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46話 家路 アンバレside

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 神殿から宿へ戻ると、アンバレはすぐにソレイユの侍女ディヴェールを呼ぶ。


「まぁ、ソレイユお嬢様! 旦那様、お嬢様はどうなされたのですか…?」

「今は眠っているだけだ、それよりディヴェール、急いで伯爵邸へ戻るから、ソレイユの荷物をまとめてくれ!」

「はい、旦那様」


 大急ぎでディヴェールに帰り支度じたくをさせ… その間にアンバレも自分の部屋に戻り、友人のカルムへ助力を求めようと、連絡用の幻鳥げんちょうを飛ばす。

「ソレイユを王家に取られないよう、守るには… 出来るだけ早く私と結婚をする必要がある…!」
 神官長に口止めをしたが… あのようすでは、恐らく近いうちに… 私の同意を取らずに高位神官に報告するだろう。
 神殿で神官長に沈黙の誓いを立てたため、私は聖女と聖なるこころみについて、カルムにもくわしくは話せないが… 以前は呪毒じゅどくまみれだった私の顔を見れば、カルムもある程度は理解するはずだ! 

 今はまだ、結婚前のため、ソレイユはジャルダン子爵の保護下にある。
 王国法では、例えアンバレがソレイユの婚約者でも… 他人であり、ソレイユに対して何の権利もない。
 結婚することで正式に夫となれば… アンバレはソレイユを保護する責任と権利が与えられ、父親のジャルダン子爵はその権利を失うのだ。

「強盗や追いはぎが横行する街道沿いを、老人の御者ぎょしゃとたった二人で、若い娘に長旅をさせるようなロクデナシの父親だ! 王家から何か言われれば、娘の幸せよりも… きっと保身ほしんを選ぶに決まっている!」
 アンバレは、一度も会ったことはないが、ジャルダン子爵について、正確な分析をした。

「私はとことん聖女とは相性が悪いらしいな…?」
 大きなため息をつき、アンバレも自分の荷物をまとめた。

 コンッ…! コンッ…! と扉をたたく音が質素な部屋に響き、ディヴェールがソレイユの帰る準備が出来たと呼びに来たのだ。

「旦那様、ソレイユお嬢様を起こした方がよろしいでしょうか?」

「いや、私が抱いて馬車に運ぶ… 私は来た時と同じように馬に騎乗きじょうして帰る、街道沿いは危ないからな!」
 少し前までケガで動けなかった自分を、過信する気はないが… 急に決まった旅で距離も短かったために、護衛はやとわずアンバレ自身がその役目を果たしている。



 ふたたびソレイユを抱き上げ、伯爵家の紋章付きの馬車へ乗せると… 宿の向かいがわにある、店の窓辺に飾られた膝掛ひざかけがアンバレの目に付いた。

「……」
 あれは確か…

 淡いグリーンの地に、小さなカモミールの花刺繍ししゅうが入ったひざ掛けを… オルドナンスの町に到着し馬車を降りてすぐに、ソレイユが興味津々きょうみしんしんで見ていた物だ。

『特別何か欲しい物があるわけでは無いのです… ただ、見たいだけなので…』
『なら、明日帰る前にゆっくり町を散策さんさくしてから帰ろう』
『ふふふっ… はい、アンバレ様!』

 ソレイユと約束していたのを思い出し… アンバレは目に付いた膝掛ひざかけを買い、馬車で眠るソレイユの肩にかけた。

「眠っている間に帰ってしまったら… きっと、がっかりするだろうなぁ…?」

「こんなに可愛らしい贈り物を、旦那様にいただいてしまっては、お嬢様も怒ってはいられませんよ」
 ディヴェールになぐさめられ、アンバレは苦笑いを浮かべる。


 静かに馬車の扉を閉め、アンバレも愛馬に乗り家路いえじにつく。



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