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31話 婚姻の儀2

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 ペルサル伯爵令嬢リアンナは、王都の大神殿でフラッドリー公爵家の当主になったばかりのアルベールと婚姻こんいんの儀式をおこなった。


 祭壇さいだん広間の参列者席をうめつくす人たちに見守られ、厳粛げんしゅくな空気の中ですすめられた儀式が、ようやく最後のめくくりまでくる。


「さぁ、輝ける女神の子供たちよ! 母なる女神に愛を誓うキスをささげ、祝福を受けなさい!」
 女神がまつられたおごそかな祭壇さいだん広間に響きわたる朗々ろうろうとした声で、リアンナとアルベールに誓いのキスをするよう初老の神官はうながした。

 アルベールが花嫁の顔をかくす長いベールをあげる。

 ベールごしに見ていたリアンナのぼやけた視界が、はっきりとすると… 参列者席に座るエヴァの姿を見つけ、リアンナは身体を強張こわばらせた。

「……っ!」
 エヴァ様…!

 リアンナの胸で急激に罪悪感がふくれあがる。

 婚約式以来、アルベールと先代公爵の配慮はいりょでリアンナはエヴァと顔を合わせることがなかったため、これまでリアンナが感じることがなかった『エヴァからアルベールを横取りした』 …という罪の意識がいっきに内側からあふれ出したのだ。
 
 誓いのキスをしようと、顔をよせたとき… リアンナがに気をとられていることにアルベールは気づき、リアンナの視線の先を見る。
アルベールもエヴァの姿を見つけ、リアンナが何を気にしているのかさっした。

「リア…」

「エヴァ様が… 私…」
 本当にアルと私が結婚しても良いの? だってアルはエヴァ様を愛しているのに。

 不安そうなリアンナにアルベールはほほ笑み、迷わず唇に羽毛うもうで触れるような誓いのキスをする。

「リア… エヴァの結婚相手が決まりそうだよ?」
 リアンナの耳元でアルベールはヒソヒソとささやいた。

「え…?!」

「スウィンフェン子爵家のジョアシャンがエヴァをずっと口説くどいていたから… エヴァもその気みたいだし、すぐに婚約が決まると思う」

「…っ!!」
 ウソでしょう? だってエヴァ様はアルを愛しているはずよ?!

 リアンナが言葉をうしない魚のように口をパクパクッ… していると、アルベールはもう一度リアンナの唇にキスをした。
 今度は少し長めの情熱的なキスだ。 

「リア… 今は君の夫に集中して… 僕もこれから妻だけに集中するから!」

「アル…!」

 アルベールは嬉しそうにもう一度、リアンナの唇にキスをする。


 誓いのキスを何度もする若い2人を見守りながら、神官は祭壇さいだん広間に響きわたる声で参列者たちに伝えた。

「たった今、2人の愛に女神は祝福をあたえ、2人を輝ける夫婦とお認めになられた――!!」



 参列者たちからいっせいに、祝福の拍手はくしゅがリアンナとアルベールに贈られる。










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