すてられた令嬢は、傷心の魔法騎士に溺愛される

みみぢあん

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45話 新たな脅威 アンバレside

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 アンバレの傷痕きずあとの奥深くまで入り込んだ呪毒じゅどくを、大量の魔力を使い浄化してしまったソレイユに、アンバレは恐怖を感じた。


「ソレイユ… ソレイユ…?!」
 ふたたび眠ってしまったソレイユの手をにぎりしめ、何度も名前を呼んだ。
 自分の傷などよりも、アンバレはソレイユが心配でならなかった。

「伯爵様! 聖なるこころみは成功したのですね?!」
 穏やかに笑っていた神官長の目の色が変わる。

「本当に、ソレイユには驚かされてばかりだ…」
 まさか… ここまで君の力が増幅されるとは、思わなかった?! これから困ったことになるかも知れない!

 ソレイユの手のひらを持ち上げ、キスを何度も落としながら、アンバレは不安が爆発しそうだった。
 
「まさかソレイユ嬢が、ここまで良い結果を残されるとは! 今まで聖女様は、1つの国に1人でも生まれれば、奇跡だと言われるほど極めて貴重な存在でしたが… こうして歴代の聖女様がたのお力を上手く借りられれば、聖なる力自体が稀有けうなものでは無くなるかも知れませんね?!」
 神官長は大きな期待で、瞳を輝かせていた。

「……っ」
 元騎士団長としてなら、この聖なるこころみが成功し、大喜びしても良い状況だが… ソレイユの婚約者としては、けして喜べない!

 過去の聖女と聖なる力にとらわれて、愛する女性を失うのではないかとアンバレは気が気ではなかった。
 目覚めていきなり聖なる力を使い、傷を浄化したソレイユは、アンバレの知るソレイユではなく、見知らぬ聖女そのものだった


「神官長殿… 私は心から喜ぶことは出来ません」
 何よりも、ソレイユが聖女の力を使ったことが、おおやけになれば… ソレイユを王家に、取り上げられるかも知れない?! そして王族の誰かと結婚させられる可能性も出て来る! クソッ…!!

 現在の聖女も王家が保護し、王太子の婚約者にして王家が聖なる力と、聖女の名声を独占している。
 神官長の言う通り、聖女とは国にとって奇跡の存在なのだ。

「確かに、ソレイユ嬢の負担は大きいかもしれませんが… ですが、これでたくさんの人々が助かるのなら、仕方ありません! お優しいソレイユ嬢なら、きっと理解して下さるはずです! 騎士団長をつとめる伯爵様も、おわかりでしょう?」
 ソレイユは自分の幸せや、心の平穏を犠牲にしてでも、人々に奉仕するのは当然だと、神官長は言い切った。


「神官長殿、私たちは宿へ帰ります!」
 苦痛の中で、ようやく見つけた愛する女性を… そう簡単に手放すものか!

 心は聖女エクレラージュにとらわれ、その身は王家に横取りされるかもしれないのだ。
 傷が治って良かったと、アンバレは素直に喜んではいられない。

 奇跡に浮かれた神官長を置き去りにし… 眠るソレイユを抱き上げ、アンバレは神殿の外へと歩き出した。


「え… 伯爵様?」
 急に険悪な態度に豹変ひょうへんしたアンバレに、神官長は戸惑とまどいながら後を追う。

「ああ、それと神官長殿! 最初に交わした聖女殿に関することは他言しない約束と同じく、あなた自身も聖女殿の遺体を使った、この聖なるこころみについては、絶対に秘密にして下さい! よろしいですね?」

 神殿の扉のてまえでいったん止まり、アンバレは威圧いあつ的に有無を言わせず、神官長にせまった。

「え? ですが… このような素晴らしいことを…」

「私とソレイユは、あなたに聖女殿のことを秘密にすると誓いを立てた! それはつまり、あなた自身も秘密にすると誓ったも同然だと私は受け止めていたが、違うのか?!」
 聖女に関することを、すべて秘密にしろと言うのなら、聖女の遺体を使ったことも… 聖女に関することなのだから、神官長もすべて秘密にするべきだとアンバレは言っているのだ。

「い… いえ、それは…」
「違うのか?!」

「は… はい、伯爵様のおっしゃる通りです」
 不服そうだが神官長は、一応認めた。

「あなたも、このことをおおやけにしたければ、私とソレイユの同意が必要だと、くれぐれも忘れないように!」
 神官長が喜びいさんで、勝手なことをしないように、アンバレはくぎを刺した。

「…分かりました」
 さすがに神官長も同意せざるおえない。


 アンバレは大きくうなずき、一度も振り返らずに神殿を去った。





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