クリストフの先祖、120年前の国王アドリアンは、王太子時代にイフリートの出現で魔法騎士団が全滅し、自身の親友でもあったオルドナンス公爵ロアンを失い、その経験から1つの考えにたどりついた。
『王家の血筋に、イフリートに対抗できる魔法の使い手の血を取り込む』という考えである。
王太子クリストフの母親が、身分の低い家柄でも側妃に選ばれたのは、強い魔力を持っていたからだが… 理由はそれだけではない。
王国内では珍しい、『氷結魔法』の使い手を生み出す、血筋だったからだ。
「お待たせしました、クリストフ殿下!」
「来たか、ペイサージュ伯爵… 騎士団を辞めた後まで、呼び出してすまない!」
普段なら考えられないほど、王太子はひどく弱気な態度だった。
コカトリスだけでもじゅうぶん脅威を感じる魔獣だが… 出会えば騎士団の全滅を避けられないと言われる、イフリートが出現したのだから、当然の態度ともいえる。
「……っ?!」
王太子の背後で聖女ブリュイが、ハッ… と息をのみ、アンバレを見て顔を強張らせた。
アンバレの顔から魔獣の呪毒に侵された穢れた傷痕は綺麗に浄化され、治癒されていることに聖女ブリュイもさすがに気付いたのだろう。
「お久しぶりです、聖女殿」
私の浄化を拒否したことで、自分の価値を大きく下げたことに、ようやく気付いたようだな?
アンバレは冷ややかな視線をチラリッ… と聖女に向けた。
「ペイサージュ伯爵様、なぜ傷の… 呪毒の浄化がされているの?!」
『私を愛してくれなければ、ケガの浄化はしません!』と呪毒に苦しむアンバレを脅し、放置した聖女は驚愕し… 青い顔で沈黙する。
この場にいる全員が、アンバレが受けた残酷な仕打ちを知っていたため、聖女ブリュイに冷たい視線を向けていた。
「聖女殿のお力をお借りしなくても… この通り私は、愛する妻の献身的な看護と真の愛情で、呪毒の穢れは浄化されました」
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「そ… そんなこと、ありえないわ?! あんなに強い呪毒が…」
「……」
今はこんな性悪聖女に、貴重な時間を使って、相手などしていられない!
動揺する聖女を無視して、アンバレは王太子クリストフに向き直る。
「王太子殿下、イフリートが出現したことは聞きました?」
「今、聞いた! まったく、コカトリスの次はイフリートとはな…! 今すぐ対策を練らなければならない! …だが対策と言っても、今のところ私たちは一方的に蹂躙されても、イフリートが消えるのを待つ以外、何も出来ないのが現状だ!」
イライラと王太子は頭をかきながら、アンバレに珍しく愚痴をこぼした。
「ですが、殿下… 過去の記録では確かにイフリートを撃退することができませんでしたが、今回はコレがありますから!」
アンバレはコンプレスから借りた、竜輝石の杖を王太子に手渡す。
「なるほど… この竜輝石の杖か! 杖からとてつもなく大きな魔力を感じる! 確かにコレがあれば、心強いことだが…」
王太子クリストフはアンバレから杖を受け取り、緊張した表情でゴクリッ… とつばを飲み込む。
普通なら王太子は後方支援はするが、危険な魔獣退治に直接、参加することはない。
だが、アンバレはあえてイフリートとの戦いに参加して欲しいと、杖を渡すことで王太子クリストフに伝えたのだ。
「恐らくこのイフリートとの戦いには、殿下のお力が1番、必要になります!」
聖女エクレラージュの導きか、それとも女神ルージュの導きかはわからないが… 私には運命としか思えない!
カルムと一緒に探し出した、騎士団の古い調査記録の内容がアンバレの脳裏に浮かぶ。
王太子クリストフの先祖、120年前の国王アドリアンは、王太子時代にイフリートの出現で魔法騎士団が全滅し、自身の親友でもあったオルドナンス公爵ロアンを失い、その経験から1つの考えにたどりついた。
『王家の血筋に、イフリートに対抗できる魔法の使い手の血を取り込む』という考えである。
王太子クリストフの母親が、身分の低い家柄でも側妃に選ばれたのは、強い魔力を持っていたからだが… 理由はそれだけではない。
王国内では珍しい、『氷結魔法』の使い手を生み出す、血筋だったからだ。
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