すてられた令嬢は、傷心の魔法騎士に溺愛される

みみぢあん

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2話 ジャルダン子爵家2

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 義妹のリュンヌが父親の前で、ソレイユをはずかしめようと唐突とうとつに口を開いた。


「お姉様はきっと、領地の管理人とおしゃべりをしていて遅れたのよ、お母様!」

「リュンヌ… あなたはいったい何が言いたいの?」
 ああ、もう! また私を困らせるつもりね? 本当に意地悪な娘だわ!

 眉間みけんにしわを寄せて、ソレイユはリュンヌに視線を向けると…
 
「まぁ! ダメですよソレイユ! 未婚の女性が、また書斎しょさいで男性と2人でいたの?! なんて、ふしだらなのかしら?!」
 まゆをひそめて、義母はいかにもソレイユがけがららわしいと言いたげに、真っ赤な唇を白い手で隠した。

「でもお義母様、書斎しょさいの扉はずっと開けてありました! そばにはメグもいましたから… 2人ではなく3人でいました! 問題はありません!」
 こういうバカみたいなことを言われたくなくて、いつもメグと一緒に行動しているのに… 本当に嫌になるわ!

 メグとは、近くの村から通いで来ている使用人の名前だ。

「まぁ、白々しらじらしいうそをついて、お姉様は恥ずかしくないの?」
 リュンヌは心が透けて見えそうな、意地悪な笑みを浮かべる。

「ソレイユ! あなたは本当にしつけがなっていないわね?! 母親が病気だったから、娘に何も教えなかったせいだわ! 何てはしたないのかしら?」  
 王都で買った隣国風の絵が入った高価なおおぎを開いて、パタパタと義母は深く開いた胸元をあおいだ。

「亡くなったお母様は素晴らしい人でした、病気でも大切なことはたくさん教わりましたわ?! 例えばのように、人のモノを奪ったりしてはいけないとか」
 病気のお母様から、お父様を奪って愛人となったお義母様に、断じてはしたないなどと、言われたくないわ?!

 母を悪く言われてカッ… としたソレイユは、義母に辛辣しんらつな皮肉を言った。

「ほらね! そんな子供でも知っていることを、淑女しゅくじょに必要だと思うなんて、あなたのお母さまは、きっと心までんでいたのね!」
 が自分のことだと、理解していないらしく… 義母はソレイユをバカにして、笑いながら顔を横に振った。

「……っ?!」
 この人のおろかさは、本当に恐ろしいぐらい腹が立つわね?!

 義母には皮肉ひにくが、まったく通じていなくて、増々ソレイユはカッ… となったが…

「止めなさいソレイユ!」
 父が気まずそうに口をはさんだ。

 義母に通じなかった皮肉ひにくは、父には通じたようで… ソレイユの不満は少しだけ晴れた。

「……」
 領地の運営にあまり熱心ではない、お父様にかわり私が働かなければ、誰がお義母様たちのドレス代をかせぐというの?!


 継母デゼールの連れ子リュンヌは、王都で今年社交界デビューをはたした。

『王都で私は、今年のデビュタントたちの中で、1番人気があるのよ? だから美しいドレスを着るのは当然だわ!』
 デビューしていないソレイユに自慢げに話しては、リュンヌは優越感ゆうえつかんひたっているが… 父親が義母と再婚する前は、ソレイユもデビューする予定だった。

『ソレイユ、あなたには婚約者がいるのだから、社交界にデビューする必要は無いでしょう? ドレスを仕立てるのが勿体もったいないわ』
 淑女の教養が落第点レベルの義母デゼールは、恥ずかしげもなく… ドレス代をケチってソレイユのデビューを反対したのだ。

『お義母様、何をいっているの?! そんなことをしたら近隣の貴族たちに、私に何か問題があると思われてしまうわ?!』

 デビューどころか、義母の嫌がらせで、ソレイユは未婚のうちは夜会用のドレスさえ、勿体もったいないからと仕立てさせてもらえず…
『そんな余分なお金があるなら、婚約者がいない義妹のために、ドレス代をゆずりなさい』

 ドレスが無ければ情報交換の場でもある、近隣の貴族たちが開く晩餐会ばんさんかいにさえ、ソレイユは招待されても出られない。

『これでは領地運営にさわりが出てしまうわ! 社交界デビューはあきらめたのだから、せめてドレスだけは仕立てたいの! お父様、お義母様を説得して下さい!』
 父親に頼んではみたが…

『デゼールの言う通りにしなさい』
 父親は妻デゼールの機嫌を損ねたくなくて、取り合ってはくれない。


 とにかく今は、贅沢ぜいたくな義妹が早く誰かに嫁いでくれれば、ジャルダン子爵家の家計も少しは楽になると、ソレイユは黙って耐えているのだ。



「……」
 こんなみじめな生活も、王都の王立魔法騎士団に所属する、婚約者のリベルテと結婚すれば、すぐに終わるはずだわ! それまでは我慢よ?! 

 婚約者のリベルテは、代々この地方で治安維持につく騎士の家系ブルイヤール家の次男だが… 父親と同じ魔法騎士の血を受け継ぎ、魔法を使える素質があると神殿で判定を受けた。

 3年前に騎士見習いから正式な騎士へと昇格しょうかくすると、長男のカルムと同じく王都へ行き、リベルテは自分の父親が若い頃在籍していた、王立魔法騎士団に入団した。 
(魔法騎士団とは、王国内で出没する魔獣を退治するために魔法が使える騎士だけで構成された騎士団である)


 今のソレイユには、婚約者のリベルテだけが心の支えだった。

 義母や義妹に意地悪をされたり、父に無視されたりすると… 心の中でソレイユは、おまじないのようにとなえるようになっていた。


 『リベルテと結婚すれば終わる』と…




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