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51話 元部下たちと

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 神殿でおごそかな婚姻こんいんの儀式を終えると、ペイサージュ伯爵邸で晩餐会ばんさんかいが開かれる。

 招待客の男性陣はアンバレの元部下であり… 全員が豊かな魔法の才能に恵まれた、有能な魔法騎士のため、王立魔法騎士団の礼服を身に付けている。
 そんな彼らがアンバレと対面して、左目を黒布でおおい隠していても、呪毒じゅどくが浄化された奇跡的変化に気付かないはずも無く… アンバレは事情を説明する必要があると判断した。



 晩餐会ばんさんかいの前に同伴どうはんしたご婦人たちを居間に残し、アンバレは男性招待客のみ別室へ集め、ソレイユが起こした奇跡を簡単に説明する。

「沈黙の誓いを交しているから、詳しい事情は話せないが… 特別な方法でソレイユが一時的に聖なる力をえて、私の呪毒じゅどくを浄化してくれた! だが、ソレイユを王家に取られたくないから、今はこのことを黙っていて欲しい!」
 
「一時的とはいえ、聖なる力が使えたなんて… まさか、ソレイユにそんな力があったとは?! 実際に団長の顔を見ても… まだ信じられないよ」
 一番驚いたのは、ソレイユの幼馴染おさななじみであるカルムだった。

「お前の言う通り、彼女はあらゆる面で私の妻に相応ふさわしい女性だったよ」
 有能な元部下たちにアンバレは軽く笑って見せたが… その場にいる全員が、ソレイユが起こした奇跡が、さらなる騒動を巻き起こす前触まえぶれかも知れないと予想する。

「だから団長は婚姻の儀を急いだのですね? ソレイユ夫人を守る為に」
 細身の優男やさおとこで、剣の腕はいまいちだが、騎士団で一番、魔法を使うのが上手いフロワがアンバレにたずねた。

「そうだ!」
 アンバレがうなずくと… カルムが揶揄からかう。
 
「なんだ~っ!! てっきりオレは、ソレイユに子供が出来そうだから、団長が我慢できずに、結婚を早めたのかと思ってたぜ?!」

 婚約式の日、元部下たちの前でも気にもせず、ひまさえあればソレイユにキスをして、ギュウギュウと独占欲をあらわに、抱きしめていたアンバレの姿をカルムは思い出していた。
 
「カルム、その舌を切り落とされたく無ければ、私の妻を侮辱ぶじょくする言葉は2度とはくなよ?」
 アンバレは腰に下げた、剣のに手をかけ… カチッ… と冷たい金属音を響かせる。

 そう思うなら、人前でイチャイチャするなよぉ―――っ…!!! と、その場にいた元部下たち全員が、心の中でツッコミを入れた。

「そう言えば… 団長がまったく助けを求めないから、性悪聖女殿がしびれを切らして、ギャアギャアと騒いでいたから、王太子殿下に注意する必要がありますよ?」
 優男やさおとこフロワがアンバレに忠告すると… カルムが口をはさむ。

「団長が結婚したなら、王太子の嫉妬心は消えるのではないか?」

「騎士団に復帰しなければ、私には関係のないことだ」
 さらりと言って、アンバレはニヤリと笑った。

「え?! そんなこと言わずに治ったのなら、すぐに復帰しろよ団長~!!」

「いや、断る! いいか、カルム? 私はこれからソレイユとの新婚生活を、思いっきり楽しむつもりなんだ!」

「なっ?! オイオイ、本気かよ~?!」

「美人で可愛い花嫁を置いて、くさい魔獣の相手など、したくないからな!」
 アンバレは今までに無い、機嫌の良さで笑う。


 そのくさい魔獣の相手を、明日もすることになっている元部下たちは、微妙な顔をする。




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