すてられた令嬢は、傷心の魔法騎士に溺愛される

みみぢあん

文字の大きさ
9 / 92

8話 ペイサージュ伯爵邸

しおりを挟む

 馬車で2日ほどかけて王都へと入ると、南西部に位置するペイサージュ伯爵邸まで、さらに2時間ほどかかり、ようやくソレイユが目的地に到着した頃には、夕暮れ時になっていた。

 由緒ゆいしょ正しいペイサージュ伯爵家と同じぐらい… 古い歴史がありそうな、優雅なジェムジアン様式の邸宅前に、ソレイユを乗せた馬車がとまる。


「ソレイユお嬢様、お疲れさまでした」

「やっと着いたわね…? あなたもここまでご苦労様でした」
 ここがペイサージュ伯爵邸…

 御者ぎょしゃの老人に手を借りて馬車から下りると、ソレイユは伯爵邸を見あげた。
 外観は褐色かっしょくのレンガ造りのペイサージュ伯爵邸は、青空の下で明るい日がさす昼間なら、さぞかし美しい建物に見えたはずであるが…

「残念ね… もっと早く着いていたら良かったのに…」
 夕日が沈んで薄暗くなった世界で見ると… 何ともオドロオドロしい空気をまとっているように見えるわ? 幽霊ゴーストがたくさんいそう?! ここで私は暮らすのね?

 背中がゾクッ… として、腕に鳥肌が立つ。
 自分でも想像力が豊かなほうだと自覚があるソレイユは、苦笑いを浮かべた。


 御者の老人が頑丈がんじょうそうな扉に着いた金属製のノッカーを、ゴンッ… ゴンッ… とにぶい音を立てて打ち付けた。
 すぐに執事らしい初老の男性が出てきて、丁寧ていねいにソレイユの前でお辞儀をする。

「お待ちしておりました」

 重厚な扉を通り抜け玄関ロビーまで来ると、待機していた使用人に、ソレイユは自分の帽子と上着を渡した。

「ジャルダン子爵家から来ました、ソレイユと申します… 遅くなってごめんなさいね…」
 男性に軽くうなずいてから、ソレイユは自分の名を名乗った。

「執事のジェランと申しますお嬢様」
 顔を上げた執事のジェランは、ソレイユの顔を見ても、嫌そうな顔はせずニコリと笑った。

「……」
 良かった! 一応、私の挨拶は受け入れられたようね?

 執事のジェランにつられて、ソレイユもニコリと笑い返し、ホッ… と胸を撫で下ろす。

 子爵家がある地域で、一番格が高いと言われる学園に通い、淑女しゅくじょ教育を受けてはいるが、田舎出身のソレイユは相手が使用人であっても、王都で暮らす人だと思うと、気後れしていたのだ。


「伯爵様から急いでこちらを訪ねるようにと、指示をいただきました… それで私は侍女を連れて来ていません…! 私の侍女だった女性は夫がある身で… ですね… ええっと…  無理に同行させたく無かった…から…」
 貴族の娘ならば、専属侍女を実家から1人連れて来るのは当たり前なのに、私には侍女なんて、元々いないから…! 何より雇うお金が無い。

 執事のジェランから、アチラ、コチラへと視線をうつしながら、ソレイユはしどろもどろで事情を説明する。

「そうでしたか… それはご苦労なさったことでしょう?」
 ソレイユの不器用なうそに、ジェランは同情し、それ以上は何もきかず受け入れてくれた。

「……っ」
 もう… うそは苦手よ! 絶対、変だと思われているわ?!

 いつも侍女の代わりをしてくれた使用人のメグは、村で夫と暮らしているため、連れて来ることは出来なかった。
 ソレイユと古くから仕えてくれる、御者の老人と2人旅を余儀よぎなくされたのだ。

 
「そ… それで伯爵様はどちらに?」
 急いで来いと言ったのは、伯爵の方だとお義母様に聞いたけれど、なぜ姿を見せないの?! やっぱりお義母様のうそかしら?

 ソレイユは首をかしげた。

「はい、お嬢様… 旦那様は、今日はお身体のお加減が悪く、明日の朝ならお会いになれます」

「お加減? どこかお悪いのですか?」
 もしかしてこれが、お義母様ニヤニヤと笑っていた、この結婚の落とし穴かしら?!

「はい、魔獣から受けたおケガがまだ少し… 夜は特に悪くなるのです」
 ニコニコとほほ笑んでいた執事ジェランの顔がくもる。

「それはお気の毒に… 伯爵様は、おケガが原因で騎士団を辞められたと聞きました」
 そんなにケガがひどいのかしら? お義母様が私への意地悪の種に使うぐらいに?! お気の毒だだわ…

「はい、お嬢様その通りでございます」
「ではその時のおケガがまだ、完治していないのですね?」

「…はい」
 一瞬、ジェランは苦し気な表情をするが… すぐに穏やかな笑みを浮かべた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

処理中です...