30 / 34
28話 告白3
しおりを挟む自分はエヴァの代理だから、結婚しても1年もすぎれば離婚すると思っていたリアンナは、自分が婚外子だとアルベールに話すつもりはなかった。
大切な2番目の友人に嫌われたくなかったからだ。
でも… アルベールが自分を信頼し、『僕の公爵夫人になってほしい』 …と求婚されては話は別である。
「私は伯爵の… 婚外子なの……」
私はアルが求婚を取りやめても… アルの選択を受け入れるわ。
今まで婚外子だとかくしていた私がいけないのだから!
リアンナのブルブルと震える手に… レースの手袋の上からアルベールはキスを落とす。
「ごめん… 知っていたよ」
「は?!」
「ローンヘッド男爵に聞いたんだ…」
もう1度手にキスをすると… アルベールは困った顔でリアンナを見あげる。
「……うそ!」
アルは私が婚外子だと知っていたの?!
「男爵も… 君の父親に無理やり結婚を押し付けられて、とても腹を立てていたから… つい、ポロリッ… と僕の前で愚痴をこぼしたというか…?」
「それは… ええっとぉ…?」
「僕は君との縁談が出る前から、知っていたんだ… ごめん… 君が話したくないなら、僕から話す必要もないと思って? 口の軽いエヴァには秘密だけどね」
「ああ…… そう言えば、公爵様は最初から私が婚外子だと知っていて、あなたとの結婚を申しこまれたのだったわ…」
「うん… それはたぶん、叔父上もローンヘッド男爵に聞いたからだと思うよ? 男爵とは僕の父の代からいろいろと縁があるから」
「アルは…… それで本当に良いの?」
信じられない! 私にとって、もっとも忌むべき問題なのに?! アルはすごく平気な顔をしているわ?!
「べつに構わないよ? ペルサル伯爵が上手に擬装しているから、叔父上も王国法では何も問題はないと言っていたし? 僕たちが気をつければ良いだけの話だろう?」
「信じられない!」
「だまっていて、ごめん! でも… 最初にすごく気になったのはね…… 実は……」
アルベールはリアンナの手からスルスルとレースの手袋をぬがすと、手のひらを上に向けた。
「アル…?」
「君の手がね… とても苦労をして来た手だと、初めて君とガセボで話した時に気づいたんだ… それで……」
リアンナの手のひらにある、淑女らしからぬ皮があつくなってできたマメを、アルベールは指でなでた後… そっとキスを落とす。
「……っ!」
ああ、そうだったわ! 手だけはどうしても、かくすことができなくて… ずっと人前では指先や手のひらが見えないように気をつけていたのに!
「気にしていたのなら、ごめん… 僕は君が婚外子でも信頼しているし、僕の公爵夫人になってほしいと思う気持ちは、少しも変わらないよ?」
「でも… ウソをついて来たのよ?」
「この場合は、君のウソと言うよりも… 伯爵のウソの尻拭いを君がしているという状態ではないかな? だから、君のウソでは無いと思うけどね?」
「私はニセモノの伯爵令嬢なのよ? アルは本当にそれでも良いの? 小さな村で使用人の娘として生まれた私でも?!」
「君は誰よりも完璧な淑女だよ? 文句なんて何もないさ!」
アルベールは清くすんだ空色の瞳で、リアンナにウソのない明るい笑顔を向けた。
婚外子だと知っている人たちがリアンナに向けてきた、軽蔑の影は微塵もうかんでいない。
「アル……」
本当に私で良いの?
「それで、リア… 僕の公爵夫人になってくれる?」
綺麗な笑顔でアルベールはもう一度、リアンナにたずねた。
「はい… 私で良ければ、あなたの役に立ちたいわ」
夢みたいだわ。 もしかすると夢かも知れない!
「リア… ありがとう!」
アルベールは立ちあがり… リアンナの額にキスをする。
「……」
リアンナは瞳に涙を浮かべて、ぼんやりとアルベールを見あげた。
「……リア」
ほんの少し躊躇した後… アルベールはリアンナの唇にもキスをする。
151
お気に入りに追加
255
あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

婚約者は一途なので
mios
恋愛
婚約者と私を別れさせる為にある子爵令嬢が現れた。婚約者は公爵家嫡男。私は伯爵令嬢。学園卒業後すぐに婚姻する予定の伯爵令嬢は、焦った女性達から、公爵夫人の座をかけて狙われることになる。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

婚約者が言い寄られようとも何も言えなかった公爵令嬢は、自分を変えようと決意する
andante
恋愛
婚約者が言い寄られようと不満を口にできなかった公爵令嬢。
このままではいけないと思い、自分を変えようと決意した。

それでも好きだった。
下菊みこと
恋愛
諦めたはずなのに、少し情が残ってたお話。
主人公は婚約者と上手くいっていない。いつも彼の幼馴染が邪魔をしてくる。主人公は、婚約解消を決意する。しかしその後元婚約者となった彼から手紙が来て、さらにメイドから彼のその後を聞いてしまった。その時に感じた思いとは。
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください
楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。
ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。
ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……!
「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」
「エリサ、愛してる!」
ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる